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家族が以前に読んだ本だったらしく、自宅の本棚に並んでいたのを何気なく手にとったら、ページをめくる手が止まらなかった。良質の青春小説であり、歴史物語である。
全編を通じて、数々の挫折を経ながらも、誠実かつ前向きに人生を歩み、大事業を成す主人公安井算哲の好感度が高い。読者に自然に元気を与えてくれる。主人公以外の登場人物も皆個性にあふれ、人としての魅力に溢れていて、明るい光が常に差し込んでいる。
ストーリーも起承転結的に上手く構成されている。ミステリー小説のように次のページ、次のページへと、読者を強く引っ張る吸引力に満ちている。この本を読んでいた3日間、スマートフォンのSNSは自然封印された。
そして、今回の題材となった「暦」という題材のスケール感。地上の距離を測り、天を観察し、そして算術を駆使してその理を明らかにする。人知を超えた自然の偉大さとそれに挑む人間の優れた英知。この地と天と人の魅力をこれほどまでに結びつける題材が他にあるだろうか。
筆者の冲方丁さんの小説は初めてだったが、平明な文章でありながら、イメージ豊かに場面や心情が記述されており非常に巧い。
今年は例年以上に読書量が少なく、特にフィクションはこれでやっと5冊目なのだが、今作品は『陽の名残り』とともに長く印象に残る今年の一冊になること間違いない。映画化もされているようなので、小説のイメージが薄れかけたころに見てみたい。万人に自信を持ってお勧めできる物語だ。