
指揮予定だったスラットキンさんが病気の為、急遽、代理でネヴィル・マリナーさんの指揮となりました。楽しみにしていたラヴェルのプログラムが変更になったのは残念でしたが、マリナーさんは今年2月のN響定期で聴いてとても良い印象があったので、別の期待を抱えてNHKホールに。その期待通りの演奏会となりました。
前半のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、セルゲイ・ハチャトゥリアンンさんのヴァイオリンが素晴らしかった。この方のヴァイオリンの音色は、濁りが無く本当に美しい。ぐーっと、引き込まれます。音楽は、機能的過ぎず、かといって感情過多ではない、高いレベルの演奏でした。この曲って、こんなに素晴らしい曲なんだと、改めて感じ入った次第です。
アンコールでは出身のアルメニア民謡から(と聞こえた)。素朴で荒涼感の漂う音楽で、一音符たりとも聞き漏らすまいという聴衆の集中力と繊細なヴァイオリン演奏が噛み合い、会場一杯に緊張感あふれる中でのアンコール演奏でした。
休憩後のブラームス交響曲第1番は、昨年秋にブロムシュテッドさんの指揮の余韻がまだ残っていたのですが、それを上書きしてしまう圧巻のパフォーマンスでした。重厚ながらも、決して鈍い重さではなく、筋肉質で引き締まっており、きびきびして、切れがある。聞いていて実に爽快でした。第4楽章は結構早めのピッチでしたが、形がしっかりしているので、却って無駄なく曲の良さが引き立ちます。弦と管のバランスも良かった。
N響の演奏は、メンバーひとりひとりがこの曲のポイントをしっかりものにした上で、その上にマリナーさんの解釈・曲つくりが乗っているという印象です。N響メンバーも順次、世代交代していると思いますが、歴代の指揮者たちがN響に残してきた財産をしっかりと引き継いでいるのが垣間見えます。そして、そこにマリナーさんのブラームスが更に層を重ねて行く。良い演奏が生まれないわけがないなあと、勝手に納得した次第です。
マリナーさんは年齢的にはブロムシュテッド翁の87歳を上回る90歳。驚異としか言いようがありません。演奏後のマリナーさんは実に満足げな表情で、奏者をたたえ、聴衆の拍手に応えてました。楽団員からも慕われてる様子が、メンバーの表情・態度にも表れています。実に気持ちの良い演奏会でした。来シーズンも11月のBプロで来日を予定されているようです。Bプロだけどチケット取りに行きたいなあ。また元気な姿を見せてください。
○11月定期公演Aプログラム
指揮:ネヴィル・マリナー
ヴァイオリン:セルゲイ・ハチャトゥリアン
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68
No.1793 Subscription (Program A)
Beethoven / Violin Concerto D major op.61
Brahms / Symphony No.1 c minor op.68
Neville Marriner, conductor
Sergey Khachatryan, violin