秋の週末、府中市美術館で開催中の企画展「生誕130年記念 藤田嗣治展 -東と西を結ぶ絵画-」に出かけた。藤田嗣治の絵は、独特の自画像など数点観た記憶があるが、個展として鑑賞する機会は初めて。
青年期の絵に始まって晩年まで、パリでヒットした「乳白色の下地」の絵や裸婦像など100を超える作品が展示されている。年代とともに画風が変わっていくのが興味深い。西洋画なのだけど、普段見る西洋画とは違い、和の香りが仄かに漂う不思議な印象が残る。また、第二次大戦中に「戦争画家」として作品を描いていたことなどは、初めて知るとともに、その凄惨な絵には足がすくむ。
《五人の裸婦》
《アッツ島玉砕》
一点一点の絵画作品が魅力的であるとともに、人・藤田嗣治の波乱の人生にもひきつけられる。西洋と日本の文化に挟まれ生きた一生は、アイデンティティという意味でさぞ苦労の多いものであったであろう。
何度か訪れている美術館だが、今回は展示もさることながら、その環境の素晴らしさに改めて感じ入った。(主催者側にはあまり喜ばしい事ではないのだろうけど)週末だというのに、混み具合も大したことなく、ゆっくりとマイペースで鑑賞できる。気に入った絵の前では暫く立ち止まり、じっくりと眺め、疲れたらソファに腰かけて一休み。時間も人も気にすることなく、静かで絵が発するメッセージだけを汲み取ることができる空間。美術鑑賞の楽しさそのものがここにあるという感覚だった。絵を見るってこういうことだよね、なんて分かったような気になる。
「ダリ展」も良いけど、それとは対照的な美術展であり、是非訪れることをお勧めしたい。12月11日(日曜日)まで。