その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

櫛田健児 『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』 (朝日新聞出版、2016)

2017-03-04 10:30:00 | 


 シリコンバレー発で生じているクラウド化、AI、IOT、フィンテックなどなど、イノベーションによる産業のうねりの根底にあるものをアルゴリズム革命と名付け、現状をリポートした本。「いま起きているのは、ソフトウエアによる「自動化」である。ソフトウエアのアルゴリズムによって人間の活動をキャプチャ(取り込み)し、トランスフォーム(変形)し、それをどれだけリプレイス(置き換え)できるか。あるいは、どれだけ人間の能力をオーグメント(拡張)できるか。それがアルゴリズム革命の本質なのである。」(p21)という。

 最終章の「日本企業がこれからすべきこと」が、スタンフォード大学のアジア太平洋研究所リサーチアソシエートとして、シリコンバレーと日本の橋渡しを仕事とする筆者のオリジナリティだろう。例えば、「外部の力を取り込むオープンイノベーション」でシリコンバレーとタッグを組むのが良いと言う。中でも「IOTは、ソフトウエアのアルゴリズムのみではなく、もの(ハードウエア)と連動しているので、スピード感や言語などの課題をクリアすれば、日本企業とシリコンバレーの組み合わせはかなりの成果をあげるものと期待できる」(pp200-201)とのことだ。

 シリコンバレーで起こっていることが平易で分かりやすい記述でレポートされ、首肯もできる。私自身の限られた経験とも符合する。しかし、内容は他の書籍、雑誌、ネットなどで、どこかで一度は目にしたような既知感がある。もう一つ新鮮味とパンチに欠ける気がするのが残念だ。IT分野に関わる仕事をしている人には強くはお勧めできないが、この世界のことを知りたい人には良い導入本になる。


【CHAPTER 1】アルゴリズム革命とAIのインパクト
●シリコンバレーは世界の姿を一変させる
●アルゴリズムで人間の活動を置き換える
●人工知能は人の仕事を奪うのか
●スケールしないビジネスは生き残れない
●次に破壊されるのはどの業界か
★シリコンバレーの強さの秘密1——循環する人材

 【CHAPTER 2】クラウド・コンピューティングの本質とは
●クラウドで人類の情報処理能力が豊富なリソースへ
●クラウドは巨大な設備投資で実現
●インフラとしてのクラウドの可能性
●クラウドは安全なのか
●豊富な情報処理能力はコモディティ化の波を作る
●大企業がクラウドを使いこなす日
★シリコンバレーの強さの秘密2——資金調達+インフラ環境

 【CHAPTER 3】IoTとビッグデータの真価とは
●あらゆるものが計測可能になる
●売りっぱなしモデルからの脱却
●日本的「ものづくり」とIoT
 ●ロボットのいる生活
●「規制」に関する幻想と事実
★シリコンバレーの強さの秘密3——失敗を次に活かす文化

 【CHAPTER 4】フィンテックの恩恵はあらゆる企業に及ぶ
●スタートアップが切り開く新しい金融サービス
●企業の資金調達が様変わりする
●決済手段が多様化する
●仮想通貨の技術で「信用確保」
●ロボアドバイザーの時代
★シリコンバレーの強さの秘密4——産学連携

 【CHAPTER 5】日本企業がこれからすべきこと
●外部の力を取り込む「オープンイノベーション」
●シリコンバレーで人脈をつくる
●トップがコミットし、現場に裁量を与える
●デザインとコンセプトを買うという発想
●ロボティクスに活路を見出す
●日本のものづくりの真の強みは何か
★シリコンバレーの強さの秘密5——政府が果たす役割

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