毎年、今年が最後になるんじゃないかと思いながら足を運ぶブロムシュテットさんとN響の演奏会。そして、毎年その若々しい指揮ぶりに驚嘆し、新鮮な感動がある。それは92歳となった今年も同様だった。
後半のブラームス交響曲第3番。何度も生で聴いているが、今までにない静かに、そして大きく胸動かされる演奏だだった。多くの人が書くように、ブロム翁の指揮は端正で、全く気どりや華美さはない。ただただ音楽をありのままに聴かせてくれる。純米大吟醸酒そのものである。削りに削った芯のみが残った音楽だ。かといって、たださっぱりしているというのとは違う。その音楽は滋味にあふれ、味わい深い。もう第1楽章からその奥深さにやられっぱなしだった。
N響のメンバーも翁が指揮台に上がるときは、いつもとは違う空気、感情が舞台の上に漂っているような気がする。集中度というような言葉だけでは表せない気持ちを感じる。爆演と呼ばれるような類の演奏ではない。でも何か憑かれたようとでもいうのだろうか。
オーボエ、クラリネット、ホルン等のソロ陣の妙技には耳がそばだった。そして、弦とのアンサンブルは室内楽のような響きと香りが漂う。弦と管のバランスも心地よい。なんと、美しい音楽なのだろう。
第3楽章ぐらいから、指揮するブロム翁の後姿を見、そこから紡がれる音楽を聴いていて、不意に涙がこぼれる。何に感動しているのかも良く分からない。でも、最上の時間・空間の中に自分が身を置いているのは確かだった。ブロム翁とN響の一つの完成形がここにあるのだろうと思った。
第4楽章が終わる。翁の腕はなかなか下がらない。完売のNHKホールの聴衆からは物音ひとつしない緊張感に満ちた静寂が続く。30秒ほどたって、腕が下りた。会場の方々からブラボーと一杯の拍手。それも、爆演後の熱狂的拍手とはちょっと違う。大きいが静かな拍手。この演奏に相応しい拍手だと思った。
2019年11月17日(日)NHKホール
指揮│ヘルベルト・ブロムシュテット
ピアノ│マルティン・ステュルフェルト
コンサートマスター│篠崎史紀
ステンハンマル ピアノ協奏曲 第2番 ニ短調 作品23[30′]
ブラームス 交響曲 第3番 ヘ長調 作品90[40′]