開演10分前に当日券を購入し慌ててホールに駆け込んだ瞬間、わが目を疑った。「あれ、なんか違うところに来た?」3階席なのだが、目に入るのは空席ばかりで、人がいない。もちろん全くいないわけではないのだが、ぱっと見、座席の2割も埋まってないように思われた。小学生の時に従兄と出かけた川崎球場の近鉄対ロッテの試合のようである。
とりあえずチケットに印字された座席を確認だけして、移動して半信半疑で3階席の最前列から1階席を見てみた。やっぱり、いない。これまでクラシックの演奏会はここ10年できっと200は出かけていると思うが、この空席率は経験がない。当日券の購入時には残チケットは20ぐらいだったのに、一体どうなっているのだろう。なんか狐につままれたような感覚と、ドイツから出張演奏して来てくれるオケに対して、何か申し訳ない気持ちで一杯だった。
しかし、救いはこの寂しい客席をものともしない、クリスチャン・ヤルヴィとオケは目茶熱い演奏だった。前半のブラームス交響曲第一番。始まるや否や、その重心低く、厚みのある音圧に圧倒された。アンサンブルは在京オケのような一糸乱れぬというわけではなく、繊細さは物足りないが、このパワー、推進力は日本のオケでは滅多に経験できない。思い出したのは、フィジカルを売りにぶつかってくる南アフリカのラグビー。押しまくられた。
後半のベートーヴェンの交響曲第5番は私的にはここ数年でも稀有の「運命」だった。ブラームスでやや物足りなかったアンサンブルも5番ではぴしっと揃い、曲がコントロールされる。南アフリカのモールそのものだ。オケの音は重心低く重厚なのだが、クリスチャンが作る音楽は実に明るく軽快。この絶妙なミックスで、とってもエキサイティングな音楽が生まれていく。人が少ないせいかホールの反響も良く、3階席とは思えないほど一つ一つの音が良く聴こえた。第4楽章の躍動感は素晴らしく、終わりに近付くのが残念で仕方ない。いつまでもこの空間に身を委ねたかった。
終演後はブラボーの嵐。数少ない聴衆ではあるが、拍手は決して満員のホールに負けない熱さ。勿体ないなあ~という思いでいっぱいだ。アンコールにはステンハンマルから。「運命」の後に相応しい、爽やかなデザート。
10月はプライベートでいろいろあって、2つのN響定演も棒に振り、この日が初めての演奏会。心身ともに最低のコンディションが続いていたが、この日の「運命」から前向きのパワーを貰った。
★MDRライプツィヒ放送交響楽団
2019年10月29日(火)19:00開演 すみだトリフォニーホール 大ホール
指揮:クリスチャン・ヤルヴィ
曲目:ブラームス 交響曲第1番 ハ短調
ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調「運命」