一見すると、「イラスト&図解でわかる」と言ったタイトルや「第1章 DXとは何か」で始まる章立ては、ビジネス実用書によくあるカテゴリー入門書のようだが、中身は入門書でも実用書でもない。
解説されるトピックスの射程が広く情報量が多いので、入門者は消化しきれない可能性がある。具体的なDX導入手法や活用方法が解説してあるわけではないので実用書でもない。一方で、単なるDXビジネスや技術の表層的な解説だけなく、そのDXの本質的な意味合いや対応策まで触れられているので、読者は読みながらじっくりと考えることも求められる。読みごたえ満載だが、なかなか向き合い方が難しい本である。「教養書」と思って読むのが良さそうだ。
個人的には、これから発展する産業としてスぺ―シャル・ウエブ(空間ウェブ)産業なるものが出現しつつあるという情報は新しかった。スぺ―シャル・ウェブとは、現実世界に仮想空間を重ね合わせることができる(ミラーワールド)サービス、プラットフォーム、コンテンツを提供する産業とのことだ。ふわっと宙に浮いたような話に聞こえなくもないが、米国のマジック・リープ社など具体的にプラットフォームを構想している企業や、プラットフォーム上でのアプリについては実験段階に入っている企業もあるという。
最後の2章(7、8章)は、筆者の思いを述べた章だが、エッジがたっていて興味深い。例えば、DXが変えた既存のゲーム・ルールとして、1)資金調達の方法が変わった、2)すべては無料になっていく、3)日本を市場としていたら生き残れない、4)雇用の終焉が触れられている。私の勤め先や産業にとって、DXで変わったルール、これから変わるかもしれないルールってなんだろうと考えた。
個人に対するキャリアのアドイスもユニークだ。1)好きを追求する、2)できると信じる、3)様々な経験をする、4)空想力を豊かにする、5)不労所得を踏み出す方法を追求する、の5点。やや抽象的すぎるのと、シリコンバレーの匂いが強いので日本人の心性に合うかどうかは疑問なところはある。だが、このアンマッチが日本のDXの遅れの原因ともい言えるだろう。
一貫した筆者の主張は、DXが指数関数的な変化を生み、既存のビジネス・産業を淘汰していく。企業も個人もその波にしっかり乗って、変わっていかなくては滅びるよ、ということだ。目新しい主張ではないが、本書の幅広い事例に触れることで、よりリアリティを持って変化が感じ取れる。事例の深みには欲求不満も残るところもあるが、自分のDXについての認識枠組みが一回り大きくできた一冊だった。
【目次】
第1章 DXとは何か
第2章 デジタル技術が生み出したビジネスモデル
第3章 今後、注目すべき基盤テクノロジー
第4章 ディストラプトされる産業
第5章 これから発展する産業
第6章 変化の本質
第7章 個人・個人のDX生き残り策