その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ジャレド・ダイアモンド、 ポール・クルーグマン 他著、大野和基 編『コロナ後の世界』(文春新書、2020)

2021-03-09 07:30:23 | 

国際的に著名な識者たちが、コロナ禍が与えた社会・経済・人に対する影響、そして今後の未来について語った一冊。インタビューのまとめ本なので、平易で分かりやすい反面、読者に深い思考を求めるつくりではない。また、本書はコロナ前に企画されていたようで、「コロナ後の世界」という本のタイトルとは違って、自説の紹介が中心の人もいる。

いわゆる欧米識者の見方を知識として広く浅く知るには良い。だが、この問題はまさに世界的な視野で考える必要があるので、本書のスコープ外ではあるが、非西欧の価値観でこの現実はどう分析できるのかを知りたくなる。

備忘も兼ねて、つまみ食い的に、各論者の主な主張をまとめると以下の通り。

ジャレド・ダイヤモンド:

人口減、高齢化、不景気の日本を救うのは、定年制の廃止、移民の受け入れ、女性の開放。更に重要なのは隣国、中国・韓国との関係改善。次の世代のために、我々は「投票」を通じて政治をまともなものしていくことが大切。

マックス・テグマーク:

パンデミックとの戦いは情報戦であり、AIによる接触履歴の取得・分析への活用や、ワクチンや新薬開発への応用が可能となる。一方で、AIと軍事の組み合わせは大きなリスクとなる。また、世界の経済的格差を広げる可能性もある。

人間の知能を超える「汎用型」AIは1回の失敗が核戦争を引き起こすなどの惨事を招くなる可能性もあり、安全工学や危機管理が大切。ポジティブなビジョン、お互いの国境を尊重し、多くのいいアイディアを共有できるグローバルな協定を作るなどにより、AIを素晴らしいテクノロジーにしていく必要がある。

リンダ・グラットン:

ロック・ダウンにより、デジタル・スキルの向上や新しい生活様式が広まるというメリットもあった。今の平均寿命が延びるこれからの世の中では、スキル、人間関係と言った「生産性資産」、肉体的・精神的な健康などの「活力資産」、様々な環境変化に対応する「変身資産」の3つの無形資産が大切になる。更にポストコロナ時代には、透明性、共同創造、忍耐力、平静さの四要素が大切となってくる。長寿化により、家庭の在り方も変わり、女性の社会新進出は必至。日本はその点、古い価値観に囚われており男性と企業は意識改革が必要である。

スティーブン・ピンカー:

新型コロナにより世界は悪くなり、未来は暗いという認識が広まっている。これらの背景には、ネガティブなニュースばかりを流すジャナーリズム、データの理解不足、インターネットのフィルターバブルらがある。データを理解することで人間が落ち入りやすい「認知バイアス」を回避しなくてはいけない。人間は科学や理性を大切にして、危機を乗り越え進歩をしてきた。これからも楽観主義にたって立って生きていくべきである。

スコット・ギャロウェイ:

キャッシュを貯めこんでいたGAFAがコロナ禍で益々攻勢を強めている。公共サービス化し、独占的な市場支配力を強め、新興企業の市場開拓余地やイノベーションを狭めている。更に「怒り」による「つながり」で社会の分断も引き越している。政府の規制が強まるだろうが、決定打にはなりにくい。GAFAと中国のIT企業の2強の世界となっていくことが予想されるが、我々はGAFAに頼った社会・生活について今一度見直し、用心深くなる必要がある。

ポール・クルーグマン:

コロナ禍による景気後退で、一時的な経済のこん睡状態に陥っている。迷わず、各国の中央銀行は強力な金融緩和策(バズーカ砲)を打つべき。コロナについては、経済活動再開よりも、まずは国際協力体制を築いて封じ込めるのが大切。コロナが終息してもリセッションは続き、経済の回復は時間がかかるだろう。日本はアベノミクスと消費税増税と言いう矛盾した経済政策で失敗したが、新型コロナ対策では大胆な財政支出を決断する必要がある。

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