サブタイトルにあるように、日本ラグビーが世界で勝利するためのオリジナリティを追求した一冊。筆者は、主に学生ラグビーの世界で長く指導の実績を積んできた方で、業界では名の通った方のようだ。
ラグビーはトップリーグ(現ジャパンラグビーリーグワン、来年度からさらに変更?)の試合を時々見に行っている。なので、ラグビーのプレイ・戦術論をより知りたいという思いと、スポーツ指導者による書籍はビジネスにも参考になることが多いので実益にもつながれば、という思いで手に取った。
いつもただ漫然とゲームを観戦している私には、本書のプレー論・戦術論は、どのくらい革新的なのか、的を得ているのかが、正直判断がつきかねた。一方で、指導論やチーム論は、仕事の考え方と通じるところ大で、ヒントになることも多い。
例えば、結果を残せないチームは「自分たちのできないことをやろうしていないか。自分たちが何者であるかを知り、何ができるかを踏まえたうえで、どう戦えば勝てるかを練り上げること。そのために必要な練習を絞り込み、限られた時間の中で集中的に取り組むことが、勝利のための絶対条件。すべてをやることはできない」と言い、「結果を残すチームは論理的に勝利への道筋をつけられるチーム」(pp15-17)とあるが、これなんて企業戦略論そのものだ。
マーケティング戦略にも通じる。「こういう状況に対応できるためのこの練習をしようという発想ではなく、「そういう状況を創らせないためにはどうすれば良いか?」を考えそのために練習する(P22)。既存市場で戦うことでなくて、市場の条件を自ら作るべきというマーケティング論に通じる。
選手と話をするときは「2人以上に向かって話をしてはダメ。必ず1対1で「君は」と話しかける。今の選手には押し付けではなく自分で判断させる。押し付けると自分の判断で「自分にはできません」と自己判断で拒絶される。「こういうやりかたもあるよ」と提案して、それをやればこんなにうまくプレイできることを説明し、理解させたうえで、選手に判断させる。そうすればきついトレーニングも自らやる。これは、職場の若手との対話に悩むおじんさ達への職場で使えるコーチング論だ。
ラグビー経験者ではないので、プレイ論や戦術論は実感が伴わないのだが、キックの効用、セットプレイに持ち込む大切さ(特に弱いチーム)、間合いにおける「接近」の大切さなどは、観戦の時に大いに参考になる。
次のフランスでのワールドカップがますます楽しみだ。