今年3月にアントネッロによる「ジュリオ・チューザレ」(指揮:濱田芳通)を体験ばかりだが、このバロック・オペラの名作を1年に2度も観れるとは、なんとも恵まれた1年である。
前回は川口リリアホールという中規模ホールであったが、今回は新国立劇場のオペラハウスという大箱。違った形でこのオペラの面白さ、素晴らしさを味合わせてくれた公演だった。
歌手陣ではクレオパトラを演じた森谷真理さんの声量と美しさが両立した歌唱力と迫真の演技力による存在感が圧倒的だった。華があり、クレオパトラにぴったりだった。ニレーノ役のカウンタテナー村松稔之さんの歌唱と演技も舞台を盛り上げた。この2名の主従コンビが軸になっていたと感じる。コルネーリア役の加納悦子さんをはじめ、他の日本人歌手陣も安定の歌唱だった。題名役のマリアンネ・ベアーテ・キーランドさんは、デリケートな声で時折ハッとするような美声が聴きとれたが、私が陣取った4階席には声が届かないことが多く、その真価は分かりにくかった。男装姿が美男で、まさにシーザーの彫像のように秀麗であったのが印象的。
ピットに入ったのはリナルド・アレッサンドリーニ指揮の東フィル。東フィルに古楽器部隊があるのかと驚いたが、後から知ったところによると通奏低音に応援部隊が加わっていたとのこと。リナルド・アレッサンドリーニさんは初めて接する指揮者だったが、モンテヴェルディの全作ティクルスも指揮されるなど古楽の経験豊かな方で、オケからこの音楽の美しさを存分に引き出していてうっとりだった。
舞台が、現代の博物館の倉庫に見立てた、読み替え演出。美術品や展示物、そして場が、ストーリーにうまく絡み、効果的に活用されていてセンスある演出だった。
4時間半の上演時間は長いが、長さを感じさせない。充実した音楽・観劇体験であった。
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
ジュリオ・チェーザレ<新制作>
Giulio Cesare / Georg Friedrich Händel
全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
令和4年度(第77回)文化庁芸術祭主催公演
公演:2022年10月5日[水] 17:00
予定上演時間:約4時間25分(第1幕90分 休憩25分 第2幕60分 休憩30分 第3幕60分)
スタッフ
【指 揮】リナルド・アレッサンドリーニ
【演出・衣裳】ロラン・ペリー
【美 術】シャンタル・トマ
【照 明】ジョエル・アダム
【ドラマトゥルク】アガテ・メリナン
【演出補】ローリー・フェルドマン
【舞台監督】髙橋尚史
キャスト
【ジュリオ・チェーザレ】マリアンネ・ベアーテ・キーランド
【クーリオ】駒田敏章
【コルネーリア】加納悦子
【セスト】金子美香
【クレオパトラ】森谷真理
【トロメーオ】藤木大地
【アキッラ】ヴィタリ・ユシュマノフ
【ニレーノ】村松稔之
【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団