ファンが固唾を飲んで、ブロムシュテット翁の来日実現の報せを待ちわびた先週。きっと、水曜日の郷古さんのツイートが初報だったのでは。それでも公式発表が気になっていた人も多いと思う。が、皆の心配などまるでよそ事のように、演奏会は予定通り実現した。それでも、「この目・耳で確かめるまでは・・・」と思っていた人たちの気持ちが一杯籠った、翁がマロさんのエスコートで現れた時の大拍手だった。
マーラーの交響曲第9番の一本勝負。翁は椅子に座っての指揮。ステージ、聴衆が一体となったような緊張感で始まった。冒頭いきなり「おっと~」と思うような金管のずっこけがあったものの、まるで何もなかったように、高い集中度が保たれて、気持ちの入った演奏が展開された。
この楽曲について語る知識も技能も持ち合わせてない私だが、翁が振るマーラー9番は純度高い、透明感あふれる音楽に聴こえた。そして、何よりも翁の棒に応えようとするN響奏者の真剣度と情熱が発せられる音が塊で飛んでくる。フルート、ファゴット、オーボエ、ホルンなどの個人技や弦のアンサンブル、素晴らしいところを取り上げればきりがないのだが、この日は、なによりもN響のチーム力が前面に出ていた演奏だった。
とりわけ、第4楽章は圧倒的だった。私は深い森林の奧に湧いた透明な泉を覗くような感覚だった。水面に自己の内外面が反射し、自分に跳ね返り、色んな想いが脳裏に行き来した。目頭が熱くなる。
曲が終わって暫くの静寂の後、堰を切ったように大拍手が沸き上がる。舞台袖に下がれないので、翁は椅子に座ったままで、楽員を賞賛し、聴衆の拍手に応える。マロさんにエスコートされて退場するものの、拍手は収まらない。私自身、言葉無い感動で一杯の中、拍手をずーっと続けたいが、これ以上翁を呼び出して負担かけて良いものか。こんな時はどうすればよいのか、迷う気持ちのままでいるなかで、過去数十年見たことのないほど多数の聴衆のスタンディングオベーションが見える。マロさん、郷古さんに付き添われて2度に渡るソロ・コールとなった。
正直、演奏についてはいつまで記憶に残るかはわからない。でも、今日の、指揮者、演奏者、聴衆が一体となって、過ごしたこの1時間半の音楽空間・体験は、終生忘れることは無いだろう。
定期公演 2022-2023シリーズAプログラム
第1965回 定期公演 Aプログラム
2022年10月16日(日)開演 2:00pm(休憩なし) [ 開場 1:00pm ]
NHKホール
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
曲目:マーラー/交響曲 第9番 ニ長調
Subscription Concerts 2022-2023Program A
No. 1965 Subscription (Program A)
Sunday, October 16, 2022 2:00pm [ 1:00pm ]
NHK Hall
Conductor: Herbert Blomstedt
Program
Mahler / Symphony No. 9 D Major