待ちに待ったラトル指揮のロンドン交響楽団(LSO)の演奏会に出かけました。
期待を大きく上回る、記憶に残る演奏会でした。2008‐2012年のロンドン駐在時に30を超えるLSOの公演に接してきました(当時の音楽監督はゲルギエフ)が、過去に聴いた中でも、有数の感激の演奏会だったと断言します。
今回は2015年のハイティンクとの来日以来のLSO。見知った奏者さんたちが懐かしいとともに、リッキー・ジャーヴェイスを格好良くした感じのコンマスさんなど、(私には)新顔さんも居て時の流れを感じるものでした。
冒頭のベルリオーズの序曲「海賊」とドビュッシーの「リア王」は、私は初体験の楽曲です。ラトルは舞台袖に下がることなく、多少の間を置いてから2曲が演奏されました。「海賊」はこの日のエキサイティングな演奏会を予感させるメリハリ効いたエキサイティングな演奏で、ワクワク感が高まります。リア王は、私の最も好きなシェイクスピア作品であることもあり、2曲のみの抜粋なのが残念でした。
そして、前半戦の愁眉はラヴェルのラ・ヴァルス。変幻自在に音楽が動く、夢心地の異次元空間でした。私にはこの曲はデュトワ/N響の印象が強いのですが、デュトワのふかふかソファに横になるような感覚の音楽とはかなり趣が異なる演奏です。各パートから発出される音はとってもクリアでシャープ。とりわけ金管陣のホールを突き抜けるような音が印象的です。それでいて、作品の持つ気品と茶めっ気が併存している。新しく聴いたラ・ヴァルスでした。
そして、後半のブルックナーの交響曲第7番も、オケの個々の技量の巧さと強さ、そしてそれらが高次元で統合されたアンサンブルで、圧倒的な演奏。ラトルさんのブルックナーは明確で、構造がはっきりしていて、精神や宗教性よりも音楽性が強調されたものに聴こえます。
ラ・ヴァラスの時にも感じたことですが、LSOの音が、私が記憶しているものよりも、ずっとデリケートで、シルクのような柔らかく繊細なものに感じられたのはサプライズでした。よりベルリン・フィルやコンセルトヘボウの演奏に感じる感覚に近いもので、これはやっぱりラトル影響なのかな?
何名かのツイッターでのフォロワーさんも書いておられましたが、日本のオーケストラも随分力をつけてきたと思うのですが、地力の違いを見せつけられたというのが、私も感じたところです。サッカーで言うと、やっぱりワールドカップには出ているものの、予選リーグと決勝トーナメントの違いがあるなあと思ってしまいました。
終演後は熱狂の拍手。ブラボー禁止のはずですが、何人から興奮のブラボーが出ているのも聞こえてきました。気持ちは大いにわかりましたね。
下世話な話ですが、高額な海外オケの来日公演はやっかみ半分で無視してきている私でしたが、今回は前代未聞の2万円を超える金額を払ってチケット(それでも3階席)を入手。その価値は十二分にあったと認めざるを得ない、最高の2時間でした。
日程:2022年10月07日 (金)19:00 開演 (開場18:00)
会場:東京芸術劇場コンサートホール
曲目:
ベルリオーズ/序曲『海賊』作品21
ドビュッシー/劇音楽『リア王』から「ファンファーレ」、「リア王の眠り」
ラヴェル/ラ・ヴァルス
ブルックナー/交響曲第7番 ホ長調 WAB107(B-G.コールス校訂版)
出演:
サー・サイモン・ラトル(指揮)
ロンドン交響楽団(管弦楽)
London Symphony Orchestra
2022.10.07 Fri.19:00
Concert Hall
Program
Berlioz: Overture "Le corsaire", Op.21
Debussy: King Lear pieces, "Fanfare", "Le sommeil de Lear"
Ravel: La Valse, Poème choréographique pour orchestre
Bruckner: Symphony No.7 in E major, WAB 107
Artists
Sir Simon Rattle, Conductor
London Symphony Orchestra