筆者は、日本企業の強みである「現場力」の重要性を20年以上にわたって訴えてきた「現場力おじさん」(敬意を持って勝手に名付け)である。その筆者が、昨今の日本企業の現場力の劣化を憂い、「現場力は死んだ」とまで言わざるを得ない状況が日本企業を覆っていると述べている。本書は、様々な事業環境の変化を踏まえ、「新しい現場力」を構築する必要性について論じる。
本書で言う「新しい現場力」とは、①競争戦略、②現場力、③組織・カルチャーという事業経営の3つの要素が、「経営理念・ビジョン」によって一貫して繋がっているものである。本書では、その具体的な内容や実践企業の例が紹介されている。
正直、これらのフレームワークは既存の経営理論の焼き直し感もあるが、本書の指摘にはいくつか気づかされる点があった。
後半では「新しい現場力」を実現するために必要な「新しいリーダーシップ」について解説されている。「ビジョナリー」と「キャプテンシー」の2つを備えた「溶け込むリーダーシップ」が重要であるとの指摘だ。キャプテンシーとは、スポーツチームにおけるキャプテンのように「フィールドで汗をかき」「ハンズオン(自ら参加し、手を動かす)」で動くことだ。「新しいリーダー」には監督とキャプテンの2つの役割が求められるのだ。私自身、これまで欧米の起業家経営者たちと接してきた体験から常に感じていたのは、まさにこのキャプテンシーの強さであったため、この主張には大いに賛同できる。
また、これは野中先生の主張の紹介ではあるが、日本企業をダメにしてきた3つの過剰についても全くその通りだと思う。「分析の過剰」、「計画の過剰」、「管理の過剰」である。これは、まさに「あるある」である。
キャプテンシーとは少し異なるが、「経営者は数字を語るな。『大義・大志』を語れ」というのも非常に納得できる意見である。「パーパス経営」というバズワードもここ数年の流行りではあるが、「大義・大志」と言った方がしっくりくる。数字や個々の事業戦術ももちろん大事だが、働く者としては、リーダーには大義・大志を語ってもらいたいと強く感じる。
非常に読みやすいので、出張時のお伴に良い。既知のことも多いかと思うが、どこか自分の関心にひっかかるビジネス・パーソンは少なくないと思う。