★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

クリムゾン・レーキ 8

2009年10月23日 09時16分08秒 | 小説「クリムゾン・レーキ」
         ◆

「ショートヘアで小柄で、それに今風の若い娘ですね…はい、泊りですね、承知しました。こちらのほうから掛け直しますので、受話器を置いてしばらくお待ち下さい」
 事務的な電話の声は、慎二の電話番号を確認すると、そう言って切れた。
 待つこともなく、折り返しの電話があり、慎二のマンションの場所を聞いてきた。それからピザの宅配並みの早さで、慎二の部屋のチャイムが鳴り、ドアを開けると、ショートヘアでスリムな若い女の娘が立っていた。
 黄色のタンクトップに黒のレザーのタイトなミニ。背中には黒いリュック。
 繁華街のハーゲン・ダッツでソフトクリームでも舐めていそうな、高校生でも大学生でもOLでもない、今風の女の娘のステレオ・タイプ。

「おじゃましま~す」
 女の娘は白いサンダルを脱ぐと、慎二の横をすり抜けて部屋の中へ入った。
 揺れた空気の中にプアゾンが香った。
「電話借りていいですか?」
 異様に大きな目が慎二を見つめる。
「ああ…」
 慎二は目顔で電話機の場所を示す。
 女の娘は番号をプッシュして、目的地に到着した旨を告げて電話を切った。  

「あのう前金になりますけど…」
 再び大きな目で慎二に促す。
 慎二は、サイドボードの上に、マネークリップで止めて置いてあった紙幣の中から、三枚を抜いて彼女に手渡す。
「前に、ここに来たことある?」
 慎二は聞いた。
「いいえ…どうして?」
「いや、いいんだ」
「シャワー、どうします?」
「僕はさっき浴びたからいい」
「じゃあ、わたし浴びて来ようかな」
「どうぞ。バスルーム、そこだから」
 慎二はバスタオルを渡しながら言った。

 5分ほどで、女の娘はバスタオルを巻いて出てきた。
 慎二は缶バドをグラスに注いで女の娘に差し出した。
「ありがとう」
 女の娘はベッドに腰掛けて、一気に飲み干した。
 窓の外には夜も眠らないツインタワーが、テクノロジーの輝きを放っている。
 泊まりということもあり、女の娘は長めのTシャツに着替えて、慎二が勧めるままに、ビールのグラスを重ねた。

 慎二はステレオにCDをセットした。
 静かなピアノが流れる。
「なんていう曲?」
「ショパンの『別れの曲』」
「いい曲ですね」
 女の娘は、強烈な眠気から来るあくびを噛み殺しながら言った。
コメント
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