★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

クリムゾン・レーキ 10

2009年10月28日 10時34分21秒 | 小説「クリムゾン・レーキ」
 バスタブのお湯が、あの時と同じ色に染まって揺れている。
 突然、慎二の胸の中に、言いようのない疎外感が芽生えた。
 波紋のように広がった疎外感は、焦燥感へと形を変えた。
 強迫観念が慎二を刺激しだした。
 慎二は洗面器に残した絵具を、両手で女の娘に塗り付ける。女の娘は気持ち良さそうに眠ったままだ。目覚める気配はない。
 小麦色の皮膚が剥がれるように、顔が、首が、肩が、腕が、背中が、乳房が、腹が、尻が、性器が、脚がクリムゾン・レーキの血の色に変わっていく。
 女の娘が終わると、今度は自分の全身に塗り付ける。        
 ヌルヌルとした感触。
 慎二の全身を駈け巡る、ネオンの点滅のような寂寥感、疎外感、焦燥感、切迫感、嫌悪感、麻痺感、高揚感。 
 それらすべての感情は渦を巻くように、快感へ収斂しようとしていた。 

 慎二は二度ほど深呼吸をしてから、ゆっくりとバスタブに入る。
 腰を下ろして首までお湯に浸かる。
 目の前で揺れる血の池地獄。
 壁にもたれて眠る、子宮から出てきたばかりの女の娘。その大きく開かれた両脚の間から流れ出すクリムゾン・レーキの初潮。思わず立ち上がる。それと同時に、強烈な下腹部の痺れが硬直を破裂させ、快感の白い飛沫が何度も宙に放物線を描いた。

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