会社へ行って休職願を出し、簡単な業務の引き継ぎをして、外へ出たのは暑さのピークの午後2時頃だった。
平日のビジネス街は、異邦人となった慎二に対して、いかんなくその底意地の悪さを発揮した。
換気孔から吐き出される熱風は、悪魔の吐息のように慎二の頬を撫で、アスファルトの舗道は、灼熱のフライパンと化し足元から慎二を焦がした。ビルの窓ガラスは乱反射を繰り返し、真夏の太陽を増殖させて慎二の目を眩ませ、自動車の排気ガスが作り出す異星の大気は、慎二を窒息させようとしていた。
シェルターは、繁華街のビルの地下の小さな映画館にあった。ポスターを見ると、イラクだかイランだかのマニアックな映画だった。
慎二は構わず中へ入り、半分以上もある空席の最後列に座った。
10分ほどスクリーンに意識を集中するが、映画を作る過程を、淡々と撮っていくだけの映画だということが判明し、良く効いた冷房に身を委ねて目を閉じていると、いつの間にか熟睡していた。
喉の渇きで目が覚めると、スクリーンにはロゼッタ・ストーンのような、奇妙な文字のクレジットタイトルが流れていた。
時刻は午後9時に近かった。
映画館から出ると、街の空気は粘っこく澱み、舗道のアスファルトは、まだ昼間の熱気を温存していた。
風はない。
橋の上で慎二は立ち止まった。
川面を渡る微風さえない。
繁華街の真ん中を流れる川の静止した水面が、明るい夜を映しだしている。
両岸に立ち並ぶビルの上や壁面では、電子制御のネオンボードが、目まぐるしく点滅しながら、原色の自己主張を繰り返していた。圧倒的なボリュームながら、それでいて無機質で、ある種の冷たさを感じさせるネオンの洪水…。
緑のネオンが赤に反転したのを機に、慎二は再び歩き出した。
平日のビジネス街は、異邦人となった慎二に対して、いかんなくその底意地の悪さを発揮した。
換気孔から吐き出される熱風は、悪魔の吐息のように慎二の頬を撫で、アスファルトの舗道は、灼熱のフライパンと化し足元から慎二を焦がした。ビルの窓ガラスは乱反射を繰り返し、真夏の太陽を増殖させて慎二の目を眩ませ、自動車の排気ガスが作り出す異星の大気は、慎二を窒息させようとしていた。
シェルターは、繁華街のビルの地下の小さな映画館にあった。ポスターを見ると、イラクだかイランだかのマニアックな映画だった。
慎二は構わず中へ入り、半分以上もある空席の最後列に座った。
10分ほどスクリーンに意識を集中するが、映画を作る過程を、淡々と撮っていくだけの映画だということが判明し、良く効いた冷房に身を委ねて目を閉じていると、いつの間にか熟睡していた。
喉の渇きで目が覚めると、スクリーンにはロゼッタ・ストーンのような、奇妙な文字のクレジットタイトルが流れていた。
時刻は午後9時に近かった。
映画館から出ると、街の空気は粘っこく澱み、舗道のアスファルトは、まだ昼間の熱気を温存していた。
風はない。
橋の上で慎二は立ち止まった。
川面を渡る微風さえない。
繁華街の真ん中を流れる川の静止した水面が、明るい夜を映しだしている。
両岸に立ち並ぶビルの上や壁面では、電子制御のネオンボードが、目まぐるしく点滅しながら、原色の自己主張を繰り返していた。圧倒的なボリュームながら、それでいて無機質で、ある種の冷たさを感じさせるネオンの洪水…。
緑のネオンが赤に反転したのを機に、慎二は再び歩き出した。