★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

クリムゾン・レーキ 4

2009年10月15日 10時55分01秒 | 小説「クリムゾン・レーキ」
 会社へ行って休職願を出し、簡単な業務の引き継ぎをして、外へ出たのは暑さのピークの午後2時頃だった。
 平日のビジネス街は、異邦人となった慎二に対して、いかんなくその底意地の悪さを発揮した。
 換気孔から吐き出される熱風は、悪魔の吐息のように慎二の頬を撫で、アスファルトの舗道は、灼熱のフライパンと化し足元から慎二を焦がした。ビルの窓ガラスは乱反射を繰り返し、真夏の太陽を増殖させて慎二の目を眩ませ、自動車の排気ガスが作り出す異星の大気は、慎二を窒息させようとしていた。

 シェルターは、繁華街のビルの地下の小さな映画館にあった。ポスターを見ると、イラクだかイランだかのマニアックな映画だった。
 慎二は構わず中へ入り、半分以上もある空席の最後列に座った。
 10分ほどスクリーンに意識を集中するが、映画を作る過程を、淡々と撮っていくだけの映画だということが判明し、良く効いた冷房に身を委ねて目を閉じていると、いつの間にか熟睡していた。
 喉の渇きで目が覚めると、スクリーンにはロゼッタ・ストーンのような、奇妙な文字のクレジットタイトルが流れていた。
 時刻は午後9時に近かった。

 映画館から出ると、街の空気は粘っこく澱み、舗道のアスファルトは、まだ昼間の熱気を温存していた。
 風はない。
 橋の上で慎二は立ち止まった。
 川面を渡る微風さえない。
 繁華街の真ん中を流れる川の静止した水面が、明るい夜を映しだしている。
 両岸に立ち並ぶビルの上や壁面では、電子制御のネオンボードが、目まぐるしく点滅しながら、原色の自己主張を繰り返していた。圧倒的なボリュームながら、それでいて無機質で、ある種の冷たさを感じさせるネオンの洪水…。
 緑のネオンが赤に反転したのを機に、慎二は再び歩き出した。
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