健康な他人のウンチを病人の腸に入れる「糞便移植」。
効果が報告される一方で、テレビで放送されそのインパクトが先走っている印象がなきにしもあらず。
ちょっと立ち止まって、冷静に判断しましょう・・・という報告を紹介します。
■ 腸内細菌は本当に効いた? 〜糞便移植の研究で報告されていなかったこと
執筆者:大脇 幸志郎
(2017.05.29:Annals of internal medicineから:MEDLEY)
ほかの人の便ごと腸内細菌を移植することが、病気の治療として研究されつつあります。しかし、研究結果を理解するために必要な要素の欠けた報告が多いことが、研究報告の調査によってわかりました。
◇ 糞便移植の研究報告の実態を調査
フランスなどの研究班が、糞便移植の研究がどのように報告されているかを調査し、結果を医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
研究班は、文献データベースを検索して、糞便移植の効果や安全性を調べた研究の報告を集めました。
◇ 糞便移植とは?
腸内細菌は体の免疫のしくみに関わっています。いくつかの病気にともなって腸内細菌も変化することが知られています。糞便移植は、ほかの人(ドナー)の便を患者の腸の中に移植することで腸内細菌を移植し、病気を治療しようとする方法です。
★ 関連記事「抗生物質が効かなかった人が9割治った!腸内細菌を活用する糞便移植の効果」
◇ 細菌の中身がわからない報告が58%
調査により次の結果が得られました。
見つかった85件の出版された報告の大部分(84%)が、糞便微生物叢移植をクロストリジウム・ディフィシル感染症または炎症性腸疾患に対して位置付けており、大部分(87%)が非ランダム化対照試験だった。
論文として出版された研究報告が85件見つかりました。そのうち84%で、糞便移植はクロストリジウム・ディフィシル感染症(偽膜性腸炎など)または炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)の治療として試されていました。
通常、治療の効果を調べる研究では、対象者をランダムに振り分け、試したい治療をするか、比較のため別の治療をする(有効成分のない偽薬を使うなど)かのどちらかとします。この方法をランダム化対照試験と言います。ここで見つかった研究報告のうち87%は、ランダム化対照試験ではない方法によるものでした。
報告の内容について次の結果がありました。
出版された研究の中で報告されていなかった、重要な方法論上の構成要素には次のものがあった。ドナーの適格基準(47%)、糞便を採取するための材料と採取時期(96%)、糞便を保存するための方法(76%)、使用した糞便の量と種類(たとえば、新鮮なのか冷凍なのか)および保存期間(67%)。多くのもの(58%)が微生物叢の構成の分析を報告していなかった。
報告のうち47%が、便のドナーを選んだ基準を報告していませんでした。
便を採取するのにどんな道具を使ってどの時期に採取したかは96%が報告していませんでした。
便を保存する方法は76%が報告していませんでした。
移植した便の量・種類、保存した期間は67%が報告していませんでした。
腸内細菌にはどんな細菌が含まれていたかを分析した結果は、報告していないものが58%でした。
この研究の限界として、研究班は「糞便微生物叢移植にとって最も重要な方法論上の構成要素は何かについて統一的な合意がないこと、また研究が実際にどのように行われたか、出版のプロセスが報告の完全性に影響したかどうかを評価できないこと」を挙げています。
本当に「確かめられている」のか?
糞便移植の研究報告についての調査を紹介しました。
研究の方法が適切に報告されていることは、結果を理解するために必要です。
同じ糞便移植という言葉を使っていても、報告によってやり方が違っていれば、実は別のものを一緒に考えていたということにもなりかねません。また、腸内細菌を変化させることが理論的な前提になっているのに、糞便移植によって実際に腸内細菌が変化したかどうかを確かめられなければ、理論を検証することもできません。
これまでに報告されている糞便移植の研究については、報告によって正確に何が確かめられるのかに注意して理解する必要があるかもしれません。
<参考文献>
・Methods and Reporting Studies Assessing Fecal Microbiota Transplantation: A Systematic Review.
Ann Intern Med. 2017 May 23.
効果が報告される一方で、テレビで放送されそのインパクトが先走っている印象がなきにしもあらず。
ちょっと立ち止まって、冷静に判断しましょう・・・という報告を紹介します。
■ 腸内細菌は本当に効いた? 〜糞便移植の研究で報告されていなかったこと
執筆者:大脇 幸志郎
(2017.05.29:Annals of internal medicineから:MEDLEY)
ほかの人の便ごと腸内細菌を移植することが、病気の治療として研究されつつあります。しかし、研究結果を理解するために必要な要素の欠けた報告が多いことが、研究報告の調査によってわかりました。
◇ 糞便移植の研究報告の実態を調査
フランスなどの研究班が、糞便移植の研究がどのように報告されているかを調査し、結果を医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
研究班は、文献データベースを検索して、糞便移植の効果や安全性を調べた研究の報告を集めました。
◇ 糞便移植とは?
腸内細菌は体の免疫のしくみに関わっています。いくつかの病気にともなって腸内細菌も変化することが知られています。糞便移植は、ほかの人(ドナー)の便を患者の腸の中に移植することで腸内細菌を移植し、病気を治療しようとする方法です。
★ 関連記事「抗生物質が効かなかった人が9割治った!腸内細菌を活用する糞便移植の効果」
◇ 細菌の中身がわからない報告が58%
調査により次の結果が得られました。
見つかった85件の出版された報告の大部分(84%)が、糞便微生物叢移植をクロストリジウム・ディフィシル感染症または炎症性腸疾患に対して位置付けており、大部分(87%)が非ランダム化対照試験だった。
論文として出版された研究報告が85件見つかりました。そのうち84%で、糞便移植はクロストリジウム・ディフィシル感染症(偽膜性腸炎など)または炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)の治療として試されていました。
通常、治療の効果を調べる研究では、対象者をランダムに振り分け、試したい治療をするか、比較のため別の治療をする(有効成分のない偽薬を使うなど)かのどちらかとします。この方法をランダム化対照試験と言います。ここで見つかった研究報告のうち87%は、ランダム化対照試験ではない方法によるものでした。
報告の内容について次の結果がありました。
出版された研究の中で報告されていなかった、重要な方法論上の構成要素には次のものがあった。ドナーの適格基準(47%)、糞便を採取するための材料と採取時期(96%)、糞便を保存するための方法(76%)、使用した糞便の量と種類(たとえば、新鮮なのか冷凍なのか)および保存期間(67%)。多くのもの(58%)が微生物叢の構成の分析を報告していなかった。
報告のうち47%が、便のドナーを選んだ基準を報告していませんでした。
便を採取するのにどんな道具を使ってどの時期に採取したかは96%が報告していませんでした。
便を保存する方法は76%が報告していませんでした。
移植した便の量・種類、保存した期間は67%が報告していませんでした。
腸内細菌にはどんな細菌が含まれていたかを分析した結果は、報告していないものが58%でした。
この研究の限界として、研究班は「糞便微生物叢移植にとって最も重要な方法論上の構成要素は何かについて統一的な合意がないこと、また研究が実際にどのように行われたか、出版のプロセスが報告の完全性に影響したかどうかを評価できないこと」を挙げています。
本当に「確かめられている」のか?
糞便移植の研究報告についての調査を紹介しました。
研究の方法が適切に報告されていることは、結果を理解するために必要です。
同じ糞便移植という言葉を使っていても、報告によってやり方が違っていれば、実は別のものを一緒に考えていたということにもなりかねません。また、腸内細菌を変化させることが理論的な前提になっているのに、糞便移植によって実際に腸内細菌が変化したかどうかを確かめられなければ、理論を検証することもできません。
これまでに報告されている糞便移植の研究については、報告によって正確に何が確かめられるのかに注意して理解する必要があるかもしれません。
<参考文献>
・Methods and Reporting Studies Assessing Fecal Microbiota Transplantation: A Systematic Review.
Ann Intern Med. 2017 May 23.