小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

2016年3月までの「ジカ熱」情報

2016年03月20日 07時52分41秒 | 感染症
 情報が飛び交うジカ熱。
 最近の情報を読売新聞の記事を中心にピックアップしました。
 ジカ熱とギラン・バレー症候群、小頭症との因果関係が証明されつつあります。
 まずは基礎知識を;

■ ジカ熱はこんな病気…注意点と予防法
2016年2月26日 読売新聞
Q ジカ熱はどんな病気か?
A ジカウイルスを持ったネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることで感染する。妊婦の胎内での母子感染も確認されている。輸血や性交渉による感染の報告もある。主な症状は軽い発熱や目の充血、発疹。症状がない人も8割いる。今は蚊が活動する時期ではないので、国内で感染がすぐに広がる心配はない。
Q 注意点は?
A 流行中のブラジルでは、生まれつき頭の小さい「小頭症」の子どもが相次いで生まれている。感染者の中には、急激に筋力が低下するギラン・バレー症候群を発症したケースもある。妊婦は感染流行地への渡航を控え、渡航者は蚊に刺されないことが大切だ。蚊が活動を始める5月以降、国内でも広がる危険性がある。雨水がたまりそうな物を撤去するなど、蚊の発生を防ぐ対策が必要だ。


<参考>
ジカウイルス感染症(東京都感染症情報センター)
ジカウイルス感染症とは(国立感染症研究所)
渡航時におけるジカウイルス感染症への注意について(厚生労働省検疫所)
視点・論点「ジカ熱への備え」(NHK:2016.2.12)

ジカ熱と小頭症との関係;

■ ジカ熱の妊婦、3割に胎児異常…米研究者らブラジルで調査
2016年3月7日 読売新聞
 中南米などで流行するジカウイルス感染症(ジカ熱)の妊婦で、約3割に胎児の異常が見られたとの研究成果を4日、ブラジルとアメリカの研究チームが発表した。
 流行が広がるブラジルでは頭が小さい「小頭症」の子供が多く生まれており、ジカ熱との関連が疑われているが、研究チームは「ジカウイルスと妊婦の異常との関連を示す結果」と説明している。
 研究チームは、ブラジルでジカ熱に感染した妊婦42人の超音波検査を行い、約3割にあたる12人で異常が見つかったという。このうち5人の胎児は小頭症を含む発育不全で、脳血流などに異常のあるケースも見つかった。
 異常が見つかった12例で、出産に至ったのは6例。うち2例は死産だった。小頭症が1例、発育不良が2例あった。1例は羊水の異常で帝王切開したが回復して健康だという。


■ ジカ熱、胎児の1割小頭症…妊娠初期感染の場合
2016年3月18日 読売新聞
 中南米を中心に流行しているジカウイルス感染症(ジカ熱)は、妊娠初期に感染すると、少なくとも10人に1人の割合で頭の小さい小頭症の子供が生まれる恐れがあるとの研究結果を、東京大の西浦博准教授の研究チームがまとめた。欧州感染症専門誌に18日発表される。
 研究チームは、小頭症の子供の出産が多数報告されている2015年のブラジル北東部のデータを調べた。発熱や頭痛、関節痛などを訴えて医療機関を受診した人数や感染時に受診する割合から、ジカ熱の感染者数を推計、妊婦や小頭症の子供の人数などからリスクを計算した。
 その結果、妊娠12週までに感染すると、小頭症の子供が生まれるリスクは、ジカ熱に感染した妊婦を多く見積もると14%、少なく見積もると47%だった。
 ジカ熱に感染した妊婦については、ブラジルと米国の研究チームが、約3割に胎児の異常が見られたと報告している。世界保健機関は今月上旬、妊婦はジカ熱の流行地域への渡航を控えるよう勧告した。西浦准教授は「パニックになるような結果ではないが、少なくとも妊娠初期に流行地域に渡航しない判断は妥当だ」と話している。


ジカ熱とギラン・バレー症候群との関係;

■ 手足まひの難病と関連濃厚 ギラン・バレー症候群発症者に抗体
2016.3.5:産経新聞
 ブラジルなど中南米諸国で感染が広がるジカ熱が新生児の小頭症だけでなく、手足のまひなどを伴う難病ギラン・バレー症候群の発症とも関連がある可能性が最新の研究で濃厚になってきた。世界保健機関(WHO)も懸念を強めており、感染国・地域の住民に注意を呼び掛けている。
 フランスのパスツール研究所などのグループが2月29日の英医学誌ランセット電子版に発表した研究結果によると、2013~14年にジカ熱が流行したフランス領ポリネシアでギラン・バレー症候群を発症した42人全員がジカウイルスの感染を示す抗体を持っていた。またギラン・バレー症候群の発症率は10万人当たり1~4人程度なのに対し、仏領ポリネシアでジカ熱が流行した当時は24人程度に急増したという。


WHOの見解;

■ ジカ熱流行地域、妊婦の渡航自粛を勧告…WHO
2016年3月9日 読売新聞
 ブラジルなど中南米を中心に流行しているジカウイルス感染症(ジカ熱)について、世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長は8日、妊婦は流行地域への渡航を控えるよう勧告する声明を発表した。
 妊婦のジカ熱感染と胎児に小頭症などの症状が表れることの関連性は最終的には確認されていないが、WHOは、感染した妊婦の羊水からウイルスが検出されたことなどを重視。チャン氏は、「ジカウイルスに、脳や神経に影響を及ぼす性質があるのは確かだ」と明言した。
 また、ジカ熱は主に蚊が媒介すると考えられてきたが、声明は「性交渉による感染がこれまで考えられたより多い」と指摘した。
 WHOは2月1日、ジカ熱の感染拡大を受けて「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

<参考>
ジカ熱発生エリアの女性に体を覆い隠し安全な性行為を行うようWHOが促す(2016-02-10 Reuters Health)
ジカウイルス感染症のファクトシート(2016.3月:WHO)

えっ、性交渉で感染?

■ ジカ熱、性的接触での二次感染疑い例が14件…米国
2016年2月24日 読売新聞
 米疾病対策センター(CDC)は23日、中南米で流行する感染症「ジカ熱」を巡り、米国内で性的接触による感染が疑われる例が新たに14件見つかったと発表した。
 いずれも流行地から帰国した男性が、パートナーの女性にウイルスを感染させたとみられる。見つかった事例の中には、妊婦が感染したケースも数件含まれているという。
 ジカ熱は、感染した妊婦と、頭が小さい「小頭症」の子供との関連が疑われている。CDCは、流行地から戻った男性からの感染を防ぐためにコンドームを使うことを勧めている。
 米国本土では性的接触による二次感染がすでに1例確認されているが、蚊の媒介による感染例は報告されていない。


日本での状況;

■ ジカ熱「感染拡大リスク極めて低い」…厚労相
2016年2月26日 読売新聞
 川崎市の10歳代の男性がジカウイルス感染症(ジカ熱)に感染したことを受けて、塩崎厚生労働相は26日の閣議後記者会見で、「国内は現在、感染を媒介する蚊の活動期ではないため、感染が拡大するリスクは極めて低い」と冷静な対応を呼び掛けた。
 ジカ熱は昨年来、ブラジルなど中南米で流行し、厚労省は空港などの検疫所で入国者の体温をチェックするなど「水際対策」を強化した。今回ブラジルから帰国した男性は蚊に刺された記憶が定かでなく、帰国時には熱が下がっていたため、検疫所のチェックに引っかからなかった。


■ 愛知の女性がジカ熱感染…ブラジルから帰国
2016年3月14日 読売新聞
 厚生労働省は11日、ブラジルから帰国した愛知県の30歳代の女性がジカウイルス感染症(ジカ熱)に感染したと発表した。
 症状は軽く、自宅で療養中という。国内で感染が確認されたのは5人目。昨年来の中南米での流行後では2人目。


妊娠中の女性が感染すると、胎児に問題が発生する感染症は、医学的にはTORCH症候群が有名です。皆さん、もう風疹と先天性風疹症候群をお忘れですか?
新見先生のコメントを紹介します;

■ ジカ熱と似ている?もっと恐ろしい風疹
2016年2月12日 読売新聞
 今日は、ジカ熱と風疹のお話です。ジカ熱と風疹は似ているところと、似ていないところがあります。まず両疾患とも命に関わることはありません。そして共に症状は風邪と似ていて、微熱、頭痛、関節痛、皮疹などが見られます。そしてなにより困ることは、妊婦がジカ熱に罹かかると小頭症の子供が生まれる可能性が高くなると思われ、また妊婦が風疹に罹ると先天性風疹症候群を引き起こすことがあります。先天性風疹症候群は難聴、白内障、先天性心疾患などを胎児に引き起こします。

感染経路は違うが…
 風疹は、別名を「三日はしか」といって、風疹ウイルスが原因の病気です。感染症法では第五類感染症に指定されています。感染は飛沫感染または直接感染します。咳せきやくしゃみによって飛び散る飛沫に含まれる病原体が口や鼻の粘膜に触れて感染するということです。つまり直接人から人に感染します。ですから大流行する可能性があります。一方でジカ熱は蚊を介して感染します。ジカ熱に感染した人の血を吸った蚊が、別の人を刺すときに感染が広がるのです。これが一般的で基本的には人から人に感染しません。蚊が大量に存在する環境では、蚊に刺されることは日常茶飯事ですので、感染は広がりますが、病気を媒介する蚊が駆除されれば感染の広がりはコントロールできると考えられます。ジカ熱感染には例外が報告されていて、それは精液にジカ熱のウイルスが認められ、明らかに精液の接触で感染した例が数例あります。また唾液や羊水にもジカ熱ウイルスが認められたといった報告もあります。つまり、ごく希まれに人から人に感染することがあり得るということです。

妊婦に感染すると危険
 風疹もジカ熱も直接風疹ウイルスやジカ熱ウイルスを殺す作用を持つ薬剤はありません。つまり感染すれば、症状を和らげる対症療法を行って、自分の免疫力でウイルスを退治することを期待するしか方法はありません。しかし、命に関わる疾患ではないので、感染すれば仕事を休んでのんびりと過ごせば自然軽快します。問題は風疹もジカ熱も妊婦に感染すると生まれてくる子供に障害が残る可能性があることです。

風疹、なぜ大流行の可能性?
 では、次は発症予防のワクチンに関してのお話です。風疹はワクチンが開発され、日本では昔は当たり前のようにみんなが感染していた「三日はしか」を見ることは少なくなりました。しかし、2012年から2013年にかけて大流行しました。風疹ワクチンは日本では1977年から女子中学生を対象に風疹ワクチンの集団接種が開始されました。1994年からは満1歳から7歳半までの男女、そして中学生の男女に接種が始まりました。2006年からは満1歳と就学前年に麻疹ワクチンと一緒に風疹ワクチンの2回接種が開始されました。この風疹ワクチンの効果は一生続くものではなく、その効果は年々減少することがわかっています。昔は、風疹は一度罹ると二度と罹らない病気でした。それは実際に子供の頃に感染して風疹に対する免疫が作られ、その免疫力は年々低下していきますが、そんな時に、風疹の患者に接触すると感染はするが症状を呈しない不顕性感染を時々経験することで、また免疫力が上がり、そして終生風疹に感染しない状態になったと思われます。つまり不顕性感染が一生にわたる免疫力の維持には必要であった可能性が高いのです。風疹の免疫力の測定は、血液中の風疹に対する抗体の力(抗体価)を測定するとわかります。風疹ワクチンの効果が永続的ではないというのは、現在の日本で、風疹ワクチンを接種したにも拘かかわらず、大人になって風疹抗体価を調べると感染防止の基準には届いていない人がすくなくないということです。ですから、大流行の可能性があるのです。

外国でのワクチン接種は…
 さて、世界の現状はどうでしょう。国立感染症研究所のHPに記載があります。少し古い報告ですが、とても参考になります。カンボジア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、ベトナムでは風疹ワクチンは導入されていないそうです。ポーランドやルーマニアでは大流行が認められるそうです。アフリカ諸国では46か国中2か国でのみ風疹ワクチンがワクチン接種スケジュールに組み込まれているそうです。そして「風疹が流行していると考えられるが、その実態は不明である」と記されています。つまり、世界では風疹は希な病気ではないのです。飛行機の発達が進み、またコストも安くなりました。そんな風疹が流行している国からの人をすべて入国制限することもできません。そう考えると、ほとんどが病気の人を刺した蚊からしか感染しないジカ熱にビクビクするよりも、飛沫感染をして大流行の可能性が否定できない、その上抗体価が減少している人が沢山たくさんいる日本では、風疹の海外からの持ち込みにもっともっとビクビクしたほうがいいとも思えますね。つまり風疹は大流行する可能性があると想定して、妊娠可能年齢の女性は風疹抗体価を検査し、そして抗体価が低ければ、風疹ワクチンの接種をすることが最良の自衛策と思います。
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