かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

6.異変 その3

2007-11-04 23:04:38 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 アルファ、ベータの励ましの顔が浮かぶ。美奈、夢見小僧、ハンスの失われた笑顔が目の前に浮かんでくる。榊の、哀魅の、鬼童の顔が浮かんでは消える。そして剃髪美形の僧侶の姿、円光の像が目の前に浮かんだ。幽かにその声も聞こえてくるようだ。最後の瞬間に円光さんの声が聞こえるなんて・・・。鬼童さんに言ったら何て言うかしら・・・。麗夢は意識を失いつつも、そんな空想に口元をほころばせた。
『麗夢殿! お気を確かに! 今、拙僧がお助けいたしますぞ!』
 ふふ、まだ聞こえる。本当に円光さんったら・・・。
『麗夢殿! しっかりなされよ!』
 ふっと麗夢は閉じかけた目を見開いた。夢魔の握力が随分弱く感じられる。そして、耳に届く独特の節回し。それは、円光が唱える般若心経の一節ではないか。一節ごとに強烈な念が込められた円光の読経は、夢魔の動きを抑え込み、麗夢に新たな力を注ぎ込んだ。
「円光さん!」
『おお、お気をつかれましたな! さあ、拙僧が抑えている内に早くこの夢魔を退治なされよ!』
「ありがとう!」
 麗夢はやっとの思いでのっぺらぼうの手から逃れ出ると、はね飛ばされた剣まで走り、その柄を取った。
 重い。
 いつになく愛用の剣が重く感じられる。恐らく耐えられるのは一撃だろう。麗夢は円光の送ってくる念を受け止め、残る気力を振り絞って、剣に力を注ぎ込んだ。
「行くわよ!」
 腰ダメに剣を構えた麗夢は、力の限り夢魔に駆け寄った。夢魔は振り返ろうともがいたが、外からくわえられる呪縛が強烈で、身じろぎ一つできないでいる。その胴体に、麗夢はありったけの力を込めて剣を突き込んだ。同時に円光の不動明王真言が高らかに夢へ鳴り響き、劇的に高まった法力が、麗夢を通じて夢魔に注ぎ込まれた。
「ぎゃあぁあっ!」
 見えない口から断末魔の悲鳴が上がり、夢魔は瞬く間に爆裂して夢から消えた。麗夢はまた急に重くなった剣を杖代わりにやっとの思いで立つと、ようやくその夢から抜け出した。
 
 夢から覚めた麗夢は、起きあがろうとして全身を襲う痛みに思わず固まった。体中が冷や汗と脂汗にまみれて寒気に震え、節々が猛烈に痛む。特に胸を襲う苦痛は、ひょっとしたらあばらにヒビでも入っているかも知れないと思われた。
「大事ないか、麗夢殿!」
 倒れそうになる麗夢の背中を、大きな手がふわりと支えた。途端に掌から暖かな安らぎを覚える気が伝わり、麗夢の苦痛を和らげた。
「・・・大丈夫よ、円光さん。ありがとう」
 麗夢はまだ気遣わしげに手を添える円光に礼を言うと、その手を頼りにようやくの思いで立ち上がった。喜びのあまりしきりに礼を述べるクライアントに別れを告げた麗夢は、円光を助手席に乗せ、何とか運転席でハンドルを握りしめた。
 いつもなら思い切りよく吹かすエンジンを、控えめにアクセルを踏んで軽く動かす。そのままそっとクラッチを繋いだ麗夢は、震動を少しでも抑えられるように、恐る恐る車を幹線道路に向けて走らせた。
「それにしても、良くここが判ったわね、円光さん」
 どうやら思ったほど身体は痛んでないらしい。あるいは、円光の法力が怪我の治癒スピードを加速させたのか。いずれにせよ夢から抜け出たときよりは遙かに元気を取り戻した麗夢は、豊かな髪を靡かせながら隣の円光に話しかけた。円光は少し小難しげな表情で、麗夢に言った。
「四、五日前より麗夢殿の気がことのほか小さく感じられるようになり、もしや何かと案じており申した。だが、本当に間に合って良かった」
「ええ、今日は助かったわ。雑魚相手だと油断しちゃった。私もまだまだね」
 笑顔で自分の頭に拳をこつん、と当てる麗夢に、円光は表情を崩さぬまま、麗夢に言った。
「それなんだが麗夢殿、どうしてあれくらいの夢魔に苦戦されたのだ? あれなら拙僧でも外からの念で難なく調伏できる程度の夢魔だ。麗夢殿ならもっと簡単に倒して不思議はない。それにその身体。夢魔の攻撃が肉体にも影響を及ぼすなんて、これまでの麗夢殿にはなかったはず。一体何があったのだ?」
「え? じゃやっぱりさっきの夢魔、大したことなかったの?」
「油断は禁物、というのは大事だが、それでも手こずる相手ではないと存ずるが・・・」
 円光の疑問は、麗夢のそれでもあった。確かに腑に落ちないことが多すぎる。夢魔の強弱はともかく、妙に夢の中で体が重かったし、衝撃ももろに全身に響いた。しかも、今まで夢の中ならどんなひどい目に遭おうともけしてくじけたりはしなかったのに、今日に限って危うく弱気になってやられるところだった。全く、円光の到着があと三〇秒遅れていたら、麗夢はこの世の人ではなくなっていたかも知れない。本当に円光にはいくら感謝してもしたらないと思う麗夢であった。だが、普段の調子ならけして円光の手を煩わすことなく、最初の一撃で決めることができたはずだ。それがどうしてあんな苦戦になってしまったのか。その上悪夢の影響が実際の体にも響いてくるなんて。ただ、どうやらそれは今急に始まったわけではなく、円光の言葉を借りれば、ここ数日で少しずつ進行していた事のようだ。麗夢は今日の戦闘を振り返って、考えざるを得ない事実に向き合った。
「私にも何故か判らないけど、どうやらドリームガーディアンの力が弱くなっているらしいわ」
「麗夢殿の力が?」
「とにかく鬼童さんのところに行ってみましょう。鬼童さんなら、この異変の原因について、何か判るかも知れない」
「鬼童殿、か。では、拙僧もお供しよう」
 円光は少し眉を顰めたが、確かにこういうときには鬼童の方が頼りになる。何といっても、自分には麗夢の気が弱くなっているのは判るが、それが何らかの邪気によるものならともかく、そうとは見えない以上原因までは判らない。対して鬼童なら、科学とやらの力でその辺りに何か自分には判らない物を見つけだすかも知れない。円光は間一髪で麗夢を助けることができたことに満足し、恋敵の力に素直に頼る気持ちを奮い起こした。
「ありがとう。円光さんにいてもらえると心強いわ。じゃあ、飛ばすわよ!」
 麗夢の一言に、円光も会心の笑みを浮かべた。自分も麗夢の役に立っている。そう思うことが、円光には何よりも貴重な喜びを生み出すのだ。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

民主党情勢は複雑怪奇ですね。

2007-11-04 22:58:25 | Weblog
 うちのような瑣末なブログでも迷惑コメントやトラックバックがごくたまに紛れ込むことがあります。どうやって調べて書き込んでくるのか不思議ではありますが、ご苦労なことだと思います。特にトラックバックの方は、一応保留にして、標題から類推されるものはもちろん、それ以外のものでもリンク先の内容を確認してから公開するかどうかを決めていますので、迷惑トラックバックがうちのブログで公開される可能性はかなり低いんじゃないかと思うのです。コメントはさすがに検閲かけるのもどうかと思いますので気づいた時点で削除するなりしていますが、うちのようにのんびりしたところではそれで十分対処できます。面倒なので出来ればそういうコメントはつけないように願いたいのですが、これもネットの宿命と言うやつなのでしょうね。

 さて、今日はなかなか面白い誠治劇が展開されたようですね。小沢代表が辞意を表明するなんて、大連立構想の話の時もその唐突ぶりに驚いたものですが、今回の速報にも驚かされました。新聞を見ますと、連立を持ちかけたのは実は小沢代表の方だったという話ですが、そんな内輪話がマスコミに流れたりすること自体が、なんとなくきな臭さを感じたりもします。それはともかく、民主党と言うのはどうしてこう熱が上がってくるたびに水を差す話が降ってくるんでしょうね。小沢氏は今の民主党を「様々な面で力量が不足」、「次期総選挙での勝利は厳しい情勢」と見ており、ここで政権の一翼を担って政権運営の実績を示せば、民主党政権が実現される、と見ていたそうです。多分この内紛劇も、「様々な面で力量が不足」している未熟さが露呈した結果なのかもしれません。ともかくもこれで民主党はしばらくごたつくのでしょう。せっかく参院で多数を取ったのにこれでは、確かに「次期総選挙での勝利は厳しい」という観測も正しいようです。一体いつになったら民主党は政権担当できるようになるのでしょうね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする