「やーっ!」
「てぇい!」
「きゃー!」
勇ましいだけのかけ声とあられもない悲鳴が交錯する高原の夢の中。夢見小僧こと白川蘭と美奈は、必死に念を込めたそれぞれの武器を改めて握り直すと、目の前の高原に撃ちかかった。
「駄目だ! もっと集中して見せろ! 今の君達なら出来るはずだぞ!」
高原の叱咤が鞭のように二人を襲う。蘭は、もう! と膨れて後ろを振り返ると、そこで両手を前に出して必死の形相で目をつむっている紺のジャージ姿の美青年を怒鳴りつけた。
「ハンスったら! もっとしっかり念を送ってよ!」
「ゴ、ゴメンナサイデス。デモ、コレデセイイッパイデ・・・。」
歯ぎしりを交えたたどたどしい日本語に、ちっと蘭も思わず舌打ちした。全く、この高原という男は何てパワーの持ち主なの? 私達だって、ものすごく強くなっているはずなのに・・・。
「たあーっ!」
蘭の目の前で、再び美奈が高原に撃ちかかった。手にする武器は諸刃の剣だ。夢魔の女王を刺したときの麗夢の剣に比べれば、細身でやや短い。高原によると、もっと真剣に念じればより強力な武器になるはずだというのだが、今の美奈にはこれが精一杯だった。
「駄目よ美奈ちゃん!」
思わず蘭が叫ぶ甲斐もなく、強烈な反動で美奈の小さな身体が蘭の足元まで吹っ飛ばされた。
「大丈夫? 美奈ちゃん?」
紺のジャージにアメリカンフットボールのような防具をくっつけた、一種異様なトレーニング用のスーツを見下ろし、蘭は手をさしのべた。美奈は、顔をしかめながらも自分と同じ格好をしている年上の女性の手を取った。
「あ、ありがとう、夢見さん・・・」
蘭は苦笑して美奈が立ち上がるのを手助けした。蘭でいい、と言っているのに、この子は未だに夢見さん、と通り名の方で呼びかけてくる。理由を問うと、「麗夢さんがそう呼んでいたから」ともじもじして答えてみせた。なるほど、麗夢ちゃんの影響か、と理解はしたが、出来れば他人行儀な表看板ではなく、本名で呼んで欲しいと願う蘭である。
(まあ、いずれそのうち、ね)
蘭は苦笑を収めると、当面の課題に改めて頭を切り換えた。とにかく、目の前の高原から一本取るか、高原から終了を言い出さない限り、このトレーニングは終わらないのである。
「さあ、今度こそ当てるわよ! いい、美奈ちゃん!」
「はい!」
「ハンスも頑張りなさいよ!」
「ハ、ハイ」
三人は何度やったかもう数える気もしなくなった儀式を、改めて繰り返した。1、2の3! で呼吸を合わせ、自分達の力をシンクロさせるのだ。
「ようし、行くわよぉ!」
全身に力を込めた蘭は、同じようにエネルギーの塊と化した美奈と共に、もう一度高原に撃ちかかっていった。
三人のこのハードトレーニングは、既に5日目を迎えている。美奈を加えて必要なデータを揃えた高原が、いよいよドリームガーディアン遺伝子の高発現因子開発に乗り出したのだ。数日前、そのプロトタイプを与えられた三人は、日常の夢見状態における各種測定を皮切りに、人の夢に直接入る訓練や、その中で自由に振る舞うコツを得るべく、トレーニングを始めていた。
もっとも美奈は、もともと天性の力を持つため、この訓練は不要である。従って、当初の美奈の役割は、二人を高原の夢に連れ出す事だった。ハンスはもともと人の夢を渡り歩いていた経験を持つだけに飲み込みも早く、三度目にはもう美奈の助けは不要になっていた。従って、美奈はほぼ付きっきりで蘭の介添えを務め、二日前にようやくその役目を卒業したところであった。
次に高原が要求したのが、夢の中での戦闘である。DGジーンの働きを最大限に発揮し、ドリームガーディアンとして覚醒すること。それには、夢の中で闘いを経験し、眠っている力を呼び覚ますのがもっとも効率がいい。ただ、今の段階ではまだ一人一人の力はたかが知れている。そこで高原は、三人が同じ気を練り上げ、三位一体となって互いに力を高め合うように指導した。一人が一人をサポートする方法や、二人を後方に置き、一人を前に置くやり方、そして今日のように一人が後方から力を送り、二人がそれを受けて闘うやり方。三人同時も含めて計一三通りの組み合わせを試みる。もちろんこれは、ドリームガーディアンとしての訓練の一環であると共に、DGジーンの働きを測定する重要な検証実験でもある。4台据えられた測定用リクライニングシートと各種測定機器が、今もリアルタイムで4人の脳の活動を記録すると同時に、血液を採取して活動している遺伝子の情報を取得するため、フル稼働しているのだ。そうして得られたデータを元に、高原は事前に想定した通りDGジーンの高発現因子が有効に機能しているかどうかを検証する。その結果を踏まえて、再び専門スタッフに向けて、より効率のいい因子の試作指示を出すのである。
「てぇい!」
「きゃー!」
勇ましいだけのかけ声とあられもない悲鳴が交錯する高原の夢の中。夢見小僧こと白川蘭と美奈は、必死に念を込めたそれぞれの武器を改めて握り直すと、目の前の高原に撃ちかかった。
「駄目だ! もっと集中して見せろ! 今の君達なら出来るはずだぞ!」
高原の叱咤が鞭のように二人を襲う。蘭は、もう! と膨れて後ろを振り返ると、そこで両手を前に出して必死の形相で目をつむっている紺のジャージ姿の美青年を怒鳴りつけた。
「ハンスったら! もっとしっかり念を送ってよ!」
「ゴ、ゴメンナサイデス。デモ、コレデセイイッパイデ・・・。」
歯ぎしりを交えたたどたどしい日本語に、ちっと蘭も思わず舌打ちした。全く、この高原という男は何てパワーの持ち主なの? 私達だって、ものすごく強くなっているはずなのに・・・。
「たあーっ!」
蘭の目の前で、再び美奈が高原に撃ちかかった。手にする武器は諸刃の剣だ。夢魔の女王を刺したときの麗夢の剣に比べれば、細身でやや短い。高原によると、もっと真剣に念じればより強力な武器になるはずだというのだが、今の美奈にはこれが精一杯だった。
「駄目よ美奈ちゃん!」
思わず蘭が叫ぶ甲斐もなく、強烈な反動で美奈の小さな身体が蘭の足元まで吹っ飛ばされた。
「大丈夫? 美奈ちゃん?」
紺のジャージにアメリカンフットボールのような防具をくっつけた、一種異様なトレーニング用のスーツを見下ろし、蘭は手をさしのべた。美奈は、顔をしかめながらも自分と同じ格好をしている年上の女性の手を取った。
「あ、ありがとう、夢見さん・・・」
蘭は苦笑して美奈が立ち上がるのを手助けした。蘭でいい、と言っているのに、この子は未だに夢見さん、と通り名の方で呼びかけてくる。理由を問うと、「麗夢さんがそう呼んでいたから」ともじもじして答えてみせた。なるほど、麗夢ちゃんの影響か、と理解はしたが、出来れば他人行儀な表看板ではなく、本名で呼んで欲しいと願う蘭である。
(まあ、いずれそのうち、ね)
蘭は苦笑を収めると、当面の課題に改めて頭を切り換えた。とにかく、目の前の高原から一本取るか、高原から終了を言い出さない限り、このトレーニングは終わらないのである。
「さあ、今度こそ当てるわよ! いい、美奈ちゃん!」
「はい!」
「ハンスも頑張りなさいよ!」
「ハ、ハイ」
三人は何度やったかもう数える気もしなくなった儀式を、改めて繰り返した。1、2の3! で呼吸を合わせ、自分達の力をシンクロさせるのだ。
「ようし、行くわよぉ!」
全身に力を込めた蘭は、同じようにエネルギーの塊と化した美奈と共に、もう一度高原に撃ちかかっていった。
三人のこのハードトレーニングは、既に5日目を迎えている。美奈を加えて必要なデータを揃えた高原が、いよいよドリームガーディアン遺伝子の高発現因子開発に乗り出したのだ。数日前、そのプロトタイプを与えられた三人は、日常の夢見状態における各種測定を皮切りに、人の夢に直接入る訓練や、その中で自由に振る舞うコツを得るべく、トレーニングを始めていた。
もっとも美奈は、もともと天性の力を持つため、この訓練は不要である。従って、当初の美奈の役割は、二人を高原の夢に連れ出す事だった。ハンスはもともと人の夢を渡り歩いていた経験を持つだけに飲み込みも早く、三度目にはもう美奈の助けは不要になっていた。従って、美奈はほぼ付きっきりで蘭の介添えを務め、二日前にようやくその役目を卒業したところであった。
次に高原が要求したのが、夢の中での戦闘である。DGジーンの働きを最大限に発揮し、ドリームガーディアンとして覚醒すること。それには、夢の中で闘いを経験し、眠っている力を呼び覚ますのがもっとも効率がいい。ただ、今の段階ではまだ一人一人の力はたかが知れている。そこで高原は、三人が同じ気を練り上げ、三位一体となって互いに力を高め合うように指導した。一人が一人をサポートする方法や、二人を後方に置き、一人を前に置くやり方、そして今日のように一人が後方から力を送り、二人がそれを受けて闘うやり方。三人同時も含めて計一三通りの組み合わせを試みる。もちろんこれは、ドリームガーディアンとしての訓練の一環であると共に、DGジーンの働きを測定する重要な検証実験でもある。4台据えられた測定用リクライニングシートと各種測定機器が、今もリアルタイムで4人の脳の活動を記録すると同時に、血液を採取して活動している遺伝子の情報を取得するため、フル稼働しているのだ。そうして得られたデータを元に、高原は事前に想定した通りDGジーンの高発現因子が有効に機能しているかどうかを検証する。その結果を踏まえて、再び専門スタッフに向けて、より効率のいい因子の試作指示を出すのである。