かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

帰ってきました。

2007-11-30 22:42:50 | Weblog
 ようやく帰還しました。今回は徳島県の山の奥深く、携帯の電波が届かない(私のツーカーだけかもしれませんが)周囲を山に囲まれた谷中のある町に出かけておりました。まあ仕事ですから命令あればどこへなりとも行きますが、さすがに今回は遠かったです。四国の徳島なんて、瀬戸大橋でもフェリーでも、すぐそこ、という感じの県なのですが、その懐は非常に深く、山手の方は公共交通機関がほとんど通じていない、というか、かつてはあったんですけど今は廃線になっていたり大幅に本数が削減されていたりで、行くのがとにかく難しいところでした。
 もちろんネット環境もないこともなかったのですが、データ送受信量に制限があるし、そもそも荷物になるのを嫌ってPCを運んでいなかったため、このブログの更新は不可能でした。帰りは大阪でまた別件の仕事があり、戻ってきたのがようやく今というわけです。
 
 さて、ここ最近の仕事で聞いてきた話によると、ある種の花粉症を患っている人は、ある種の食物アレルギーも高頻度で発症する、ということです。また、もうひとつ面白いのは、その食物アレルギーのアレルゲンは植物が病気にかかったときに自ら作り出す病原菌に抵抗するための物質のひとつであり、無農薬で病気にかかったものよりも、しっかり農薬を使って病気を予防したものの方が、アレルギーにかかりにくくい可能性が高い、という実験結果でした。
 前々から私自身は無農薬栽培、というのに深い疑問を持っておりまして、野菜や果物が病気に冒されたり虫に食べられたりするときに作り出す抵抗物質というのは、人体にも悪い影響を与える一種の毒物ではないか、ということを考えておりました。対して昔はともかく今の農薬は安全性評価もかなりしっかりしており、某国のようなむちゃくちゃなことをするのならともかく、わが国の農業生産者が基準を遵守して農薬使用した作物の方が、無農薬栽培よりよほど安全だろう、と思っていたのです。第一、今の作物というのはさまざまな毒性物質を生み出して環境や病虫害に対抗していた野生植物を品種改良し、味や収量性を高める代わりにその手の抵抗力を弱めて、その弱まった分を人の手で助けてやるような形で発達してきたもので、それを野生同様の作り方をしてちゃんと作ろうというのは基本的に無理がある話なのです。であるのになぜか世の中は無農薬野菜、果物が大流行で、そんなものを安全だとありがたがって高いお金を出して食べる人々の神経を私は疑わざるを得ません。
 そんな疑問の一端が今回聞いた研究成果が少しだけ解いてくれたようですが、そこは慎重な研究者のことですから、マスコミのごとく大げさに喧伝するでもなく、更に実験を重ね、事例を積み上げ、原因の究明にあたる必要がある、という控えめな話でまとめられましたが、話の筋としては十分納得の行く内容でしたので、早晩この件については十分な証明がなされ、農薬の使用と無農薬栽培、それぞれのリスクと利益がより客観的に判断できるようになることでしょう。
 でも、そもそも世界全体で均せば食料は明らかに不足しており、ことにわが国のように自国でまともに食糧生産できないようなところで、無農薬栽培という非効率的な生産方法を許容していいのか? という点について、もっと議論がなされてしかるべきではないのか、とも思います。

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9.疑惑 その3

2007-11-30 22:14:54 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
『実はこの会社、ベンチャー企業なんだけど、資金の出所が良く判らないのよ』
『資金?』
『ええ。ベンチャー企業って信用がないから、普通銀行もお金を貸さないの。先端技術って成功すると収益も大きいけど、開発に巨額の資金が必要だし、失敗するリスクも高いからね。だから、ベンチャーキャピタルって言うベンチャー企業専門の投資家達から資金の融資を受けることが多いんだけど、この会社はどこからも資金融資を受けていない。全くの個人資産で運営されているのよ』
『ソレハ別ニ不思議デハナイデショウ。海外デハ大富豪ノ財団ガヨク研究助成シテマスシ』
 ハンスの言葉に蘭は一応頷きながら、更に言葉を継いだ。
『確かにそんな例もあるわね。でも、この会社を運営している個人資産家が、実は実在しない架空の人だとしたら、どう?』
『架空? ドウイウコトデスソレハ』
『言葉通りよ。私達の脳味噌を計っている機械はどれも億単位のお金が必要な超高級品ばかり。私、そんなお金をぽんと出す大富豪だったら、何かいいものも持ってるかも知れないと思ってそれも調べてみたの。ところがどっこい、一応それらしい名前はあるんだけど、詳しく調べてみれば全くの赤の他人で、この会社とは何の関係もない事が判ったの。これって、充分怪しいと思わない?』
『で、でも、私会いました。嶋田輝っていうおじさんに』
 美奈の驚きに蘭も頷いて見せた。
『私も会ったわよ。妙に甲高い声で話しかけてきたと思ったらお尻を触ろうとしたから、思い切り頭を張り飛ばしてやったけど』
 思わずその光景が浮かんで美奈とハンスが吹き出した。が、蘭の眼差しは、二人の笑いを抑え込んだ。
『でも、嶋田輝氏は架空の人物だわ。偽名を使って巨額のお金を出すだなんて、どう考えても不自然よ』
 お金のことはよく判らないが、財布を持っている人が実は偽物というのは確かにおかしい。美奈とハンスがその疑問に頭をひねるうちに、蘭はもう一つの興味深いことを語りだした。
『もう一つは高原博士の話よ。博士は遺伝子工学の専門家で、特に大脳関連の遺伝子情報の解析に力を入れている研究者なんだけど、何年か前に、夢に関して興味深いことを言っているの。夢というのは睡眠中に生じるノイズに過ぎず、進化の過程で生まれた無用の長物で、いずれ見なくて済むようになる時が訪れるだろう、って。その発言を巡って一時大脳生理学関係の学会で、夢は必要だという心理学系の学者と随分派手に論戦したらしいわ』
 美奈は、高原の夢の中でした話を思い出した。夢とは何だと思うか、と言う問いに答えた美奈へ、高原ははっきり、夢は幻覚に過ぎないと言い切った。自分はそれに反発を覚えたのだが、その言葉は高原にとって数年来の信念らしい。でも、それならどうしてあんな恐ろしい夢を、あんなに執拗に記憶し続けようとするのだろう。それに自身恐らく麗夢さんに匹敵するほどの力を持っているのに、日頃みんなの大事な夢を守りたい、と言う麗夢さんとはまるで正反対ではないか。
『それなら、どうして私たちの力を高めようとしているの?』
 美奈の当然過ぎる疑問に、蘭は言った。
『正直判らないわ。あれから考えが変わって夢を大事だ、と思うようになったのかも知れないけど・・・』
 それはない、と美奈は確信した。あの夜、高原ははっきり言ったのだから。その考えに変わりはないはずだ。
『とにかく、あの高原って奴は何か隠しているわ。私はこれを見つけて、そのことを確信したの。ここを見て』
 それは、これまでと代わり映えしない実験室の一つに見えた。美奈とハンスは、ドアの大きめの窓から恐る恐る中を覗いてしばらく視線を彷徨わせていたが、やがて部屋の隅に置かれたガラスケースの中身を見て、思わず声を上げそうになるほど驚愕した。
『あ、あれは、アルファとベータ!』
 それは、掌に乗りそうな大きさの可愛らしいぬいぐるみに見えた。だが、その姿、毛並みは間違いなく麗夢のお供の子猫と子犬、アルファ、ベータに違いない。二匹はガラスケースの中で、頭にケーブルが束になって繋げられたヘルメットを被せられ、体中に色々なチューブやケーブルを絡みつかせながら仰向けに寝ていた。良く見ると手足やお腹の上にベルトが掛けられ、動けないように固定されているらしい。
『やっぱりね。私一人じゃちょっと確信もてなかったから二人にも見て貰いたかったんだけど、どうやら他人の空似というわけでもなさそうだわ』
『でもどうして? どうやってここに来たの?』
『来たんじゃなくて、つい最近連れてこられたのよ。私達みたいに』
 美奈とハンスの疑問に、蘭は相変わらず厳しい表情で答えた。
『ここの研究員の立ち話を聞いたわ。奴ら、やっと実験動物が手に入ったって喜んでいたけど、間違いなくこのおちびちゃん達の事ね』
 実験動物! 
 美奈は、そのおぞましい響きにぶるっと身を震わせた。一体アルファとベータに何をしようと言うのだ?
『まあ私たちも言ってみれば実験動物同然なんだけど、人だというおかげで一応それなりに扱って貰っているわ。でも、あの子達はこれからどんな目に遭うか判らない。なにせ、脳の研究は直接脳へ電極を刺したりするのがちょっと前までの主要な実験手段だったし』
『解剖サレチャウノデスカ!』
『可能性は大ありね。何せ実験動物だから』
『何とかして助けてあげないと! このドア開けられないの? 夢見さん!』
 美奈の必死の願いにも、蘭は難しい顔を崩さなかった。
『もちろんこのカードで開けられるけど、今は駄目。仮に助けてもその後どうすることもできないから、すぐに捕まるわ。そして逃亡するくらいなら、っていきなりバラバラにされちゃうかも知れない。ここは慎重にしないと』
『デモ、コノママデハイズレ同ジ運命デス』
『いざというときは出たとこ勝負で動きましょう。そのために二人にもこの場所を見て貰ったんだし。でも今はとにかく待って。賭になっちゃうけど、一応の仕掛けはしておいたから、その賭が当たるかどうか、見極める時間が欲しいの。さあ、そろそろ戻りましょう』
 ええ、と返事をしてもと来た道に振り向いた三人は、そこにありうべからざる姿を見て、賭が裏目に出たことを悟った。高原研一が、白衣のポケットに両手を突っ込みながら、仁王立ちに帰り道を塞いでいたのである。
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