かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

9.疑惑 その2

2007-11-25 20:35:08 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 こうして何度目かの突撃を敢行した二人は、またも高原の鉄壁その物な防御結界に行く手を阻まれ、虚しくはじき返されてしまった。あいたたた、と身体のあちこちに出来た打ち身に顔をしかめつつ二人がもう一度立ち上がったとき、高原はようやく終了を告げて三人に夢から出るように合図した。やっと休める、と溜息をついた三人が覚醒すると、既に高原は数人の助手を交えて、データの検討を始めていた。そして、三人がリクライニングシートに上体を起こしたところで、微笑みを浮かべながら振り返った。
「どうやらまずまずの反応が得られたようだ。次もこのフォーメーションで行くとしよう」
 まだやるの? と蘭が口をへの字に曲げてシートに再び仰向けになり、ハンスもげっそりとした顔でうなだれた。美奈もさすがに疲労を覚えて高原を見た。だが、高原は容赦なく始めるぞ、と三人に呼びかけ、自分のシートに足を向けた。
「博士、ちょっと」
 高原の足を、白衣の若い男が止めた。
「何かね?」
「吉住博士から連絡が入っています。とにかく緊急だそうです」
「全く、この実験の最中は手を離せないとあれほど言ってあるのに・・・」
 高原は、しょうがないな、と首を振って、三人に言った。
「ちょっと急用のようだ。夕食には少し早いが、お茶でも飲んで休んでくれ。今日はここまでにしよう」
 そう言い残した高原は、引っ張られるようにして白衣の男と共に研究室を出ていった。きょとん、として見送った美奈、蘭、ハンスの3名は、当面厳しい訓練が遠のいたことに安堵の溜息をついた。
「ふぁーっ! これでやっと一息つけそうね」
 大きく腕を大の字に広げて伸びをした蘭は、揃えた足を軽く上げると、反動を付けてえいやっ、とシートから起きあがった。
「さあ、折角だからティータイムと行きましょ!」
「ハイ・・・」
 先に立って実験室を出ていく蘭に続いて、ハンスと美奈もシートから降りた。それにしても一体何があったのだろう? あの高原が実験を中止して出ていくなんて。


 着替えを済ませ、レストハウスに移動したはずの三人は、そのまま目的の場所には入らなかった。実験室を出て間もなく、ふっと人気が途絶えたのを見計らったように、蘭が美奈とハンスに呼びかけたのである。
「夕食にはまだ早いわ。それよりもちょっと面白いものを見つけたの。見に行ってみない?」
 ウインクする蘭に驚く間もなく、二人は半ば強引に手を引く蘭に連れられて、レストハウスと反対の方向に歩いていった。どこまで行くのか、と問いかけようとした美奈に、しっと蘭が人差し指を口の前に立てた。と同時に、頭の中に蘭の声が響いてきた。びっくりして目を丸くした二人に、蘭はもう一度繰り返し「話し」かけた。
『二人とも聞こえる? 聞こえたら頭の中で答えて』
『夢見さん、これは一体?』
『博士の研究の副作用と言った所かしら? まあこうして盗聴の心配なく話が出来るのは重宝するわ』
『盗聴? ドウイウコトデスカ?』
『いいから黙ってついてきて』
 さっきまでとはうって代わった蘭の真剣な眼差しに制せられ、二人は開きかけた口を閉じた。やがて三人は、仰々しく関係者以外立入禁止、と赤字で書き付けられた扉の前にやって来た。
『ちょ、ちょっとここって、夢見さん!』
『五秒だけ黙ってて』
 美奈の制止を振り切って、蘭は胸ポケットから一枚のカードを取り出し、扉の右側の壁に取り付けられた読み取り装置の溝に、そのカードを走らせた。途端に、装置の上で赤く点灯していたLEDが青に変わり、扉が静かにスライドして、奥へ続く道を三人に提供した。
『イ、イッタイドウシタンデスカ、ソノカード?』
 ハンスも驚いて目を白黒させている。蘭は振り返ってウインクしながら、さらりと言った。
『盗人のたしなみよ。さあ、早く来て』
『こんなことして、大丈夫なんですか?』
『大丈夫よ。ここのセキュリティー結構厳しそうに見えるけど、所詮運用するのは人だからね。あの先生はともかく、他の人はみんなシステムに頼りきりでもう油断しまくりなのよ』
 そんなものか、と思いつつ、美奈は恐る恐る禁断の扉の向こうに足を降ろした。続いてハンスも、おっかなびっくりついて来る。そんな二人に、蘭は言った。
『ねえ、二人ともあの高原研一って人、どう思う?』
 急にそんなことを聞かれても、と美奈は困った。確かに自分の正義を信じる強烈な意志や、目的のためには手段を選びそうにない様子が、どこか不安を覚えさせる人ではある。だが、悪人と言う訳でもなさそうだ。答えあぐねている二人に、蘭は言葉を継いだ。
『実はね、私、ここに来る前にあの人とこのドリームジェノミクス社について少し調べたことがあるの』
『調ベタッテ、一体ナンノタメデス?』
『もちろん「お仕事」のためよ』
『お仕事って、夢見小僧の?』
『そうよ。名前からしても私の欲しいものがありそうな気がしたし、確かにちょっと興味をそそられたわ。夢の遺伝子なんて、私の目指すドリームアイランドに相応しいじゃない。次の次の次、位のつもりで、下調べしていたのよ』
 なるほど、と美奈は思った。麗夢に聞きかじった話であるが、夢見小僧こと白川蘭が、夢の遊園地を作るため、夢に関係する様々な品物を収集しているとのことだった。ではこれもその仕事の一環なんだろうか? すると自分達は共犯と言うことに・・・。
『大丈夫よ美奈ちゃん。私、仕事は一人でやる主義だから。それよりも聞いて欲しいのは、その時調べたこの会社のことと、高原博士の評判の方なの』
『?』
 話が見えない、と首を傾げるハンスに、蘭は心の中で頷いて見せた。』
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PCまた動き出しましたが、かえって不安は募るばかり、というところでしょうか。

2007-11-25 20:26:10 | Weblog
 今日、とにかく立ち上がらないのでは困りますので、起動時に、正常起動時のシステム復元、というコマンドを選択しましたところ、すんなり立ち上がってくれました。そのままリスタートしたり電源落としたりしたらまたおかしくなるかも? と思い、その後つけっぱなしにしているのですが、以前よくあった起動中に勝手にリスタート現象もなくなって、みたところまったく問題なく動いております。ただ、異常発生直前にたとえばソフトをインストールしたり、設定変更をしたり、というようなことをしたというのならともかく、まったくその種の疑問手は犯さないのに異常が発生したところから考えますと、やっぱりハードウェアの不調が影響しているのではなかろうか、という気がします。思えばこの夏は暑かったですし、ハードディスクにも電源にも何かと負担をかけていたに違いありません。このまま安定してくれればそれはそれでいいのですが、重要な作業中に現象再発でもしたら大変ですので、近いうちにハードディスクと、できれば電源も新調したいと思います。
 というわけで早速ハードディスクの値段を調べてみましたら、まあなんと安くなっていることでしょう! GBあたり30円弱になっているじゃないですか。しばらくその手の値段は見なかったのですが、GBあたり100円強だったのはついこの間だったような気がするのです。更に思い起こせば最初に買ったハードディスクは40MB10万円。いまさら大昔の話をしてもしょうがありませんが、本当に安くなったものです。
 
 さて、昨日はごたごたしていたためか、小説アップしたつもりが下書き状態で公開するのをうっかり失念しておりました。そこで続きをこれからアップします。今度は公開し損ねないよう注意して、3連休3本アップ完了といたします。

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