かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

今回の連載小説は、私の書き物人生における革命的転換点なのです。

2009-02-22 21:32:08 | Weblog
 「アルケミック・ドリーム 向日葵の姉妹達」第2話その1をお送りしました。
 第2話は4部構成を予定しています。しばらくシェリーちゃん大阪探訪記をお楽しみいただければ幸いです.
 さて、第2話その1をご覧いただければ判りますように、本作は基本シェリーちゃん主役の一人称で進行いたします。これがこれまでの拙作と異なる本作一番の特徴と言える要素で、また大変な苦労をした部分でもあります。何せこれまでの麗夢同人小説は、短編長編どちらにおいても3人称でしか書いてこなかったですし、それ以前の、およそ小説と言うものを書き始めた頃からずっと、1人称で書いたことがありませんでしたから、この作品は、大げさでもなんでもなく、私にとっては大変画期的な出来事でもあったのです。そもそも最初は今までどおり3人称で書くつもりでしたし、第1章を書き終えた後も、そのままその調子で続けるつもりでおりました。それを急にこんな形に挑戦することにしたのは、この頃熱狂的にはまっていたとある小説の影響を受けたためでした。そんな大変事を行うのなら、無難にヴィクターとか鬼童とかではじめておけばまだ書きやすかったはずなのに、そんな考えは露も浮かばず、いきなり、自分の普段使っている言葉遣いとはもっとも縁遠いローティーン少女の独白で進めるという無謀行為に邁進することになってしまったのです。基本私自身が、普段使う言葉が、同僚や後輩達から意味が判らない、難しい、と時折言われるようなモノを書いてしまいがちなので、そもそも10台の女の子の言葉遣いなど理解できようも無いのですが、そんな無茶を通してしまったため、文章の構築に普段とはまったく違うエネルギーを費やすことになった上、ようやく上がった本も、刊行当時、シェリーちゃんの言葉が実年齢に比して大人び過ぎているのではないか、と言うご指摘を受けるような出来になっておりました。実はこれに対しては一応の予防線は張っておりまして、シェリーちゃんはフランケンシュタイン公国で日本語を習う際、英語で言うキングスイングリッシュに相当するようなものを教材としたため、その日本語は現代日本人の中でもかなり大人びた、ありていに言ってジジくさい固い表現をするようになった、と裏設定で考えていたりもしたのです。
 とはいえ、今読み返すとさすがにこれは、と思うような表現もいくつか散見されますので、今回連載するに当たっては、そのあたりの調整に、重点的に取り組んでみようと考えております。あと、固有名詞を誤っているところが複数箇所あったので、その修正も重要なポイントです。
 ところで、何の小説に影響を受けたか、というのは、第2章その4で露呈する仕掛けになっております。まあ、当ブログのカテゴリーを見れば問わず語りなのですが、一応楽しみにしていただけましたらこれ幸い、と言うところです。

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02.出会い その1

2009-02-22 09:46:10 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
「おお、これは素晴らしい! これほどのものは我が国、イヤ、世界中でもここでしか出来ないだろう!」
「確かに見事な出来だよ。おっ、こっちはどうだいヴィクター!」
「素晴らしい!」
 …………
 もうかれこれ一時間にもなりますか。
 大の大人が二人して、まるで子供のようにはしゃぎまくって。
 と言って、ここが遊園地とかデパートのおもちゃ売場とか、大抵の子供なら大喜びするような場所ではもちろんない。
 軽快で楽しげな音楽の代わりに、金属が打ち合い、高速回転するモーターが上げる悲鳴のような金切り声。
 明るい華やかな照明の代わりに、飛び散る火花や目を灼く電気溶接の燭光。
 甘い甘い香りの代わりに、機械油と金属臭。
 はっきり言って、快適とは対極の位置にある場所。
 でも、二人の大人にとっては、この場所が子供にとってのおとぎの国同然に、夢のあふれるファンタジックな世界に見えているんでしょうね。
 私は思わずまた出そうになった欠伸を、強引にかみ殺した。
 退屈。
 暑くてうるさくて臭くてまぶしくて。
 でも、折角博士が喜んでいるんだから、もうちょっとだけ我慢してみようと、さっきから何度も自分に言い聞かせている。それに、もうちょっと……後1時間ばかり……我慢していれば、麗夢さんが来てくれる。今はその後のお楽しみのために、長旅で疲れた身体を休めておく時間。……こんなところで充分な休みになるとは思えない、と言うのは、この際考えないで置くことにしているんだけど……。
 さて、ここがどこかというと、東大阪市と言う町。
 ヴィクター博士が、日本に行くと決まったときから必ず行くんだって張り切っていたから、私もちょっと下調べしてみた。
 面積は62平方キロ。人口は51万人。この数字だけだと、なるほどそれなりに大きな町だけど、パリや東京よりはずっと小さい、世界中にいくらでもある都市。
 でもここには、博士が予定を無理にやりくりしてでも来たくなるものが一つだけあった。製造業事業所数8,078を数える、世界最強の中小企業群。
 下調べに使ったウェブサイトには、『歯ブラシからロケットまで』何でも作れる匠の技が揃ってると宣伝していた。博士が興奮した口調で教えてくれたんだけど、ここは、博士が研究に使う精密な測定装置も超える指先を持つ、21世紀のスーパーマン達が集まった街なんだって。確かに活気溢れる町のようで、そんな人達が寄ってたかって、「まいど1号」っていう人工衛星を、独力で開発、打ち上げようと言う稀有壮大な計画も進行中なんだとか。そんな町の超人達のお手並みを見たさに、博士は関西国際空港に降り立ったその足で、戸惑う鬼童さんをせっついていきなり車を飛ばしてきたというわけ。
 でも、そこまでして来たがった工場がどれほど立派かというと、実は本当に拍子抜けするようなこじんまりしたモノだった。
 空港から鬼童さんの運転する車で、初めて間近に見る「海」や、その海をまたぐ大きな橋と機能的な高速道路に歓声を上げたのも束の間、高速道路を降りた途端の町並みに、私は言葉を失った。
 一言で言うと、ごちゃごちゃしている。
 住居と思われる建物は一様に低く、どの家の瓦屋根も方向は勝手気まま、色も自由自在で、全く統一感と言うものがない。
 緑は少なく、妙に灰色っぽい舗装で地面が覆い尽くされている(鬼童さんによると、アスファルトという簡易舗装だそうだ)。
 そんな中に、なんの脈絡もなく細身の鉄筋コンクリートの集合住宅が、てんで勝手ににょきにょき生えている。
 本当に、ヨーロッパでは考えられない、無秩序で混沌とした町が広がっていた。
 そして工場は、そんな住宅街に埋もれるようにして建っているんだから、これまた驚き。
 実際、鬼童さんに、ここがそうだと言ってもらうまで、私も博士もまるでその存在に気づくことが出来なかった。
 それもそのはずで、博士が来たがった工場は、働いている人が社長さんも含めてわずかに7人。周りの家よりはさすがにちょっと大きめの建物だけど、とっても小さな私の国だって、これより小さな工場はないと思う。でも博士が言うには、ここで作られる超微細構造のネジやボルトは、世界広しと言えども、ここでしかできないんだって。おじいちゃんのお仕事も、ここのネジが無いと成り立たないそうだから、やっぱりすごいんだろうな。でも、そんなネジを作るスーパーマンと言うのが、博士の前に立つおじさんというのは、失礼かも知れないけれど、やっぱり嘘でしょ? と言いたい。
 日本人というと、私は麗夢さんや鬼童さん、円光さんに榊警部しか知らないけど、このおじさんはそのどの人達とも似ても似つかない。機械油と汗で薄汚れたネズミ色の作業着をまとい、始終にこにこ顔で応対する社長さんの姿は、どう贔屓目に見てもやや下膨れなアライグマ……。
「そいつの精度はコンマ0001や。ちょっとどこにでもあるゆうレベルやないで」
「信じられない! 桁が有に二つは違う……」
 自慢げなアライグマさんの何故か聞き取りにくい一言に、博士の目が分厚いガラスの向こうで目一杯広げられたのが見えた。博士の顔は本当に素直で、心の動きがはっきり出る。うれしいときは雲間から差し込む日の光のように、哀しいときは陰鬱に空を覆う雪雲のように。今の博士の顔は、まさに雲一つ浮かんでいない青空その物ね。
「これだよ鬼童! 僕が探していたのはこれなんだよ!」
 来て良かった! と感激のあまり紅潮する博士に、こちらも案内した甲斐があった、とうれしげに笑う鬼童さん。アライグマ社長さんも一緒になって快活に笑い、また違う部品を出してきて二人に披露しては、自慢げによく意味が分からない言葉でまくし立てている。それにまた博士達が歓声を上げ、気をよくした社長さんがまた別の部品を奥から出してきて……って、もうきりがない。
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