ようやく帰宅しました。今日はさすがに心身ともにガクガクなので、連載だけ片付けさせてもらって、続きは明日にいたします。それにしても、昨日と今日と、携帯で添付した写真がちゃんと届いていないですね。それもあわせて、とにかく明日、整理します。
「こうなったら鬼童さん! 私がおとりになって奴らを引きつけるから、その間にこの車で突っ込んで!」
「待ちなさい麗夢さん! おとりなら私が行こう!」
後部座席から、榊が少し声を荒げて麗夢を制止した。
「駄目よ榊警部、奴らの狙いは私だわ。私なら大丈夫よ、こんなの慣れっこだし」
「しかし!」
いくら麗夢が魔物相手の実戦に経験豊富と言っても、それは大半夢の中においてであろう。現実世界では麗夢も無敵の力を発揮するわけには行かず、体力にもおのずと限界がある。武器と言えば、その懐に忍ばせた拳銃一丁があるばかりだ。これでは、仮におとりが成功してプジョーを怪獣の足元まで躍り込ませることに成功したとしても、麗夢自身には、あのおぞましき魔物どもに引き裂かれる運命が待ちかまえているばかりだろう。それが判っていてみすみす麗夢一人をおとりにする非情さは、榊には無かった。
「鬼童君! 君も麗夢さんを止めないか!」
それでもこれしか手がない、と言い張る麗夢に、榊は隣に坐ってさっきから一言もしゃべろうとしない眉目秀麗な若者に呼びかけた。誰よりも麗夢を大事に思っていると自認している男が、この一大事に黙りこくっているのが榊には許せない。だが、もちろん鬼童は、手をこまねいて一人黙していたわけではなかった。
「ちょっと静かにして……。良し、繋がった!」
鬼童は、プジョー装備の通信システムにかかり切りになっていた。必死に何かを拾い上げようと、その操作に没頭していたのだ。そして、ようやく繋がったその相手に、榊は声を失った。
『誰だ!勝手に割り込んできおったのは! 自衛隊か?!』
「ケンプ将軍!」
スピーカーの怒鳴り声に、ヴィクターが思わず声を上げた。一体どうして、と集中した視線に、鬼童は答えた。
「本当は自衛隊の回線を捕まえたかったんですけどね、偶然繋がってしまいましたよ」
偶然だって? はにかむように微笑む若者の顔を凝視して、榊は思わず呟いた。その間に、鬼童の手渡すマイクを受け取って、ヴィクターが叫んでいた。
「ヴィクターです! ヴィクターフランケンシュタインですケンプ将軍!」
『ヴィクターだと?!』
一瞬、確かに檄高しかけたケンプの声が、ほんの刹那沈黙した。が、ヴィクターが話しかける前に、再びスピーカーからケンプの声が流れてきた。
『ヴィクター君、君がどこにいるのか知らないが、大阪にいるのなら早く避難した方がいい。この事態を知らぬ訳でもあるまい。京都にカール殿下がいらっしゃるから、そこに身を寄せると良いだろう』
「将軍! 貴方は?」
『儂はフランケンシュタイン公国軍陸戦部隊司令官としての職務を全うする。では、幸運を祈る』
今にも通信を切るかのようなケンプの言葉に、ヴィクターは慌てて言った。
「待ってください将軍! 僕は、僕は貴方に謝らないと……」
『黙れ!』
ケンプの一喝は、スピーカー越しでも充分ヴィクターの言葉を急停止させる威力を持っていた。うっと息を呑んだヴィクターに、ややあってケンプは語りかけた。
『ヴィクター君、儂は今、君に対して怒りをぶつけている暇はないのだ。だが、今君の姿を見たら、無意識に無反動砲の引き金を引いてしまいかねん。だからそれ以上声を出さんでくれ。では、忙しいので切るぞ』
「待ってください将軍!」
榊は身をよじってヴィクターのマイクに口を寄せた。
『うん? その声は榊警部か? ヴィクター君と一緒なのか?』
「ええ、そうです」
『それは都合がいい。是非彼をカール殿下の元に連れていってやってくれ。それから、明日の夜の予定は、済まないのだがキャンセルしてもらえんかね。どうやら、行けそうにないのでね』
「そんなことより将軍は今どこにおられるのです?」
榊の問いに、ケンプはまた少し沈黙した。
『君には本当に感謝しているよ。一度は孫を身を挺して守ってくれた。そして今また孫の危機を教えてもらい、儂はこうして孫を助けるために働くことが出来る』
「まさか将軍、新兵器であの怪物と一戦交える気なんでは?」
『はっはっはっ! 良く判ったね。その通りだ。もうすぐ奴を射程内に納められる。シェリーは私の手で必ず救い出すよ』
もしこの大阪城下において、秘密裏に建造された新型ドラコニアンと怪物化した少女とが一戦交えたらどうなるか。榊は青くなってマイクをヴィクターから奪い取った。
「将軍! 今ここにはヴィクター博士の他に、鬼童君や麗夢さんも、シェリーちゃんを助けるために現場に向かっているのです!」
『何、君らも? 馬鹿なことをしてないで、さっさと安全なところに避難したまえ! ここは私の戦場だ。君らのような素人に出てこられれては迷惑だ!』
「相手は軍隊ではありません。化け物なんですよ! それなら将軍より我々の方が余程経験を積んでいますよ」
『こちらには円光君もいる。心配は無用だ』
「円光さんも?!」
今度は鬼童がにわかに興奮を示して、榊からマイクを奪い取った。
「ケンプ将軍、鬼童です! 将軍は今、僕の開発した装置一式が搭載された戦車に乗っておられるんですね?」
『ああ、実に素晴らしいシステムだ。正直言って驚いているんだ』
「戦車は将軍だけですか?」
『いや、部下も含め、五両あるが……』
素早く計算をはじめた鬼童は、初めて満面の笑みを浮かべてマイクに叫んだ。
「将軍! 僕に考えがあります。攻撃は控えて、僕達とまず合流してもらえませんか?」
『考え?』
「ええ、シェリーちゃんを必ず救出できる最良のプランを提供します。お願いです。合流して下さい!」
スピーカーが沈黙した。部下の進言を聞いているのか、あるいは円光に意見を求めているのだろうか? 今度は少し長い沈黙だったが、それは榊や鬼童には気の遠くなるような長さに感じられた。
ケンプは答えた。
『判った。今すぐそちらに向かおう。どこにいるんだ?』
鬼童はほっと息を付いた。
「大阪城の東側、梅園の手前で夢魔達に囲まれ、動けなくなっています!」
『了解した。我々は城の西側からむかっている。これより直ちに急行するから、極力無理をせず、我々の到着を待て』
「こちらも了解しました!」
ようやく交信が途絶え、鬼童は隣でハンドルを握る麗夢に言った。
「今はともかく時間を稼ぎましょう。すぐに円光さんと強力な武器が向こうから来てくれますよ」
「わかったわ」
麗夢はプジョーを反転させると、今強引に突破しようとした夢魔達の陣に背を向けた。
「待ちなさい麗夢さん! おとりなら私が行こう!」
後部座席から、榊が少し声を荒げて麗夢を制止した。
「駄目よ榊警部、奴らの狙いは私だわ。私なら大丈夫よ、こんなの慣れっこだし」
「しかし!」
いくら麗夢が魔物相手の実戦に経験豊富と言っても、それは大半夢の中においてであろう。現実世界では麗夢も無敵の力を発揮するわけには行かず、体力にもおのずと限界がある。武器と言えば、その懐に忍ばせた拳銃一丁があるばかりだ。これでは、仮におとりが成功してプジョーを怪獣の足元まで躍り込ませることに成功したとしても、麗夢自身には、あのおぞましき魔物どもに引き裂かれる運命が待ちかまえているばかりだろう。それが判っていてみすみす麗夢一人をおとりにする非情さは、榊には無かった。
「鬼童君! 君も麗夢さんを止めないか!」
それでもこれしか手がない、と言い張る麗夢に、榊は隣に坐ってさっきから一言もしゃべろうとしない眉目秀麗な若者に呼びかけた。誰よりも麗夢を大事に思っていると自認している男が、この一大事に黙りこくっているのが榊には許せない。だが、もちろん鬼童は、手をこまねいて一人黙していたわけではなかった。
「ちょっと静かにして……。良し、繋がった!」
鬼童は、プジョー装備の通信システムにかかり切りになっていた。必死に何かを拾い上げようと、その操作に没頭していたのだ。そして、ようやく繋がったその相手に、榊は声を失った。
『誰だ!勝手に割り込んできおったのは! 自衛隊か?!』
「ケンプ将軍!」
スピーカーの怒鳴り声に、ヴィクターが思わず声を上げた。一体どうして、と集中した視線に、鬼童は答えた。
「本当は自衛隊の回線を捕まえたかったんですけどね、偶然繋がってしまいましたよ」
偶然だって? はにかむように微笑む若者の顔を凝視して、榊は思わず呟いた。その間に、鬼童の手渡すマイクを受け取って、ヴィクターが叫んでいた。
「ヴィクターです! ヴィクターフランケンシュタインですケンプ将軍!」
『ヴィクターだと?!』
一瞬、確かに檄高しかけたケンプの声が、ほんの刹那沈黙した。が、ヴィクターが話しかける前に、再びスピーカーからケンプの声が流れてきた。
『ヴィクター君、君がどこにいるのか知らないが、大阪にいるのなら早く避難した方がいい。この事態を知らぬ訳でもあるまい。京都にカール殿下がいらっしゃるから、そこに身を寄せると良いだろう』
「将軍! 貴方は?」
『儂はフランケンシュタイン公国軍陸戦部隊司令官としての職務を全うする。では、幸運を祈る』
今にも通信を切るかのようなケンプの言葉に、ヴィクターは慌てて言った。
「待ってください将軍! 僕は、僕は貴方に謝らないと……」
『黙れ!』
ケンプの一喝は、スピーカー越しでも充分ヴィクターの言葉を急停止させる威力を持っていた。うっと息を呑んだヴィクターに、ややあってケンプは語りかけた。
『ヴィクター君、儂は今、君に対して怒りをぶつけている暇はないのだ。だが、今君の姿を見たら、無意識に無反動砲の引き金を引いてしまいかねん。だからそれ以上声を出さんでくれ。では、忙しいので切るぞ』
「待ってください将軍!」
榊は身をよじってヴィクターのマイクに口を寄せた。
『うん? その声は榊警部か? ヴィクター君と一緒なのか?』
「ええ、そうです」
『それは都合がいい。是非彼をカール殿下の元に連れていってやってくれ。それから、明日の夜の予定は、済まないのだがキャンセルしてもらえんかね。どうやら、行けそうにないのでね』
「そんなことより将軍は今どこにおられるのです?」
榊の問いに、ケンプはまた少し沈黙した。
『君には本当に感謝しているよ。一度は孫を身を挺して守ってくれた。そして今また孫の危機を教えてもらい、儂はこうして孫を助けるために働くことが出来る』
「まさか将軍、新兵器であの怪物と一戦交える気なんでは?」
『はっはっはっ! 良く判ったね。その通りだ。もうすぐ奴を射程内に納められる。シェリーは私の手で必ず救い出すよ』
もしこの大阪城下において、秘密裏に建造された新型ドラコニアンと怪物化した少女とが一戦交えたらどうなるか。榊は青くなってマイクをヴィクターから奪い取った。
「将軍! 今ここにはヴィクター博士の他に、鬼童君や麗夢さんも、シェリーちゃんを助けるために現場に向かっているのです!」
『何、君らも? 馬鹿なことをしてないで、さっさと安全なところに避難したまえ! ここは私の戦場だ。君らのような素人に出てこられれては迷惑だ!』
「相手は軍隊ではありません。化け物なんですよ! それなら将軍より我々の方が余程経験を積んでいますよ」
『こちらには円光君もいる。心配は無用だ』
「円光さんも?!」
今度は鬼童がにわかに興奮を示して、榊からマイクを奪い取った。
「ケンプ将軍、鬼童です! 将軍は今、僕の開発した装置一式が搭載された戦車に乗っておられるんですね?」
『ああ、実に素晴らしいシステムだ。正直言って驚いているんだ』
「戦車は将軍だけですか?」
『いや、部下も含め、五両あるが……』
素早く計算をはじめた鬼童は、初めて満面の笑みを浮かべてマイクに叫んだ。
「将軍! 僕に考えがあります。攻撃は控えて、僕達とまず合流してもらえませんか?」
『考え?』
「ええ、シェリーちゃんを必ず救出できる最良のプランを提供します。お願いです。合流して下さい!」
スピーカーが沈黙した。部下の進言を聞いているのか、あるいは円光に意見を求めているのだろうか? 今度は少し長い沈黙だったが、それは榊や鬼童には気の遠くなるような長さに感じられた。
ケンプは答えた。
『判った。今すぐそちらに向かおう。どこにいるんだ?』
鬼童はほっと息を付いた。
「大阪城の東側、梅園の手前で夢魔達に囲まれ、動けなくなっています!」
『了解した。我々は城の西側からむかっている。これより直ちに急行するから、極力無理をせず、我々の到着を待て』
「こちらも了解しました!」
ようやく交信が途絶え、鬼童は隣でハンドルを握る麗夢に言った。
「今はともかく時間を稼ぎましょう。すぐに円光さんと強力な武器が向こうから来てくれますよ」
「わかったわ」
麗夢はプジョーを反転させると、今強引に突破しようとした夢魔達の陣に背を向けた。