新型コロナウィルスによる社会や経済への影響に対して、消費税を下げる、消費税をなくして、景気対策をするべきだという意見をよく見かけるようになりました。ですが、自分としてはこの意見に与する感覚はありません。たしかに、昨年の10~12月期のGDPはマイナス7.1%となり、消費税が10%になった影響が出ているとは思います。それだけを見れば消費税率を下げることで、消費が回復するようにみえるかもしれませんが、はたしてそうでしょうか。また、消費税率が上げられたことで何が実施されているかを考えると、例えば幼児教育・保育の無償化がありますが、下げることによってその事業はどのような財源で実施されるのでしょうか。
消費税は国税だけではなく、地方税にも影響してきます。令和二年度の鈴鹿市当初予算では、地方消費税交付金として40億8028万2千円が見込まれて、総額645億円の歳入歳出予算が計上されています。8%だった昨年度は、35億円が見込まれていたことを考えると、消費税が地方に関係する額について、鈴鹿市には大きな影響があることが分かって頂けるのではないでしょうか。このような影響は全国の自治体にあることです。
自分が大学生だった1989年、3%の消費税が導入されました。当時、能書き親父のジャパン(関西の方はわかって頂けるかも)で買い物をしたとき、レジで前に並んでいた小学生が、消費税分のことで考えているのを見て、消費税のことを「なんだかなぁ・・・」と思っていました。それから30年、消費税は10%になっているわけです。その間、所得税率が改定されたり、法人税率も改定され、そちらでは税負担が下がっていたりします(高額所得や大企業で大きいですが・・・)。
そして、消費税率と同時に考えたいことは、この30年で国と地方を合わせた長期債務が急激に伸び、総額で1122兆円になっていることです。このことについて、国の試算だから問題はないという意見もありますが、国の歳出のうち約9兆円が利息のために使われているという現状は、決して無視できないことだと思います。
ですので、私としては、消費税率を下げるのではなく、税率は同じままにして、所得に関係するところで支援をして、消費につなげる政策のほうが良いと思います。それは、消費税率を下げない分、私たちの生活のセーフティネットを支えるためや、子どもたちの教育や福祉のために、税収で実施していくということをぶらさないようにしたほうがいいと思うからです。仮に、消費税率を下げても今の福祉にかけるお金を変えない、さらに支える力を強くしようと考えるとして、赤字国債でそれを賄うことになるのだとすれば、リスクや負担を将来に先送りすることになるのではないでしょうか。
読了した井手英策氏の“今こそ税と社会保障の話をしよう”という本の中で、井手氏の言葉に「金持ちをたたく、あるいは借金して金をバラまけば幸せになるのが人間か。痛みを分かちあい、すべての人の幸福を追求するために知恵を使うのが人間か。どちらなのでしょう。もし前者だとするならば、それは人間へのリスペクトがまったく欠けた議論です。そのような人たちの弱者への「配慮」とはいったい何なのでしょう。」とあります。この部分は今一度考えるところだと思います。
ですので、とてつもない痛みが想定される状況の中で、痛みを取り除くということばかりに目を向けてしまうのではなく、なぜ痛みが出るのか、痛みと思っていることでどのようなことが実施されているのか、そのようなことにも考えを向けていくことが必要ではないかと思います。