Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2015年10月24日 | 音楽
 ラザレフが指揮する日本フィルの東京定期。1曲目はストラヴィンスキーの「妖精の口づけ」。1920年代に作曲されたストラヴィンスキーの新古典主義時代のバレエ音楽だ。

 冒頭でいかにもチャイコフスキー的なロシア情緒たっぷりの音が鳴った。この曲を聴くのは初めてではないが、はて、こんなロシア的な音だったかと思った。今までのイメージではもっと洗練された‘新古典主義’的な音だと思っていた。

 その後の展開では、柔らかく、繊細な音のテクスチュアが織られる。チャイコフスキー的なメルヘンとストラヴィンスキー的な明るさとの適度な融合。最後のディヴェルティスマンは張りのある輝かしい音が鳴った。

 演奏終了後に長い静寂。皆さんこの演奏に満足したのだろう。やがて起きた心のこもった拍手。聴衆、指揮者そしてオーケストラに心地よい一体感が漂った。

 休憩後、2曲目はチャイコフスキー作曲(タネーエフ編曲)ソプラノとテノールのための二重唱曲「ロメオとジュリエット」。へえぇ、こんな曲があったのか、というのが正直なところだ。森田稔氏のプログラム・ノートによると、チャイコフスキーが亡くなった1893年(「悲愴」が初演されたその数日後に急死した年だ)にスケッチが書かれ、それをタネーエフがオーケストレーションしたそうだ。

 歌詞を読んで驚いた。これは「トリスタンとイゾルデ」の第2幕の愛の二重唱とそっくりだ。ロメオとジュリエットが愛の一夜を過ごした後の明け方の会話。ヒバリの声(昼の世界)を認めようとせず、あれは鶯の声(夜の世界)だと信じ込もうとする2人。そこに乳母の警告が聴こえる。乳母はブランゲーネそのものだ。

 途中、幻想序曲「ロメオとジュリエット」によく似た部分が出てきた。興味深い曲だ。独唱はソプラノ黒澤麻美、テノール大槻孝志、乳母役のソプラノに原彩子。初めて聴くこの曲をしっかり楽しませてくれた。

 3曲目はショスタコーヴィチの交響曲第9番。冒頭の弦による第1主題が快速テンポの精緻なアンサンブルで始まり、この演奏の水準の高さを予感した。トロンボーンの張りのある音。その音は一夜明けた今でも耳に残っている。第2楽章の冷たく暗い弦の音色。第4楽章のファゴットの長大なソロ。第5楽章コーダでの音色の変化。どれも忘れられない。

 全体として、趣味のよいプログラムと、それに相応しい演奏だった。
(2015.10.23.サントリーホール)
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