ノット&東響の比較的地味なプログラムの定期演奏会だったが、満足度は大きかった。1曲目はシューマンの「マンフレッド」序曲。ヴィブラートが控えめで、クリアーな音が鳴った。他の方のツイッターを見ると、スダーンのころの音が残っていると書いている人がいた。なるほど、そうなのかもしれない。
2曲目はシューマンのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はアンティエ・ヴァイトハースAntje Weithaas。1966年、ドイツ生まれ。わたしは知らないヴァイオリン奏者だが、東響には2018年に客演したことがあるそうだ。長身痩躯の女性で、ドイツ人によくいる飾り気のないタイプだ。
演奏も良かった。わたしは惹きこまれた。この曲は演奏によっては退屈しがちだが、ヴァイトハースは滑らかに、かつ滋味豊かに演奏した。わたしの記憶に残っている演奏の中では、優れた演奏のひとつだ。
とはいっても、他の演奏家(というか、スター演奏家といったほうがいいが)とは多少ちがう点があった。それは音だ。現代のスター演奏家の、張りのある、大きな音とは異なり、ヴァイトハースの音は、やわらかく、くすんだ音色で、温かい音だ。そのためオーケストラに埋もれ気味になる。こちらが神経を集中して音を追わなければならない。だが、その点を呑み込むと、そこで展開されている演奏の豊かな音楽性に気付く。ドイツの日常に立脚した、落ち着きのある、自然体の音楽といえる。
演奏が終わると、バッハを聴きたくなった。すると、嬉しいことには、アンコールにバッハが演奏された。これもドイツの日常を感じさせる、地味なバッハだが、それが好ましかった。曲は無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番からサラバンドだった。
なお、付け加えると、ノット&東響の演奏も良かった。第1楽章など、第二ヴァイオリンとヴィオラが延々と三連リズムを刻んでいるような、なんとも気の毒な譜面だが、そのリズムがべったりしないで、明瞭に聴こえた。
3曲目はベートーヴェンの交響曲第2番。これも良かった。わたしはもしも「ベートーヴェンの9曲の交響曲の中でどれが一番好きか」と問われたら、第2番と答えるかもしれないが、それにしても、実演で第2番を聴くと、第1楽章と第2楽章の充実度にくらべて、第3楽章と第4楽章が物足りなく感じることがある。それがノット&東響の演奏ではなかった。第3楽章では個々のフレーズのキャラが立ち、第4楽章では快速テンポに乗って、音楽の薄さを意識する暇がなかったからではないだろうか。
(2022.11.27.ミューザ川崎)
2曲目はシューマンのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はアンティエ・ヴァイトハースAntje Weithaas。1966年、ドイツ生まれ。わたしは知らないヴァイオリン奏者だが、東響には2018年に客演したことがあるそうだ。長身痩躯の女性で、ドイツ人によくいる飾り気のないタイプだ。
演奏も良かった。わたしは惹きこまれた。この曲は演奏によっては退屈しがちだが、ヴァイトハースは滑らかに、かつ滋味豊かに演奏した。わたしの記憶に残っている演奏の中では、優れた演奏のひとつだ。
とはいっても、他の演奏家(というか、スター演奏家といったほうがいいが)とは多少ちがう点があった。それは音だ。現代のスター演奏家の、張りのある、大きな音とは異なり、ヴァイトハースの音は、やわらかく、くすんだ音色で、温かい音だ。そのためオーケストラに埋もれ気味になる。こちらが神経を集中して音を追わなければならない。だが、その点を呑み込むと、そこで展開されている演奏の豊かな音楽性に気付く。ドイツの日常に立脚した、落ち着きのある、自然体の音楽といえる。
演奏が終わると、バッハを聴きたくなった。すると、嬉しいことには、アンコールにバッハが演奏された。これもドイツの日常を感じさせる、地味なバッハだが、それが好ましかった。曲は無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番からサラバンドだった。
なお、付け加えると、ノット&東響の演奏も良かった。第1楽章など、第二ヴァイオリンとヴィオラが延々と三連リズムを刻んでいるような、なんとも気の毒な譜面だが、そのリズムがべったりしないで、明瞭に聴こえた。
3曲目はベートーヴェンの交響曲第2番。これも良かった。わたしはもしも「ベートーヴェンの9曲の交響曲の中でどれが一番好きか」と問われたら、第2番と答えるかもしれないが、それにしても、実演で第2番を聴くと、第1楽章と第2楽章の充実度にくらべて、第3楽章と第4楽章が物足りなく感じることがある。それがノット&東響の演奏ではなかった。第3楽章では個々のフレーズのキャラが立ち、第4楽章では快速テンポに乗って、音楽の薄さを意識する暇がなかったからではないだろうか。
(2022.11.27.ミューザ川崎)