Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アレホ・ペレス/読響

2022年07月23日 | 音楽
 アレホ・ペレスの読響定期初登場。アレホ・ペレスはアルゼンチン生まれだ。ヨーロッパ各地でオペラ、コンサートの両面で活躍中の指揮者。1曲目はペーテル・エトヴェシュ(1944‐)の「セイレーンの歌」(2020)。明るい光が射すような透明感と、なんともいえない軽さのある曲だ。年齢を重ねたエトヴェシュのいまの心象風景だろうか。

 演奏はその曲想を伝える名演だったのではないか。アレホ・ペレスはエトヴェシュのアシスタントを務めたことがあるそうだ。エトヴェシュの音楽をよく知っているのだろう。言い換えれば、エトヴェシュが認めるほどの才能の持ち主かもしれない。

 2曲目はメンデルスゾーンの「ヴァイオリンとピアノのための協奏曲」。メンデルスゾーン14歳のときの作品だ。演奏時間約37分(プログラム表記による)。堂々たる作品だ。おもしろい点は、オーケストラが沈黙しがちなことだ。オーケストラが沈黙すると、ヴァイオリンとピアノの二重奏になる。またオーケストラ全体が沈黙しないまでも、ピアノが演奏しているあいだは、第2ヴァイオリンは休んでいることが多い。

 ヴァイオリン独奏は諏訪内晶子、ピアノ独奏はエフゲニ・ボジャノフ。諏訪内晶子のヴァイオリンは、あまり作りこみすぎず、自然体で、存在感があった。ボジャノフのピアノはクリアな音だった。注目したのは、オーケストラがノンヴィヴラートだったことだ。いまの時代、若い指揮者はそれが当たり前かもしれない。澄んだ音で(たんなる伴奏にとどまらずに)積極的に関与していた。

 諏訪内晶子とボジャノフのアンコールがあった。フォーレの「夢のあとに」。旋律の大きな弧を描く諏訪内のヴァイオリンもさることながら、拍を刻んでいるだけのようなボジャノフのピアノもセンシブルで美しかった。

 3曲目はショスタコーヴィチの交響曲第12番「1917年」。読響の機能性とパワーがさく裂した演奏だ。弱音の集中力にも欠けない。切れ目なく続く全4楽章(演奏時間約38分)の語り口も堂に入っている。アレホ・ペレスの実力が発揮された演奏だ。個別のパートでは、第3楽章から第4楽章にかけての岡田さんのティンパニの音楽性あふれる演奏が光っていた。

 それにしてもこの曲の、第4楽章フィナーレの、あのしつこさはなんなのだろう。あれだけやられると、ショスタコーヴィチはなにを考えていたのだろうと、その真意を探りたくなる。この曲とペアの関係にある交響曲第11番「1905年」では、最後に悲劇的かつ破壊的な曲想に急変する。最後になにか仕掛けがあるらしい点で、両作品は共通する。
(2022.7.22.サントリーホール)
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