Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

2023年の音楽回顧

2023年12月30日 | 音楽
 2023年はどんな年だったろう。ウクライナ戦争は終わりが見えない。ガザではイスラエルがジェノサイドともいえる攻撃を仕掛ける。世界は戦争の時代に入ったのか。

 ともかく、わたしの2023年を振り返ろう。吉田秀和が「思うこと」というエッセイ(吉田秀和全集第10巻所収)でドイツの詩人、ギュンター・アイヒの詩の一節を引用している。次のような詩だ。「眼をとじてみたまえ/その時、きみに見えるもの/きみのものはそれだ」。わたしも眼をとじてみよう。なにが見えるか。

 まず思い出すのは、ヴァイグレ指揮読響が演奏したアイスラーの「ドイツ交響曲」だ。アイスラーが主にブレヒトの詩をもとに作曲したカンタータ的な作品。詩の内容は、第一次世界大戦後、民主的なワイマール憲法のもとでナチズムが台頭し、ドイツを破滅に導いたことを糾弾するもの。その曲をいまの日本で聴くと、第二次世界大戦後、民主的な日本国憲法のもとで何が台頭するのか不安になる。

 ヴァイグレ指揮読響の演奏は桁外れのパワーとスケールをもつ壮絶なものだった。語弊があるかもしれないが、わたしは本気になったヴァイグレを初めて知った。サントリーホールの大空間が満腔の怒りではち切れそうだった。4人の独唱者と合唱もすばらしかった。一人だけ名前を挙げると、大ベテランのファルク・シュトルックマンが、深々とした声を聴かせた。その声は崇高だった。

 もうひとつ思い出すのは、新国立劇場が新制作したヴェルディの「シモン・ボッカネグラ」だ。14世紀のイタリア・ジェノヴァの物語。平民シモンは貴族の娘マリアと恋仲になるが、マリアの父親の許しが得られない。女児が生まれるが、行方不明になる。マリアも亡くなる。失意の渦中でジェノヴァの総督に選出される。総督になっても、思うに任せない展開が続く。シモンはヴェルディには珍しく揺れ動くキャラクターだ。深みのある人物像はヴェルディのオペラの中では屈指のものだ。

 このオペラの上演は大野和士の念願だったらしい。熱く雄弁にドラマを描いた。単刀直入に核心に迫るピエール・オーディの演出とともに、このオペラの真価を問う上演だった。歌手ではテノールのルチアーノ・ガンチが収穫だった。

 2023年は暑い日が続いた。その盛りの7月に外山雄三、8月に飯守泰次郎、9月に西村朗が亡くなった。3か月連続の訃報がショックだった。海外ではフィンランド生まれの女性作曲家カイヤ・サーリアホが亡くなった。東京オペラシティのコンポ―ジアム2015ではオペラ「遥かなる愛」が演奏会形式で上演され、またサントリーホール・サマーフェスティバル2016ではテーマ作曲家になった。好きな作曲家だった。ご冥福を祈る。
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