平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「プロジェクト・シャーロック」 我孫子武丸~もし犯罪捜査専用の名探偵AIがつくられたら?

2023年03月31日 | 短編小説
 もし、AIが「名探偵」のように真犯人を推理することが出来たら──。
 暇を持てあましていた警視庁総務部情報管理課の木崎誠は「犯罪捜査専用のAI」を作り始めた。
 現在、警視庁には犯罪のデータベースはあるが、検索機能しか持っていない。
 これでは到底「名探偵」にはならない。
 プロジェクト名は「プロジェクト・シャーロック」
 シャーロックとはもちろんシャーロック・ホームズのことだ。

 名探偵のAIをつくるにあたり木崎はこんなことを考えた。

・犯人を当てるフーダニット(Who done it?)。
・アリバイや犯行方法を当てるハウダニット(How done it?)。
・動機を考えるホワイダニット(Why done it?)。
・現場の乱れ方や血痕の飛び散り方から犯行時の犯人と被害者の動きを3Dモデルで再現。
・時刻表や乗り換えアプリとの連動~これで鉄道トリックの大半は解決できる。
・画像解析機能
 犯行現場の画像から被害者の来ていた服のメーカーや本棚にある本のタイトル・出版社名を検索。
 糸のような残留物も見つけることができる。
・推理の方法は帰納法より演繹法。
 演繹法の方がコンピュータには適している。
 ちなみに
「帰納法」とは、さまざまな物証やデータから真実を導く方法。
 ホームズが依頼者を観察して、依頼者がどんな人物かを推理する方法だ。
「演繹法」とは簡単に言えばシミュレーション。
 今回の場合はすべての容疑者の行動をシミュレートし、犯罪の実行可能性を判定する。
 可能性がゼロなら、その容疑者を捜査対象から外していく。

 木崎のつくった「名探偵AI」はさらに進化する。
 このAIをオープンにしたので、世界中の「科学捜査機関」や「鑑識」がデータを提供したのだ。
「推理小説マニア」は過去の推理小説のトリックや定石をどんどんUPしていった。

 かくして木崎のつくった名探偵AIは犯罪捜査で有効なツールになる。
 AIの名前は「シャーロック」では直接的過ぎるので、
 ギリシャ語の「S」に相当する「シグマ」と呼ばれるようになった。

 そんな時、「シグマ」の開発者の木崎が殺されてしまう。
 データ提供などで「シグマ」育成に関わった世界中の協力者も次々と殺される。
 犯人は誰なのか?
 動機は名探偵AI「シグマ」が優秀になったら困る存在。
 つまり犯罪者たちだ。
 ……………………………………………

 時代はもうAIの時代。
 ChatGPT。
 マイクロソフトのEDGEにもbing・AIが搭載された。
 今後はワードやエクセルなどにも搭載されるらしい。

 そんな中、登場したのが、この作品『プロジェクト・シャーロック』だ。
「シグマ」を作る際に木崎が考えたことは技術的には可能なので、
 将来、刑事や探偵が要らなくなる時代が来るかもしれない。
 ミステリーも今後、AIが活躍する作品がどんどん出て来るだろう。
 …………………………………………………

 さて以下はネタバレ。
 その作品にはなかなか面白いオチがある。
 名探偵AIに対抗するために犯罪者たちは何をしたか?
 ネタバレでも知りたい方は以下をご覧下さい。




 名探偵AIに対抗するために──




 犯罪者たちは──




 過去の犯罪のノウハウを集めた──



 犯罪者AIをつくる!
 そのAIの名は「モリアティ」。
 もちろん、モリアティとは犯罪社会のナポレオン、ホームズのライバルの数学者の名だ。
 見事なひねり方ですね。


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