平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

松本清張 「張り込み」

2005年12月24日 | 短編小説
「松本清張はそれまでの探偵小説を読んで、人物が描かれていないことに不満を抱き、一握りのマニアを満足させる謎解き小説から、動機にウェイトを置いた社会性のある推理小説を書いた」(新潮現代文学全集「松本清張」解説/尾崎秀樹)

 松本清張の短編「張り込み」は次の様な小説だ。

 指名手配中の男を追っている柚木刑事。
 柚木は男がかつての恋人さだ子のもとに立ち寄るのではないかと思い、さだ子の家の前の旅館で張り込みをする。
 さだ子は横川仙太郎という男の後妻として小さな田舎町に住んでおり、3人の継子の世話をして暮らしている。夫の仙太郎はケチらしく、さだ子は生活にも疲れているようだ。
 ドラマはさだ子の前に男が現れる所から始まる。
 さだ子は男に呼び出され、ある温泉旅館に行く。
 そして、柚木は目撃するのだ。
「女の笑う声が聞こえた。柚木はさだ子に火のついたことを知った。あの疲れたような、情熱を感じさせなかった女が萌えているのだった。二十も年上で、吝嗇で、
いつも不機嫌そうな夫と、三人の継子に縛られた家庭から、この女は、いま解放されている」

 松本清張は、さだ子のこの一瞬を描くためにこの小説を書いているのだ。
 物語は、男が捕まることで終わる。
 そして、次の様に締めくくられる。

「この女は数時間の生命を燃やしたに過ぎなかった。今晩から、また猫背の吝嗇な夫と三人の継子との生活の中に戻らなければならない。そして、明日から、そんな情熱がひそんでいようとは思われない平凡な顔で、織物器械をいじっているに過違いない」

★研究ポイント
 一瞬の心のドラマを描くために書かれたこの作品。
 短編小説の一技法であり、清張が提示した新しい推理小説の形である。

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