中国の中央銀行HSBCの正体
書籍紹介:ジェフリー・ジョーンズ「イギリス多国籍銀行史」日本経済評論社
金融史の大家マイラ・ウィルキンス女史の研究の集大成を引き継ぐ仕事は、なかなか現れなかった。本書を見ると、ようやく膨大な金融業界の歴史文書に知悉した研究者が現れた感がする。ウィルキンスの全ての著作を古典演劇のシェイクスピアの全集とすると、ジェフリー・ジョーンズの本書は、近代演劇の始祖イプセンのアンソロジーに該当する。
全体で650ページ余りの本書は、英国金融史の書物としては短い部類になる。英国金融史をわずか700ページ未満で概説すると、どうしても説明に不足を生じる。例えば、中国で麻薬売買に従事したHSBC=香港上海銀行の母体の1つになった南部アフリカのスタンダード銀行が、南部アフリカで営業していた事は本書で語られるが、それが黒人を奴隷として酷使し、死に追い込みながらの金塊・ダイヤモンド採掘事業であった残虐な歴史については本書では語られない。
もちろんHSBCが現在の中国の中央銀行であり、その専門分野が麻薬売買であった事実も語られない。それはページ数の問題と言うよりは、著者がハーバード・ビジネススクールの教授であるという「政治性」から来ているのかも知れない。
本書には、米国中央銀行の株式が、その創立当初、英国銀行によって70%所有されていた事実が語られている。つまり米国金融界は英国の「出島」であった。英国金融史をたどる事は、つまり米国の金融業界の源流を探り、現代世界の金融の履歴書を探る事になる。
1830年を前後して米国・欧州で次々に銀行が設立され、その大部分は倒産、合併等によって現在は姿を消しているが、本書で粗述されるこうした過去の銀行の全てが、実はアジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国で住民を奴隷として酷使する大規模農園経営、あるいは鉱山経営を行っていた事実が本書では語られる。銀行の名前を考案する事がメンドウであったのか、奴隷農園で生産する農産物の名前をそのまま銀行名とした「ココア銀行」「乾しブドウ銀行」等という銀行まである。まるで現在の日本の「トマト銀行」のようにふざけた名前であるが、「奴隷にココアを生産させて、儲けを分配しますから預金してください」といった意味なのであろう。
こうして見ていると、奴隷を売買する、人身売買による農園・鉱山経営は、悪質な銀行による「悪行」ではなく、「全ての銀行が行って来た、ごく普通の営業方法であった」事が分かる。
1890年代、東南アジアでゴム等の奴隷農園を経営していた英国チャータード銀行は、中国の銀をマレーシア=マレー半島の港湾から輸出するが、この銀は中国に麻薬を持ち込み売却した利益であった。英国王室の命令で経営されていたこのチャータード銀行は、やがて南アの黒人奴隷・銀行スタンダード銀行と合併し、スタンダード・チャータード銀行となる。そしてHSBS=中国の中央銀行の母体銀行の1つとなる。こうして金・銀・ダイヤモンド・麻薬が、同一銀行によって世界規模で支配されるシステムが成立する。スタンダード・チャータード銀行とは、「英国王室によって世界全体が支配され乗っ取られる銀行」という恐ろしい意味でもある。
奴隷を酷使し、金塊・ダイヤモンドを採掘し、麻薬売買を専門としてきた、現在の中国の中央銀行の「正体」、中国金融の「正体」を、十分察知しておかなくてはならない。
アヘン戦争で主役を演じたこのHSBCは歴史に記録され悪名高いが、同じ1890年代、ベルギーの最大手銀行ソシエテ・ジェネラル・ド・ベルジックが中国に進出し、同様の麻薬事業に従事していた事は余り知られていない。フランス=ベルギーのロスチャイルド一族である。この流れが、2008年現在、中国共産党と一体化したジェイ・ロックフェラー=ロスチャイルドへとつながり、現在の中国での原発・核兵器開発へと継承されて行く。米国大統領候補バラク・オバマの資金源である。
世界各地を奴隷化し支配する事業に、こうした英仏に加えて、遅れて参加した英国領カナダが果たした凶暴な役割は注目されて良い。代表的なのがカナダの事業家ウィリアム・マクスウェル・エイトキン(初代ビーバー・ブルック卿)である。1911年、エイトキンはカナダのノバ・スコシア銀行を買収し、中南米での「奴隷・バナナ農園経営」に乗り出す。ユナイテッド・フルーツ(チキータ・バナナ)社であり、今日のCIAの源流となった企業である。
日本との関わりでは、現在、原油生産とサウジアラビアの周辺に位置するアラビア湾岸諸国として、またサッカーでも有名なバーレーンは、1920年代までは英国のイースタン銀行の支配下にあり、真珠の生産・輸出を最大の産業としていた。しかし、日本が真珠の養殖に成功し安価な真珠を世界中に輸出したために、バーレーン経済は苦境に陥る。バーレーンの天然真珠はインドに運ばれインドで加工され、その売却利益でインド製品が購入され、バーレーンの食料・生活物資として流通・販売されていた。そのためバーレーンの苦境は、そのままインドで商業を営んでいたイラン・イラク地方からのアラブ商人をも苦境に陥れた。この苦境から脱出するために、既に産油国であったイラン・イラク地方の商人達は、インド資本と欧米資本の力を借りながらバーレーンで原油を採掘し、真珠に代わる原油産業を興すことになる。
このイラン・イラク・インド・バーレーン、そしてサウジアラビアという商業ルートは現在も生きており、今後、核武装したイラン、インドの核兵器が中東諸国に拡散し、中東諸国とイスラエルの間での核戦争を準備するルートとなる。このルートが核戦争による人類絶滅に行き着く第三次世界大戦の導火線になる。
また現在、ロスチャイルドの世界第2位の鉱山会社リオ・チント社との合併を進めつつある、オーストラリア籍の世界最大の鉱山会社BHPビリトン社が、1938年前後、インスタントコーヒーのネスレ社、マーガリンの「ラーマ」等を製造する油脂会社ユニリーヴァと共に、オーストラリアの産業界の「父」であるオーストレイシア銀行の傘下にある工業・貿易商社として出発していた事実も、本書で語られている。ネスレ、ユニリーヴァは共にロスチャイルド企業であり、昨今のリオ・チントとの合併話もロスチャイルド傘下企業同士の「再編成」に過ぎない経緯が見えてくる。この企業が、今後、日本が輸入する鉄鉱石の60%を独占支配する事になる。
こうした金融界の履歴書を見ていると、そこから今後の世界の動きが透けて見えてくる。