「個体側の脆弱性」と言い放つ東電の真摯な対応
2011年7月に東京電力福島第1原発事故で避難していた福島県川俣町の渡辺はま子さんが焼身自殺したことについて、遺族が東電に計約9100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福島地方裁判所の潮見直之裁判長は8月26日、東電に約4900万円の賠償を命じる判決を示した。
遺族は焼身自殺の原因は、渡辺さんが「避難生活で精神的に追い詰められ、うつ状態になったため」として東電の責任を追及した。
安倍晋三政権は原発を再稼働させるべきではないとの主権者の多数意見を無視して原発再稼働の方針を示して暴走を続けているが、この政権の暴走に対する風向きが明らかに変化しつつある。
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5月21日には、福井地方裁判所の樋口英明裁判長が、関西電力大飯原発の運転を停止する命令を示した。
福島事故は地震と津波を原因として発生しており、原発の安全性は、少なくとも地震と津波に対する万全の対策を講じなければ確保されない。
地震に対する備えとしては、日本国内で発生し得る自身の揺れの強さに耐えるものでなければならないことは当然である。
その際、ひとつの目安になるのは、2008年の岩手宮城内陸地震で観測された4000ガルの地震動である。
これは、あくまでも最低ラインではあるが、2008年にこの水準の地震動が観測されているのだから、原発は最低でも4000ガルの地震動に耐える設計になっていることが必要不可欠だ。
誰にでも分かる、誰にでも理解できる理屈である。
ところが、日本の原発の耐震基準はこの地震動に耐えるものにさえなっていない。
原子力規制委員会は規制基準を定めて、原発の現実が規制基準を充足するものであるかどうかを審査する機能を担っているが、その規制基準が原発の安全を確保するものになっていないなら、お話にならない。
原子力規制委員会の田中俊一委員長が、原発が規制基準をクリアしても、
「原発が安全だとは言っていない」
と述べているのは当然のことであるが、そうであるなら、田中氏は原発の規制基準を変更することを実行するべきである。
安倍政権が大地震の頻発地帯に立地する鹿児島県の九州電力川内原発をわずか620ガルの基準地震動で再稼働させようとしているのは、言語道断である。
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7月13日には、滋賀県知事選で安倍政権が擁立した元経産官僚の候補者が落選した。
知事選の最大の争点は脱原発の是非であった。
政府の御用新聞に堕落しているのが読売、産経、日経の三紙である。
安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定について、賛辞を示した全国紙がこの三紙である。
地方紙では、北国新聞(石川)、福島民友新聞(福島)、富山新聞(富山)以外の各紙は閣議決定を糾弾する社説を掲載した。
読売、産経、日経の突出ぶりがよく分かる。
その一角を占める日本経済新聞が実施した世論調査でさえ、原発再稼働に反対の世論が過半数を占めている。
日経新聞とテレビ東京が8月22~24日に実施した世論調査では、原発再稼働について、
再稼働を進めるべきだ 32%
再稼働を進めるべきでない 56%
の結果が示された。
普通の新聞なら、見出しは、
原発「再稼働進めるべきでない」56%
とするだろうが、さすがは日経新聞である。見出しは、
原発「再稼働進めて」32%
とした。不思議な新聞である。
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今日判決が示された、渡辺さんの原発事故後の自殺に東京電力の責任があるかを争う裁判の第3回口頭弁論において、東電は驚くべき口頭弁論を行った。
東電代理人は、
「個体側の脆弱(ぜいじゃく)性も影響していると考えられるから、考慮した上で相当因果関係の有無を判断すべき」
と主張したのである。
渡辺さんの弱さが自殺の原因だと主張し、その渡辺さんの弱さを、
「個体側の脆弱性」
と表現した。
東京電力はテレビ朝日の取材に対して、
「真摯に対応してまいりたい」とコメントしたが、口頭弁論での言い回しは、原発事故被害者の気持ちを逆なでするものでしかない。
慇懃無礼という言葉があるが、「真摯に」と言葉の上でだけ述べて、心のなかでは、被害者を単なる「個体」としか見ていないのだ。
人として見ることもなく、個人として見ることもない、単なる物質。それが「個体」である。