日々の恐怖 2月19日 カード
去年の暮れのことだ。
池袋のとあるレストランで、会社の忘年会があった。
二次会は部署内で、三次会は仲間内での飲み会になった。
家路につこうとする頃には終電も過ぎ、タクシーを使うことにした。
タクシー乗り場は例年のように長蛇の列。
私は連れと三人だったが、一人だけ帰路が違った。
彼らは乗合で乗車し、先に帰っていった。
一時間も待ち、なかなかタクシーが来ない。
私は痺れを切らして、目白の方へ一人歩き出した。
線路に沿って歩いていたつもりが、細い路地に入り込んでしまった。
塀に沿って進むうち、その向こうは墓所であることが分かった。
ちょっと気味悪いなと感じながら足早に歩くと、突然私の脇を子供が通り過ぎた。
黄色いパジャマを着ていた。
この寒空に、などと感じる暇はなかった。
その子供は、塀の中に吸い込まれるよう消えたのだ。
私は声こそ出さなかったが、恐怖のあまり駆け出していた。
ようやく広い通りに出て、運良くタクシーを拾うことができた。
運転手にちょっと話を振ると、年末は忙しくて幽霊なんか見る暇も無いとのこと。
私も笑い話につられて、さっきは目の錯覚だったかもと思い始めた。
家に着く頃には、半信半疑、まあそんなこともあるか、くらいの余裕だった。
そしてタクシーから降りることになって、運転手から声をかけられた。
「 お客さん、忘れ物・・・。」
振り返ると、ポケモンか何かのカードだった。
私が座っていた場所にあった。
「 違う、これは私のものじゃない。」
と言うと、運転手が不思議そうに言った。
お客さんを乗せる前には何も無かったと。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ