日々の恐怖 2月11日 幻影(4)
Kさんは、とっさに茂みに身を隠しました。
逃げようとして下手に動くより、藪に隠れてやり過ごそうと考えたのです。
その白骨は、相変わらずフラフラと歩いてきます。
そしてよくよく見れば、何かを引きずっているようでした。
その引きずってる物を見て、Kさんは再度仰天します。
それは、足に縄を掛けられた白骨でした。
しかし、引きずっている奴が狩衣を着ているのに対して、引きずられている白骨は立派な着物を着ています。
恐らく、貴族か何かなのでしょう。
Kさんが推測するに、
“ 狩衣の男は主殺しをしたのではないか。”
との事です。
ここで言う主とは、引きずられている貴族風の白骨。
その従者たる男は、その罪の為に死罪となったのではないか。
が、当時のK少年は、そんな事を考えるほど余裕がありません。
ただただ、
“ 頼むから気付かれませんように。”
と願うのが精一杯でした。
やがてその白骨は、Kさんの隠れている茂みの前までやって来ました。
そして、そのまま通り過ぎてくれるかと思いきや、そこで立ち止まって周囲を見渡し始めました。
“ しまった、気付かれたか!”
狩衣の白骨は、縄を持つ方とは逆の手を、そろそろと腰の刀に伸ばします。
もはや一刻の猶予もなりません。
見付かるのは時間の問題であるように思えました。
いや、既に見付かっているのかも。
“ じっとしていても見付かる。
ここはイチかバチかやるしかない。”
Kさんは声にならない声を挙げながら藪から飛び出し、一足飛びに道を飛び越えて、転がるように山を下り始めました。
後ろからは刀が空を切るような音がしましたが、振り返る勇気などありませんでした。
躓いたり転んだり、枝に顔を打たれたりしながらも必死に山を下り、気付けば自分の住む村のすぐ近くの道に出ていました。
日はすっかり昇っていましたが、それでも安心できずに村まで駆けて行きました。
村では、
「 Kが消えた、神隠しにでも遭ったのではないか・・・?」
と話し合ってる最中でした。
Kさんは事の次第を両親に話したそうです。
それを聞いた両親は、
「 山の神様が息子を護って下さった。」
と大層喜んだそうです。
また、2人の女性が話した自分の名前ですが、
“ 1つは村の近くにある山、もう1つは少々遠方だが有名な山に居る神様の名前ではないか。”
との事でした。
狩衣の男と貴族の白骨に関しては、両親も全く知らなかったそうです。
Kさん自身も色々調べてみましたが、結局分からなかったそうです。
もし、Kさんが女性の言う事を聞かずに、最初の道を行ったらどうなっていたか、もし、狩衣の男に捕まっていたら・・・。
すべては闇の中です。
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