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日々の恐怖 2月20日 黒い蓋つきのビニールケース

2016-02-20 19:06:15 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 2月20日 黒い蓋つきのビニールケース



 ある日、海外勤務していた友人から至急の電話があった。
日曜の明け方、シンガポールからだった。
 寝ぼけ眼で受話器を取ると、

「 社宅のトランクルームに私物を預けてあるんだが、それを取って来てもらえないだろうか?」

挨拶もそこそこに友人は切り出した。

「 管理人に話は通してあるから、悪いが今日中に取りに行ってくれないか?」

切羽詰った様子は受話器の向こうからも感じ取れた。

「 黒い蓋つきのビニールケースなんだ。
それがすぐ必要なんだ。」

友人のたっての頼み、こちらにも断る理由がなく勢いで受けてしまった。
 荷物の引き取りはスムーズにいったのだが、肝心なことを忘れていた。
友人の電話番号を控えていなかったのだ。
 確か年賀状があったはずだと家捜ししたが、途中でひどく面倒臭くなってしまった。
今日中に連絡あるだろうと思い、そのまま部屋で待機した。
 夜更かしして朝早く起こされ、そのまま電車で郊外の団地まで行き、昼過ぎにはすっかり疲れていた。
そして、うたた寝してしまった。
 夢うつつに赤ん坊の泣き声が聞こえていた。
ふっと目を開けると、視線の先にビニールケース。

“ そう言えば中身は何か聞いていない。
もし国際郵便で送ることになれば、内容を知っていなけりゃなあ・・・。”

そんなことをぼんやり考えていた。

“ このまま送って構わないのかな・・?”

などと自分に言い聞かせながら、ケースを厳重に梱包してあるテープを剥がした。
 中からは色々なベビー服が出てきた。
そして一番奥から、バスタオルに包まれた赤ん坊のマネキン人形があった。
 マネキン人形は、柔らかい樹脂か何かでできたかなり精巧なものだった。

“ こんなもの売っているのか?”

と思いつつ人形の体に触れていると、背中に何か感触があった。
 タオル地の服をめくると、一通の手紙が出てきた。
友人には悪いと思ったが、ここまで来て止めるわけにはいかなかった。

“ この人形をあなたの赤ちゃんだと思って可愛がってください。
あなたの愛情が人形に伝われば、あなたは再び身ごもるはずです。
その時が来たら、この人形をすみやかに同じ境遇の女性に渡してください。
手元に置いてはいけません。
もし手放さなければ、あなたは一生この人形を愛しつづけることになります。”

手紙にはそう記されていた。
 友人は結婚していた。
子供はいなかった。
 いろいろ思いを巡らしていると電話が鳴った。
友人からだった。

「 間違いがあったら困るんだ。
Fedexで会社宛に郵送してくれ。」

こちらも人形のことは黙っていたし、友人も口にしなかった。
 数日して、友人から荷物が無事に届いたという知らせがあった。
その後、友人とは音信不通になったが、あの人形の行方について時々考えることがある。











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