大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 2月27日 川の呼ぶ声(2)

2016-02-27 19:53:50 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 2月27日 川の呼ぶ声(2)



 しかし、さほど危険ではないので、最後に上の淵を攻めてから終わることにした。
上の淵に竿を出すと一発で掛かった。

“ 大きい!”

慎重に取り込む。
 上がった魚は50cmを越えるイワナだった。
しかし、確かにイワナなのだが、ガリガリに痩せている。
産卵後のイワナを見たことがあるが、それよりも遙かに痩せ衰えている。
 餌が豊富なこの渓流で、今までこんな痩せた気味が悪い魚は見たことがない。

“ もう帰ろう…。”

釣った魚を逃がして竿をたたんだ。
 帰り支度を整えて振り向くと、道がない.。
先ほど登ってきた道、そこには苔むした岩と老木が、まるで何十年もそこにあるように道を塞いでいた。
半ばパニックになりながら別の道を探した。
 下流を向いて左側の岩伝いに、何とか下の淵へ行けそうである。
躊躇なく岩に飛びつき、足場を確認しながら下流へ向かうことにした。
 少し進むと、

「 お~い!」

と頭の上の方から声が聞こえた。
 歩を止めて上を見るが、崖の上に人の姿はないようだ。
もっとよく見ようと少し戻り、頭上に張り出した木の根を掴んだ。
その瞬間、

「 おいっ!!」

背後からの大きな声がした。
そして、自分が掴まっていた岩が足場ごと岩盤から剥がれた。

“ ガアアァァン!”

岩は大きな音を立てながら淵の中に落下していった。
 俺は木の根を掴んだ状態で宙づりになっていた。
もし手を離していたら、今頃は淵の底で岩に押しつぶされていただろう。
まさに紙一重だった。
 上の淵の砂地の所へ戻ると、両足がガクガク震えている。
全身に鳥肌が立ち、気持ち悪い汗が止まらなかった。

“ さっきの声は・・・?”

辺りを見回したが、声の主らしき人は何処にもいない。
 ふと気付くと、さっきは岩と老木があった場所に登ってきた道が見える。
オレは少しでも早くこの場を離れたくて、無我夢中で川を下った。
 翌日、釣りの師匠である近所の爺さんに、この話をした。
すると、

「 川が呼んどったんじゃろうなあ。
けど、無事だったのは、山がお前を助けてくれたんじゃな。
川が呼ぶ日がある。
山の呼ぶ日もある。
どちらも怖いよ。
そういう日は深く入らねえほうがええ。」

もっと早く教えてくれよ、師匠。












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