日々の恐怖 3月15日 告白
小学校低学年の時、仲の良かったT君と近所の工事現場で遊んでいました。
下水管を配管するための工事だったらしく、深さ3メートル、横幅2メートル、長さ10メートルくらいの大きな穴があいていて、その上に幅30センチくらいの横板が2~3本渡してありました。
その穴を私が恐々覗き込んでいた時、T君はふざけて私の背中を軽く押しました。
その行為がかなり頭にきてしまい、T君が覗いた時に、私は彼の背中を強く押しました。
T君は穴の中に落下して、動きません。
呼んでみても返事がありません。
私は頭が混乱して、泣きながら家まで走りました。
家に着くなり母親に向かって泣き叫びました。
「 T君が穴に落ちちゃった!」
母親は私を連れ工事現場まで走りました。
穴の中には横たわったままのT君がいました。
それから後はよく覚えていませんが、救急車やパトカーが数台きました。
近所の人もたくさん集まってきました。
警察や親を含めた数人の大人に、
「 どうしてT君は穴に落ちたの?」
と聞かれました。
私は、
「 T君が横板を渡ろうとして落ちた。」
と答えました。
怖くて怖くて嘘をつきました。
数日後、T君は息を引きとりました。
詳しく説明されませんでしたが、落下時に頭部を強打したことが原因だったらしいです。
T君のお葬式にも行きました。
T君の父親は涙をながしながら私に向かって、
「 Tと仲良くしてくれてありがとう。
Tは天国に行っても○○ちゃんのことを絶対に忘れないから、○○ちゃんもTのことを絶対に忘れないでね。」
その途端、私は泣き出しました。
周りの大人は、T君の死を悲しんで私が泣いたと思ったみたいですが、その時の私はT君の父親のセリフが、
『 Tは○○に殺されたことを忘れない、○○もTを殺したことを忘れるな。』
と言う意味に聞こえ、恐怖のあまり泣き出したのでした。
泣き続ける私は母親に抱きかかえられながら家に帰りました。
それから数日間、学校を休んだ記憶があります。
その事件に付いては、その後誰も口にしません。
みな私のことを気遣ってくれたのでしょう。
今でも時々T君の夢をみます。
いきなり後ろから誰かに背中を突き飛ばされます。
私は深い穴に落ちます。
穴の中から上を見上げると、T君がじっと私をみつめています。
そこで必ず目が覚めます。
T君は、いつになったら私を許してくれるのでしょうか。
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