日々の恐怖 3月14日 化学の先生
高校の時の化学の先生は几帳面な人だった。
そんな先生の引っ越し先に奇妙なことがよく起きる。
誰もいない部屋にゼーハーという苦しげな呼吸音がしたり、床下から突き上げるようにドスドスという音がしたり、ある日は家中の鏡という鏡にヒビが入ったり。
先生は、
「 家鳴りがひどい。欠陥住宅だ!」
と言っていたが、私たち生徒は、
「 それは絶対に霊だ!」
と噂し合っていた。
そんなある日、新聞部の連中が、先生の借家で15年前に自殺があったと載っている地元新聞の記事をたまたま発見し、学校に持って来た。
「 やっぱり霊だ!」
と私たち生徒が騒ぎ、先生も渋々ながら、
「 霊なのかもしれない・・・・。」
と妙に納得したようだった。
その日の夜から、化学の先生流の除霊が始まった。
異音がする度に、先生は布団から出て部屋の真ん中に正座し、
「 君はね、もう死んでいるんですよ。
自分の宗教流儀に則って、成仏したらどうですか。
私に頼られても無駄ですよ。
そもそも君は迷惑です。
無関係な人間に迷惑をかけてでも、自分の希望を押し通すなんて身勝手過ぎます。
君も、生きている時は社会人だったのでしょう?
少しは常識というものを考えてですね・・・。」
そういうお説教を音が止むまで、10日ほど続けたそうだ。
そして最後の晩、いつものように異音がし、いつものようにお説教をかましていたら、黒い靄の様なようなものが現れ、
「 申し訳ありませんでした。」
と謝罪し、異音はなくなったんだと。
以来、先生は、幽霊さえも降参する粘着説教教師として、生徒たちに尊敬されることとなりました。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ