日々の恐怖 3月12日 挨拶
母(今年で47歳)が子供の頃体験した話です。
夜中に玄関が開く音で目が覚め、こんな時間に誰だろうと思っていると、誰かが母の居る部屋へ向かって歩いてくる音がする。
布団の中から廊下を見ると(夏場だったのでふすまは開いていた)、誰かが裸足で部屋の前に立っている。
視線を上へ向けると、白っぽい浴衣のようなものを着た中年女性だ。
それは近所に住むおばさんだった。
「 ○○ちゃん、お父さんはどこ?」
母が祖父が寝ている奥の部屋を指差すと、おばさんはすすっと歩いて行ってしまった。
“ こんな時間に一体何の用事なんだろう・・・。
あれ?
あのおばさんは、ずっと入院しているんじゃなかったっけ?”
母は、疑問を抱きつつもすぐに寝入ってしまった。
翌朝起きて茶の間へ行くと、祖父もすでに起きていた。
「 なあ、近所の××のおばさん、ずっと入院していただろ。」
「 うん。」
「 実は、亡くなってしまったんだよ。」
「 えっ! そのおばさんなら、昨日の夜うちに来たよ!?」
「 そう、父さんのところへ挨拶に来てくれたんだ。」
なんでも、自分の死期を悟ったおばさんは最期の力を振り絞り、病院を抜け出して世話になった人間に礼を言いに来たらしい。
この話を聞いたとき、人間の執念ってすごいなァと思った。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ