日々の恐怖 3月29日 青い袖(1)
最初に気が付いたのは、私が小学校4年で弟が小学校2年のときだった。
一緒にガンダムを見ていたら、普段めったに口を開かないおとなしい弟が、ふいに後ろを振り返って、
「 聞こえない・・・。」
と言った。
私と母は目を丸くして、母が、
「 どうかした?」
と尋ねたが、
「 なんでもない。」
と、弟にしては珍しく慌てた様子だったのが余計怪しかった。
その日の寝る前、母に、
「 弟に何か変わったことがあったら報告するように。」
と言い付けられた。
それは割とすぐに起きた。
当時毎日のように近所の神社で遊んでいたが、そこへ向かう途中の出来事だった。
前を歩いている弟が何もない道なのに、まるで何かを避けるように弧を描いて歩いた。
そこは道路の脇にお地蔵様の祠がある場所だった。
いままで前を歩いてばかりいた私は気が付かなかったが、弟はそこを通り過ぎる時、必ずそうしていた。
母に話すと、母は弟を病院に連れて行った。
最初は眼科で、次は精神科だった。
弟は黙って母に従っていた。
帰ってきた母に、
「 どうだったの?
○○ちゃん病気なの?」
と尋ねると、詳しい検査の結果は明後日に出るが、特に異常は見あたらず、至って健康だと言われたらしい。
医師の質問にもはきはきと答え、賢い息子さんだと褒められたようだ。
幻聴と幻覚については、現時点で生活に支障がなければ様子をみてみましょう、ということになった。
後日、私と母が検査結果を聞きに行くと、怖い病気が潜んでいる可能性はなく、視覚や聴覚にも異常はなく、知能指数が平均よりずっと高いと言われ、母が何故かとても嬉しそうにしていたことを覚えている。
それは、私も嬉しかった。
しかしそれから弟は、私と神社に行かなくなった。
そればかりか、遊びに誘っても、違うグループに行くようになってしまった。
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