● 演色性を巡る「2」と「3」の抗争
国立大学法人東北大学・多元物質科学研究所の垣花眞人教授の研究グループは、青色光励起により強い
赤色発光を示すシリケート系酸化物蛍光体を開発。この研究では、これまで緑色蛍光体として知られて
きたEu2+賦活カルシウムケイ酸塩に対し、「結晶サイト工学」の概念に基づいてEu2+ 置換サイトを制御
することで、酸化物としては初めてとなる実用的な青色光励起・赤色蛍光体を実現。この蛍光体は照明
およびバックライト用高演色白色LED素子の応用展開が期待されている。従来の照明素子に比べて 低
消費電力、長寿命であり、照明分野での省エネルギーを実現が可能だ。同様の理由から、白色LEDは、
平面ディスプレーや携帯電話などの液晶パネルのバックライト光源として広<使用されているが、照明
用途の白色LED素子の多くは、青色LEDと黄色蛍光体(YAG:Ce)を組み合わせた二波長型と呼ばれるタイプ
は、得られる白色光は赤色の光が弱<、照明用光源として使用するには演色性が低い。
● 結晶サイトエ学
母結晶においてドーパントが占有すサイト(支配領域)を制御することで、物質の特異な機能を引き出す
ことができる。蛍光体の物質探索においては、新しい物質探索技術である。
これに対して、青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた三波長型白色LEDは、二波長型で不足す
る緑色と赤色領域の光(上図参照)を補うことができ、高い演色性を実現できるが、現在までに青色光照射
で強い緑色発光を示す蛍光体が多数報告されてきたが、赤色蛍光体の実用的な蛍光体は、数種類の窒化物
のみに限られていた。これらの窒化物蛍光体の合成には特殊な製造工程を必要とする。今後、蛍光灯代替
など、白色LEDをより多種多様な光源へ利用するためには、より簡便な手法で合成可能な赤色蛍光体が求
められていた。Eu2+を少量調合したCa2SiO4が、紫外線励起により強い緑色発光を示すことは、古くから知
られてきた。下図に示すように、低濃度のEu2+を賦活したCa2Si04蛍光体(Ca1.9Eu0.1Si04)は、励起波長365nm
において、520nm付近を最大強度とするブロードな緑色発光を示しす。これに対して、今回、垣花グループが
発見した高濃度のEu2+を調合したCa 1.9 Eu0.8Si04は、波長365nmで励起した場合でも、最大発光波長を650n
mとする強い赤色発光を示す。このCa1.2Eu0.8SiO4赤色蛍光体開発には、「結晶サイトエ学」の概念を利用し
たEu2+の置換サイト制御が重要な鍵となっている。 Eu2+は、Ca2Si04のCaサイトに置換することができる。
ここでCa2SiO4は、大き<分けて2種類のCaサイト[Ca(1n)およびCa(2n):n=1-3]をもつ。
Ca(1n)サイトの平均Ca-O距離は、Ca(2n)サイトのそれに比べて長くなっています。結合距離が短くなると結
晶場が強くなるため、Eu2+からの発光が長波長化することが一般的に知られています。このことから、Eu2+
武活Ca2SiO4では、Eu2+をCa(2n)サイトに置換することで長波長の発光が得られると期待されるが、Eu2+イ
オンはCa2+イオンに比べて大きいために、空間的により広いサイトであるCa(2n)サイトに選択的に置換さ
れます。ここで、Eu2+賦活量を多<すると、Eu2+の一部は、Ca(2n)サイトにも置換されるだろうと発想。実際
に、Eu2+の賦活量を大きく変化させると発光スペクトルが顕著に変化し、Eu2+賦活量が20mol%(Ca1.6Eu0.4Si
O4)以上になると、長波長発光が発現することがわかった(上図)。続いて、リートベルト解析により、
Ca(1n)およびCa(2n)サイトにおけるEu2+占有率について調べてみると、緑色発光を示す低濃度賦活試料(Ca1.9
Eu0.8SiO4)では、大半のEu2+はCa(1n)サイトに置換され、Ca(2n)サイトヘの置換は.0.2%程度にとどまってい
るが、長波長発光を示す高濃度賦活試料(Ca1.4Eu0.6SiO4およびCal.2Eu0.8SiO4)では、Eu2+はCa(1n)サイト
だけでなく、Ca(2n)サイトにも2.5~3.5mol%も置換された(下表参照)。このように、これまで緑色蛍光体と
して知られていたEu2+調合Ca2SiO4蛍光体に対して、「結晶サイトエ学」の概念に基づいきEu2+の置換サイト
を制御することで、高強度な赤色発光を得ることに成功する。
今夜は、目に見えない微量な蛍光体の成分配合と精製条件を変えることで人間的な物理特性の演色性を欲
求を満足させ、環境リスク本位制的な品質をも満足させることができる蛍光体、つまり発光ダイオード材
料の開発事例を学び、人間の欲望の多様性をまた新たな段階にあることも学びそれなりに科学・工学の面
白さも触発されたわけだが、その反面なぜそこまでして「高演色性」に拘るか不思議に感じる自分がいた
のもの確かで、実に不思議だ。
【遺伝子組み換え作物論 30】
第8章 バイテク産業に対して広がる抗議活動
(4)バイテク産業の経営状況
「社会科学研究所(ISIS)」は次のように報告している。
「バイテク企業の株価は2000年がピークだったが、その後は急落している。米国でも欧州で
も産業平均を下回っている。遺伝子産業では大量の解雇が起きており、数千人が職を失った。多く
の企業が2桁の赤字を出している」。遺伝子産業が好調な時代は過ぎ去ったのである。
米国では2002年に、バイテク業界全体で116億ドルという記録的な損失を出した。
2001年に68億ドルだった損失が、71%も増加したのである。主なバイテク企業の損失を合
計すると、2005五年までの累計で460億ドルにのぼる。米国の主要なバイテク企業318社
のうち、2003年までの3年間、続けて黒字を出しだのは約20社だけだった。
欧州でも同様に、バイテク産業の売上高は低下しており、従業員数も減少した。2002年には、
研究開発への投資が11%減少した。科学誌『ネイチャー・バイオテクノロジー』(2002年3
月号)の記事は、欧州における遺伝子組み換え作物の衰退を次のように伝えている。
・欧州委員会の調査によると、EU圈での試験栽培は1998年と比較して87%も減少した。
・近年では、遺伝子組み換え作物の研究開発を依頼されても、主要な農家化学企業の3分の2が
断るようになった。
・欧州委員会の調査によれば、「欧州では市民の大多数が、遺伝子組み換え作物はほとんど価値
がなく、社会的に危険であると考えている」
・欧州で実施されていた初期段階の開発事業は海外に移転しており、この傾向は今後も続くと思
われる。
「社会科学研究所(ISIS)」も次のように報告する。
「各社は次々と不採算の農業バイテク部門を切り離しており、2002年からはモンサント杜の
経営状況も揺らぎはじめている。採算性が急激に悪化し、米国とアルゼンチンにおける種子の販売
高も減少している」。2002年末には、モンサント社の最高経営責任者が交代した。
モンサント社は、2003年10月には欧州から撤退を始めた。従業員を世界全体で九%削減し、
1億8800万ドルの損失を出した。株価も約6%下がっている。2003年から2004年にか
けては多くの作物の商品化を中止した
(5)拒否された遺伝子組み換え小麦
遺伝子組み換え作物がそれほど素晴らしいものであるのなら、なぜモンサント社はこれほど多く
の反対にあうのだろう。とりわけ、遺伝子組み換え小麦を商品化しようとした時には、米国とカナ
ダの「全国農民組合(NFU)」「米国トウモロコシ生産者協会(ACGA」「カナダ小麦委員会
(CWB)」やその他の有機農業団体など200以上の団体が、中止を求めてロビー活動を展開し
た。
とくに危機感をもったのが、年間40億ドルの小麦を輸出するカナダの農家だった。「カナダ小
麦委員会」は、「我々の販売先の3分の2は遺伝子組み換え小麦を歓迎していないし、一般の小麦
に混入する可能性もある」と批判した。カナダの農家も87%が、一般の小麦を生産できるなら、
遺伝子組み換え小麦は栽培したくない」と回答した。そのため、カナダの農業団体はモンサント社
に対して遺伝子組み換え小麦からの撤退を求める意見広告を主要紙に掲載した。さらには最終手段
として、「場合によっては裁判所に訴える」とまで主張したのである。
「米国小麦連合会(USWA」も販売先や製粉業者、消費者の意向を調査したところ、そのほと
んどが反対であることがわかった。米国も2002年には、36億ドルの小麦を輸出していた。
小麦の販売先の一人は次のように語っている。
「消費者が、遺伝子組み換え小麦でつくったパンを買いたいと言うまで、遺伝子組み換え小麦は
生産しないでほしい。もしも少しでも遺伝子組み換え小麦の生産を始めたら、それが遺伝子組み換
えだろうと、一般の小麦だろうと我々は購入しないだろう」
アルジェリア、エジプト、EU、韓国、中国、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そして
最大の顧客である日本などの輸入業者も、繰り返し明確に「遺伝子組み換え小麦を受け入れること
はできない」と伝えてきた。
最終的にはさすがのモンサント社も商品化をあきらめざるをえなくなり、2004年5月には、
世界中で遺伝子組み換え小麦の事業から撤退すると発表した。「ニューヨーク・タイムズ」紙は、
「モンサント社は、遺伝子組み換え小麦によって、数十億ドルもの輸出市場を失うことを危惧した
米国農家に屈服する結果となった」と報じた。
「食糧とバイオテクノロジーに開する信徒運動」のマイケル・ローゼマイヤーは、「米国の農家が
遺伝子組み換え小麦を拒否したことで、モンサント杜は他の作物の開発についても躊躇するように
なるかもしれない」と指摘する。
しかし残念なことに、誰もが予測したとおり、遺伝子組み換え小麦を断念したはずのモンサント
社は、カナダで秘密裏に試験栽培を続けている。カナダの遺伝学者ショー・カミンズは、「この現
実こそ、カナダの規制当局がモンサント社に対してまったく従属的な立場にあることを示している」
と批判する。
(6)戦争は終わらない
いくつかの勝利もあったが、安心はできない。小さな闘いに勝利したからといって、戦争が終わ
ったわけではない。これまでバイテク企業は、数十億ドルも投資してきた。最後の最後まで、彼ら
がこの事業から撤退することはありえないのだ。NGO「ジーン・ウオッチUK」のスー・メイヤ
ーは、「ガーディアン」紙(2004年5月)の記事の中で次のように指摘している。
「遺伝子組み換え飼料を家畜に与えることは今後も続くだろうし、人々が知らないうちに生産量
が増える可能性もある。さらには、遺伝子組み換え作物をバイオ燃料や工業用化学薬品の原料、あ
るいは牧草など食品以外の用途に使用するために、開発を進める可能性もある」
さらにスー・メイヤーは新興国や途上国の将来について言及している。
「バイテク産業にとって、途上国の市場は大きな魅力だ。すでに、インドに遺伝子組み換え綿を
導入させたことで、アジアの巨大な綿市場に進出する足場を築いた。南アフリカも、アフリカ大陸
に進出するために利用されたのだ」
バイテク企業と農業化学企業にとって、アフリカは重要なターゲットだ。巨大な市場が存在して
いるうえに、ほとんどの農民は種子を自家採取しており、これまではほとんど農薬を使用していな
いからだ。バイテク企業は、東南アジアでも遺伝子組み換えトウモロコシを一挙に普及させようと
している。こうした途上国には、食糧援助と称して遺伝子組み換え作物を送ることが、バイテク企
業にとって新たな市場を開拓するための重要な手段となっている。
旧共産主義諸国でも、すでにブルガリアとルーマニアでは遺伝子組み換え作物を商業栽培してい
るため、地方全域で混入や交雑が起きる可能性がある。しかもこれら旧ソビエト連邦から新たに独
立した国々では、事実上、まったく規制がされていない。モンサント社とデュポン社の子会社パイ
オニア社はこの状況を利用して、遺伝子組み換え作物を広範に普及させようとしている。EUと国
境を接し、EU加盟を希望している国々で遺伝子組み換え作物が広がれば、何の表示もされていな
い遺伝子組み換え大豆やトウモロコシが、違法のままEU域内に輸入される可能性もあるのだ。
現在旧共産主義圈で遺伝子組み換え作物を栽培しているのは、チェコ、ポーランド、スロバキア、
ルーマニアだが、その面積はわずかである。
リーズ、アンディ 著 『遺伝子組み換え食品の真実』
この項つづく
● デジタル南京錠