宣公11年(- 598) 楚の荘王、夏徴舒を討つ / 楚の荘王制覇の時代
※ 【経】冬十月、楚人、陳の夏徴舒を殺す。丁亥、楚子、陳に入る。
公孫寧・儀行父を陣に納(い)る。陳の国で大夫の夏微舒が君主の霊公を殺した。
そこでこの年の冬、禁の荘王は衰氏討伐の兵を起こし、まず陣の人々に向かって
六百を発した。「おまえたちに危害は加えない。少西氏(夏氏)を討伐するだけ
のことだ」
こうして陳にはいると、夏徴舒を殺し、その死骸を栗門(陣の国都の城門)で車
裂きにした。そして、陳をそっくり楚の頂上に編入し、一つの県とした。陳候(
霊公の子、成公)が晋に出かけている間の出来事であった。おりしも、斉に使い
していた申叔時が、楚に帰ってきた。申叔時は荘王の前にすすみ出ると、報告を
すませただけで退出した。荘王は使いをやって詰問した。
「夏徴舒が主殺しという大罪を犯したので、わたしは諸侯をひきつれ討伐した。
諸侯、諸県の代官うちそろって慶賀の意を表したというのに、おまえだけが知ら
ん顔をしているのはどうしたわけだ」
申叔時はふたたび荘王のもとにまかり出ると、
「それでは、わたしの意見を申しあげてよろしゅうございますか」
「よいとも」
「夏徴舒が霊公を殺した罪は、いかにも重うございます。それを討伐されたのは、
たしかに義にかなった行為と申せましょう。
しかし、
"牛を曳き人の畑を通るひと
怒って牛をとりあげる畑の主”
という諺があります。
牛をひいて他人の畑を荒らすのは、たしかに悪いことです。しかし、そうかとい
って、その牛をとりあげたとしたら、その方がよほど重い罪となりましょう。
このたび、諸侯があなたの会今に従ったのは、不義を討つとのお言葉があったれ
ばこそです。それなのにあなたは陳を併合してしまった。これでは不義を討つど
ころか、領土欲を満足させただけのことになりはしませんか。大義名分によって
諸侯を集めておきながら、あげくのはてに自分の領土を増やすとは、もってのほ
かのことと存じます」
「なるほど、そういわれればそのとおりだ。誰もわたしにそんな忠告をしてはく
れなかった。では、陳をもとにかえせばよいのだな」
「そうなさいませ。
"その懐から取り
その手に返す"
わたくしたち下賤の者の間でも、こう申すくらいです」
そこで荘王はふたたび陳を独立させた。そして、陳の各郷の住民から一人ずつ選
んで楚に住まわせ、その居住地を「夏州」と名づけた。
『春秋』に、
「楚の荘王が陳に出兵し、公孫寧と儀行父の二人を本国の陳に送り込んだ」とあ
るのは、この事件のうち礼にかなった部分を記録したのである。
【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅺ】
● 分散型集電/蓄電体の理想型
今回はソーラー/サーモ/ピエゾの3つのタイリングの理想型を小考する。その理想型は私たち
の身の回りにすでに存在している。それはスマートフォンにある。ソーラー/サーモ/ピエゾに
よる発電部位と外部/内部から送電されて集電/蓄電部位にエネルギーを蓄え、不足分は外部
無線給電するというもの。ここで、❶外部無線給電とは分散型大形の集電/蓄電/配電設備に該
当する。ゼッチ住宅(ゼロエネルギー住宅」でもすでにモデルが存在していることはこのシリー
ズでも掲載している。❷しかし現状のスマートフォンは発電部位の普及が進んでいない。これに
対してエネルギータイリング事業の仕様は、タイル裏面に薄膜型の集電体を予め一体化させ、電
力送電指令で二次集電/蓄電体へ送電、さらに、この二次集電/蓄電体は外部からの電力送電指
令で三時集電/蓄電体へ送電できるように電力送電の双方向型制御管理システム(人工知能によ
る自動制御管理)することで、電力配線部位のダウンサイジング(Downsizing)を実現できる。ここ
で、「エネルギータイリング仕様」として仮に高密度・高寿命キャパシタを採用すると仮定すれば、高寿命
を発電部位や集電体部位の25年耐久仕様に合わすことができれば理想型が完成する。
● 特許事例:特開2017-093266 充電装置 日本ゼオン株式会社
商用電源を得られない外出先などでも、利用者が、スマートフォン、ノートPC、タブレットP
Cなどの電子機器を利用できるように、電子機器を充電するための充電装置の需要が高まってい
る。このような充電装置として、太陽光発電を行う太陽光発電モジュールを備え、エネルギーを
貯蔵する装置がある。これらは、環境発電部の発電電流が所定の閾値より小さく、環境発電部の
発電電力の供給先が蓄電部である場合、環境発電部の発電電流が閾値以上となっても、環境発電
部の発電々力の供給先の蓄電部から被充電デバイスへの切り替えを禁止することで、電力の冗長
性を抑制し、の速やかな充電を図ることができる。下図の電装置10は、環境発電を行う環境発
電部11と、電力を蓄積する蓄電部12と、環境発電部11の発電電流が所定の閾値以上である
場合には、環境発電部11から被充電デバイス20に電力を供給させ、環境発電部11の発電電
流が所定の閾値より小さい場合には、環境発電部11から蓄電部12に電力を供給させる制御手
段19と、を備え、制御手段19は、環境発電部11の電力の供給先が蓄電部12である場合、
環境発電部11の発電電流が所定の閾値以上となっても、環境発電部11の電力の供給先の蓄電
部12から被充電デバイス20への切り替えを禁止し、電力の無駄の発生を抑制し、充電対象の
装置の速やかな充電を実現できる。
JP 2017-093266 A May 25, 2017
【符号の説明】
10 充電装置 11 環境発電部 12 蓄電部 13 給電先切り替え回路 14 充放電制御回
路 15 外部IF 16 システムコントローラ 17 切り替え禁止回路 19 御手段 20
被充電デバイス 111 太陽電池モジュール 131~133 スイッチ 151 昇圧回路
152,21 USB IF 171 電流検出部 172,176 比較器 173 リトリガ
ーMMV 174,177 AND回路 175 反転回路
以上、「エネルギータイリング事業」の「素描(スケルトン)小考シリーズ」は今回で終え、以
降、この「事業構想の具体化(肉づけ)小考シリーズ」は適宜掲載していく。
● 世界最高性能の半導体光変調器:
従来比で光損失を10分の1に低減、変換効率5倍
7月25日、東京大学らの研究グループは来と比較して光の損失を10分の1に低減し、5倍の効
率で電気信号を光信号に変換できる世界最高性能の半導体光変調器――この光変調器は、膨大な
情報を高速で通信するデータセンターやIoT、人工知能といった分野で重要なシリコン光集積回
路の大幅な省電力化と小型化に貢献できる――の開発に成功したことを公表する。
近年、光素子の小型化や、高集積化の観点から、SOI(silicon on insulator)基板を用いて製造され
た光導波路素子が注目されている。このような光導波路素子は、Si基板上に形成したSiO2(二酸
化ケイ素)のクラッド上に、クラッドよりも屈折率が高いSiのコアを設け、クラッドとコアの光
屈折率の差によりコア内に光を閉じ込めて光を伝搬し得る(下記掲載図参照:特開2017-040841
光導波路素子および光集積回路装置)。
今回、シリコン光導波路上に、光学特性に優れた化合物半導体の一種であるインジウムガリウム
ヒ素リン(InGaAsP)を貼り合わせることで、インジウムガリウムヒ素リン中の電子により誘起
される屈折率変化のみを用いた光変調動作を世界で初めて実証しました(図1)。インジウムガ
リウムヒ素リン中での電子誘起屈折率変化はシリコンと比べて10倍以上大きいことは知られてい
たが、正孔の光吸収による損失が非常に大きく、従来の技術では電子の効果のみを引き出すこと
が極めて困難であり、光変調には適していなかった。今回、アルミナ(Al2O3)を介して、イン
ジウムガリウムヒ素リンをシリコン上に貼り合わせた構造を実現したことにより、電子の効果の
みを用いて光変調することが可能になる。
実証に成功した素子の光位相変調部は、二酸化ケイ素上にシリコン層が形成されたSOI(Silicon
on Insulator)基板上に作製したシリコン光導波路上にゲート絶縁膜となるアルミナを介して薄膜
インジウムガリウムヒ素リンが貼り合わされた構造となっており(図2)、光位相変調部に電気
信号を入力することで光の位相が変調され、光変調信号が出力される。図3の光位相変調部の断
面構造図に示すように、凸状に加工されたシリコンと化合物半導体層は近赤外光を閉じ込められ
る光導波路として機能します。シリコン層と化合物半導体層の間にゲート電圧を印加すると、化
合物半導体とアルミナの界面に電子が蓄積され界面近傍の屈折率が減少します。これにより入力
された光の位相が変調され、電気信号を光信号に変換できる。結果として、従来のシリコン光変
調器に比べ、光損失を10分の1に抑制しつつ変調効率を5倍に高めることに成功しました。また
多値変調による100ギガビット/秒の高速変調においても良好な光信号が得られることを検証する
今回の成果は、高効率かつ低損失の光変調に新たな手段を与えるものであり、光変調器を利用し
た✪データセンターの高性能化・省電力化のみならず、✪次世代光ネットワークで必須となる光
スイッチや✪自動運転車で必要となるレーザースキャナなど幅広い応用に期待されている。
❏ 関連特許:特開2017-040841光導波路素子および光集積回路装置
【要約】
光導波路素子1では、Ⅲ-Ⅴ族半導体でなるコア4が設置されるクラッド2を、SiO2よりも熱導電
率が高いSiCにより形成したことにより、コア4で発生した熱をクラッド2によって放熱させて、
コア4周辺を冷却させることができるので、温度上昇による不具合の発生を防止し得る。また、
この光導波路素子1では、Ⅲ-Ⅴ族半導体でなるコア4よりも屈折率が低いSiCによりクラッド2
を形成したことから、コア4を屈曲させた構成としても、コア4内を伝搬する光をコア4内に閉
じ込めることができるので、コア4を屈曲できる。
本件によれば、Ⅲ-Ⅴ族半導体族半導体またはIV族半導体でなるコアが設置されるクラッドを、
熱導電率が高いSiC、AlN、またはGaNにより形成したことにより、コアで発生した熱をクラッド
により放熱させ、コア周辺を冷却させることができるので、温度上昇による不具合の発生を防止
し得る。また、この光導波路素子では、III-V族半導体またはIV族半導体でなるコアよりも屈折
率が低いSiC、AlN、またはGaNによりクラッドを形成することで、コアを屈曲させた構成として
も、コア内を伝搬する光をコア内に閉じ込めることができるので、コアを屈曲できる分、小型化
が図れ、高密度に集積化を実現する。
【符号の説明】
1,7,8,21,31,35,41,43,45,51 光導波路素子 2,32,44 クラッド 4,10,11,22,37 コア
【図1】本発明による光導波路素子の断面構成を示す概略図
【図2】従来の光導波路素子と本発明の光導波路素子における曲率半径およびベンド損失の関係
を示したグラフ
【図3】従来の光導波路素子と本発明の光導波路素子における電力投入時の温度上昇を示すグラ
フ
【図4】図4Aは、温度上昇時のInPに対する熱応力を調べた本発明の光導波路素子の断面構成
を示す概略図、図4Bは、温度上昇時のInPに対する熱応力を調べた従来の光導波路素
子の断面構成を示す概略図
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』
第43章 それがただの夢として終わってしまうわけはない
九時前に雨田が目を覚ました。彼はパジャマ姿で食堂にやってきて、熱いブラック・コー
ヒーを飲んだ。朝食はいらない、コーヒーだけでいいと彼は言った。彼の目の下はいくらか
腫れていた。
Jane Austen
「大丈夫か?」と私は尋ねた。
「大丈夫だよ」と雨田は瞼をこすりながら言った。「もっとひどい二日酔いは何度も経験し
ている。これなんか軽い方だ」
「ゆっくりしていってかまわないよ」と私は言った。
「でもこれからお客が来るんだろう?」
「お客が来るのは十時だ。まだ少し間がある。それに君がここにいたってべつに問題はない。
二人に紹介するよ。どちらもなかなか素敵な女性だ」
「二人? その緒のモデルの女の子は∵人じゃないのか?」
「付き添いの叔母さんと一緒に来る」
「付き添いの叔母さん? ずいぶん古風な土地柄なんだな。まるでジェーン・オースティン
の小説みたいだ。まさかコルセットをつけて、二頭だての馬車に乗ってやってきたりはしな
いよな」
「馬車まではない。トヨタ・プリウスでやってくる。コルセットもつけていない。ぼくがス
タジオで女の子の緒を描いているおいた、だいたい二時間くらいだけど、叔母さんは居間で
本を読んで待っている。叔母さんといってもまだ若いんだが」
「本って、どんな本?」
「知らない。訊いたけど、教えてくれなかった」
「ふうん」と彼は言った。「そうそう、ところで本といえば、ドストエフスキーの『悪霊』
の中で、自分か自由であることを証明するために拳銃自殺する男がいたと記憶しているんだ
けど、なんていう名前だっけ? おまえに訊けばわかるような気がしたんだが」
「キリーロフ」と私は言った。
Алексей Нилыч Кириллов
「そうだ、キリーロフだ。このあいだから思い出そうとしていたんだけど、どうしても思い
出せなかった」
「それがどうかしたのか?」
雨田は首を振った。「いや、とくにどうもしない。ただ何かの拍子にその人物のことが順
に浮かんで、名前を思い出そうとしたんだが、どうしても思い出せなかった。それでちょっ
と気になっていた。魚の小骨が喉につっかえるみたいにさ。しかしロシア人って、なんだか
ずいぶん不思議なことを考えるよな」
「ドストエフスキーの小説には、自分か神や通俗社会から自由な人間であることを証明した
くて、馬鹿げたことにする人間がたくさん出てくる。まあ当時のロシアでは、それほど馬鹿
げたことじやなかったのかもしれないけど」
「おまえはどうなんだ?」と雨田は尋ねた。「おまえはユズと正式に離婚して、晴れて自由
の身になった。それで何をする? 自ら求めた自由ではないにせよ、自由は自由だよ。せっ
かくだから、そろそろ何かひとつくらい馬鹿げたことをしたっていいんじやないか」
私は笑った。「今のところとくに何かをするつもりはない。ぼくはとりあえず自由になっ
たのかもしれないけど、だからといってそのことを世界に向かっていちいち証明する必要も
ないだろう」
「そういうものかな」と雨田はつまらなさそうに言った。「しかしおまえはいちおう絵描き
だろう。アーティストだろう。だいたい芸術家っていうのはもっと派手に羽目を外すものだ
ぜ。おまえは昔からなかなか馬鹿げたことをしない男だった。いつだって筋の通ったことを
している みたいに見えた。たまにはそういう抑制を解いた方がいいんじやないか?」
「金貸しのばあさんを斧で殺すとか?」
「ひとつの考え方だ」
「誠実な娼婦に恋をするとか?」
「それもなかなか悪くない」
「考えておくよ」と私は言った。「でもあえてぼくが馬鹿げたことをしなくても、現実とい
うのはそれ自休でじゆうぷんたがをはずしているみたいに見える。だから自分∵八くらいは
できるだけまともに振る舞っていたいと思うんだよ」
「まあ、それもひとつの考え方かもしれない」と雨田はあきらめたように言った。
それはひとつの考え方というようなものでもないんだ、と私は言いたかった。実際に私の
まわりを取り囲んでいるのは、たがのはずれまくった現実なのだ。私までたがをはずしたら、
それこそ収拾がつかなくなってしまう。しかし今ここでそんな一部始終を、雨田に説明する
わけにもいかない。
「でもとにかく失礼するよ」と雨田は言った。「その二人の女性に会っていきたい気もする
けど東京に仕事も残してきたしな」
雨田はコーヒーを飲み干し、服を着替え、真っ黒な四角いボルボを運転して帰って行った。
いくらか腫れぼったい目をして。「邪魔をしたな。でも久しぷりにゆっくり話せて楽しかっ
たよ」
その日、ひとつ俯に落ちないことがあった。それは雨田が魚をおろすために持参した出刃
包丁がみつからなかったことだ。使用後に丁寧に洗ったきり、どこに持っていった覚えもな
いのだが、二人で台所じゆうを探し回ってもそれはどうしても見つからなかった。
「まあ、いい」と彼は言った。「たぶんどこかに散歩にでも出かけたんだろう。帰ってきた
らとっておいてくれ。たまにしか使わないものだから、次に来たときに回収して探しておく
と私は言った。
ボルボが見えなくなってから、私は腕時計に目をやった。そろそろ秋川家の二人の女性が
やってくる時刻だ。居間仁決ってソファの布団を片付け、窓を大きく開けて、もったりと淀
んだ部屋の空気を入れ換えた。空はまだうっすらと灰色に曇っていた。風はない。
私は寝室から『騎士団長殺し』の絵を特ってきて、前と同じようにスタジオの壁にかけた。
そしてスツールに腰掛け、あらためてその絵を眺めた。騎士団長はやはりその胸から赤い血
を流し続け、「顔なが」は画面の左下の隅から、その光景を眼光鋭く観察し続けていた。何
ひとつ変わったところはない。
しかしその朝、『騎士団長殺し』を眺めながら、私の頭からはどうしてもユズの顔が去ら
なかった。あれはどう考えても夢なんかじやない、と私はあらためて思った。きっと私はあ
の夜、本当にあの部屋を訪れていたのだ。ちょうど雨田典彦が、数日前の真夜中にこのスタ
ジオを訪れたのと同じように、私は現実の物理的制約を超えて、何らかの方法であの広尾の
マンションの部屋を訪れ、実際に彼女の内側に入り、本物の精液をそこに放出したのだ。人
は本当に心から何かを望めば、それを成し遂げることができるのだ。私はそう思った。ある
特殊なチャンネルを通して、現実は非現実的になり得るのだ。あるいは非現実は現実になり
得るのだ。人がもしそれを心から強く望むなら。しかしそれは人が自由であることを証明す
ることにはならない。それが証明するのはむしろ逆の事実かもしれない。
もし、ユズにもう一度会う機会があったら、今年の四月の後半にそのような性的な夢を彼女
が見たかどうかを尋ねてみたかった。私が明け方近くの時刻に部屋を訪れ、深く眠っている(
ないしは身体の自由を奪われている)彼女を犯す夢を見たかどうか。言い換えるなら、その
奇妙な夢が私の側だけのものにとどまらず、相互通行的なものとしてあったのかどうか。私
としてはそのことを確かめたかった。しかしもしそうだとしたら、もし彼女も私と同じ夢を
見ていたのだとしたら、彼女の側からすれば、そのときの私はあるいは「夢魔」とでも呼ぶ
べき不吉な、あるいは邪悪な存在であったかもしれない。
私は自分かそんな存在であるとは――そんな存在になり得るとは――考えたくなかった。
私は自由なのか? そのような問いかけは私には何の意味も持たなかった。今の私が何よ
り必要としているのはあくまで、手に取ることのできる確実な現実だった。頼ることのでき
る足もとの堅い地面だった。夢の中で自分の妻を犯すような自由ではなく。
さて、機械は「第44章 人がその人であることの特徴みたいなもの」へ移る。
この項つづく