彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと
伝えられる招と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え(戦国時代の井伊
軍団編成の一種、あらゆる武具を朱りにした部隊編成のこと)と兜(かぶ
と)を合体させて生まれたキャラクタ-
西明寺
【季語と短歌:11月28日】
払暁の星吾照らす冬日かな
高山 宇 (赤鬼)
🪄鈴鹿山脈の西山腹に位置する金剛輪寺は、寺伝によれば聖武天皇の勅願
で奈良時代の僧・行基の開創とされ、創建は737年(または741年)と伝わ
る。その後、平安時代前期の嘉承年間(848年 - 851年)に天台宗の僧・円
仁(慈覚大師)により再興されたと伝え中興の祖とされる。1573年、織田
信長の兵火で湖東三山の1つである百済寺は全焼し、金剛輪寺も被害を受け
るが、現存の本堂、三重塔は焼失をまぬがれた。当寺の本堂をはじめとす
る中心堂宇は総門や本坊のある地点から数百メートルの石段を上ったはる
か奥にある。湖東三山は、西明寺、金剛輪寺、百済寺の三つの天台宗寺院
の総称である。次回は百済寺。
✳️ 東レが尿素の除去性能2倍の水処理膜
東レは、尿素の除去性を従来の2倍に高めた水処理膜を開発した。半導体製
造工程では不純物が限りなくゼロに近い「超純水」が大量に必要となる。
将来的な水不足に対して半導体製造工程で下廃水再生水の活用が求められ
る中、新開発の高除去・低圧逆浸透(RO)膜を用いると、除去が難しかっ
た尿素を90%近く除去でき、超純水の安定供給に貢献する。半導体メーカー
は工場で大量の超純水を使うに当たり、工場内廃水の再利用率を高めてい
る。加えて半導体製造に用いる超純水の水源として、現状の水道水に代わ
る下廃水再生水の活用や海水の利用拡大を検討している。ただし、それら
を活用するには塩分やシリカやホウ素、尿素などを除去する必要がある。
中でも尿素は、水の中に含まれていると加水分解によってアンモニアガス
を発生させ、半導体製造において光阻害を起こして難溶で異常な層を基板
上に形成する恐れがある。そのため高いレベルでの除去が求められている
が、尿素は粒子のサイズが小さい上、電気的中性の分子で電気的相互作用
でも分離できず、除去の難度が高い。 東レはRO膜の性能向上に向けて、
穴径分布の設計に注力した。具体的には、RO膜の表面構造の詳細な観察と、
除去性能の核となる1nmよりも小さい穴の構造を可視化する分析技術を活
用。分布を均一にすることで、「低い圧力での透水性と尿素の除去性能を
両立させた」。同社は同技術を採用した「TBW-XHRシリーズ」を2024年1
1月から国内水処理エンジニアリング会社向けに販売し、2025年以降の工
場への実装を計画している。今後は他分野でも展開する考え。同社の中期
経営計画では、RO膜の売り上げが年率5%で成長とすると予想。2025年度
にはグローバルシェア1位の実現を目標に掲げている。木村氏は「今回の
開発品が中期経営計画に与える影響は極めて限定的」としつつも、同計画
が前倒しで進んでいると明らかにした。「今後は世界的な水不足で半導体
用途に限らず需要は増えると考えている。
【関連特許技術】
1. 特開2023-149452 分離膜 東レ株式会社
【要約】下図1ごとく、本発明の分離膜は、緻密層とマクロボイド層とを有
すると共に第1および第2面を有し、緻密層およびマクロボイド層は同一の
非イオン性高分子を主成分として含有し、緻密層表面が前記第1面であり、
前記第1面において、開孔率は5%以下であり、平均孔径は0.3nm以上
3.0nm以下であり、マクロボイド層は、近似楕円の短径が15μm以
上であり、長軸が前記第1面と平行な方向との間に成す角度が80°以上
100°以下であり、長径と短径との比が4以上であるマクロボイドを有
する実用的な透水性を保持し、硬度成分、特に2価イオンの高除去性を有
すると共に、多糖等の中性分子の高除去性も有する分離膜を提供する。
【発明の効果】
本発明によると、実用的な透水性を保持し、硬度成分除去性に優れると共
に、中性分子除去性も有する 分離膜を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】緻密層とマクロボイド層とを有する分離膜であって、
前記緻密層およびマクロボイド層は同一の非イオン性高分子を主成分とし
て含有し、前記分離膜は第1面と第2面を有し、前記緻密層表面が前記第
1面であり、前記第1面において、開孔率は5%以下であり、平均孔径は
0.3nm以上3.0nm以下であり、前記マクロボイド層は、近似楕円
の短径が15μm以上であり、長軸が前記第1面と平行な方向との間に成す
角度が80°以上100°以下であり、長径と短径との比が4以上であるマ
クロボイドを有する分離膜。
【請求項2】前記非イオン性高分子は、ポリスルホン、ポリアクリロニト
リル、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、
ポリ塩化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種の高分子である、
請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】前記第1面における開孔率が1%以上3%以下であり、孔径
が0.3nm以上、1.0nm以下である請求項1または2に記載の分離
膜。
🪄詳細省略 しかし、これは想定以内であり、だから、企業の実践である
のだが、面倒くさく、辛いもの。当事者たちの努力の高みに敬服。
⬛ 失速「EV」相次ぐ火災事故で広がる不信の連鎖
リチウム二次電池の安全工学的考察 ⑭
【関連特許技術】
1. 特開2024-135832 二次電池、電池パック及び車両 株式会社東芝④
【詳細説明】(完了)
✨ 2025年,スピントロニクス世界市場規模は5,990億円
矢野経済研究所は,スピントロニクスデバイスの世界市場を調査し,カテ
ゴリー別の開発動向,将来展望を明らかにした。スピントロニクスは,電
子が持つ電荷(電気的性質)とスピン(磁気的性質)の両方の性質を利用
する技術分野である。スピントロニクスの物質の電気的特性と磁気的特性
の双方を制御することにより得られる新しい物理現象を利用した材料やデ
バイスにより,エレクトロニクスやマグネティクス,フォトニクスといっ
た電子・情報通信産業のイノベーションの創成が期待されている。
✳️ ペロブスカイト太陽電池向正孔回収材料開発
京都大学と九州大学は,ペロブスカイト太陽電池において,ペロブスカイ
ト層から効率的に正孔を取り出すテトラポッド型正孔回収単分子膜材料(
4PATTI-C3)を開発。
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けては,高い光電変換効率の実現と
デバイスの耐久性の向上が求められている。これまで,主にペロブスカイ
ト層の作製法の改良により,光電変換効率が向上してきた。その一方でペ
ロブスカイト層で光吸収により生成した電荷を選択的に取り出す電荷回収
材料の開発がさらなる特性向上のためのボトルネック課題となっている。
従来の材料では,各層間での電荷のもれを防ぐために100–200nm程度の
アモルファス性の厚い膜として用いられてきた。しかし,この材料自体が
厚いため光を吸収してしまい,ペロブスカイト層に届く光が減少し,取り
出せる電流密度が低下してしまう。また,この厚膜のモルフォロジー(形
態が)の安定性がデバイス自体の低い熱安定性の原因となっている。さら
に,一般的に有機半導体の厚膜材料では電気伝導度が比較的低いため,p型
のドーパントやイオン性の添加剤を必要する。しかし,これらの添加剤の
高い吸湿性と各イオンのペロブスカイト層への遊泳がペロブスカイト層や
電極などへのダメージとなり,太陽電池デバイスの耐久性を低下させて
しまうという問題があった。
そこで研究グループは,ペロブスカイト層に対して上向きに張り出した極
性官能基をもつマルチポッド型正孔回収単分子膜材料(PATTI)を開発し,
太陽電池特性への効果について明らかにした。まずπ共役骨格として,サ
ドル型を有するシクロオクタテトラエン骨格に四つのインドール骨格が縮
環したシクロオクタテトラインドール骨格(TTI)に着目し,アンカーと
してアルキルホスホン酸基(PA)を四つ導入したテトラポッド型4PATTI
-C3を設計および合成した。
4PATTI-C3の溶液から透明電極にスピンコートすることで,従来の単分子
膜材料と違って,ペロブスカイト前駆体溶液に対して濡れ性の高い単分子
膜が得られることを明らかにした。このテトラポッド型4PATTI-C3の単分
子層を正孔回収層に用いた逆型ペロブスカイト太陽電池のミニセルおよび
ミニモジュールでそれぞれ21.7%および21.4%の光電変換効率を達成する
とともに,100時間の連続光照射後でも97%以上の出力を保つ高い耐久性
を実現した。研究グループは,この研究成果で太陽電池の開発分野に多大
なインパクトをもたらすとともに,その実用化を大きく加速できるものと
している。
【掲載論文】
タイトル:Tetrapodal Hole-Collecting Monolayer Materials Based on
Saddle-Like Cyclooctatetraene Core for Inverted Perovskite Solar Cells
(シクロオクタテトラエン骨格を用いたテトラポッド型正孔回収単分子膜
材料の開発)
掲 載 誌:Angewandte Chemie International Edition, (2024),
DOI: doi.org/10.1002/anie.202412939
✳️ 北大,水と光のみを用いたナノ結晶の作製
7日、北海道大学の研究グループは,水と光のみを用いた水中結晶光合成
という新たに開発した手法により,銅と酸素の空孔を戦略的に添加ドーピ
ングすることでタングステン酸を用いた光学的臨界相を誘導できることを
明らかにした。
光応答性ナノ粒子を均一に分散させた材料は,太陽電池,光触媒など太陽
光を念頭に置いた持続可能なエネルギー利用やフォトニクスの応用に役立
っている。しかし,従来の方法では紫外線と可視光までを利用するだけな
ので,太陽光の約40%以上を占める赤外域の光は未利用で,全太陽光をも
れなく利用するための光電変換効率が悪いなどの制約があった。研究グル
ープは,水と光を用いて作製する低環境負荷な新たなナノ材料合成法であ
る水中光合成(SPsC)を開発した。この手法を用いて,銅と酸素の空孔を
戦略的にドーピングすることで非化学量論的タングステン酸(WO3・H2O
)から光学臨界相を誘導できるようになった。これにより,ナノ結晶の合
成過程における欠陥の調節を行ない,広い範囲の太陽光スペクトルを利用
できる。
⓵具体的には,過酸化水素に溶かしたタングステン溶液中で銅元素の濃度
を変えながらドーピングすることで,非化学量論的タングステン酸の半導
体ナノ構造を作ることに成功した。作製した材料を用いたデバイスにより,
優れた光熱変換特性,光アシスト水蒸発特性,及び光電気化学特性を実証。
⓶次に,透過型電子顕微鏡を用いて原子構造解析(HRTEM)と電子線損
失分光(EELS)による誘電率,光吸収(係数)の評価を行ない,さらに,
密度汎関数理論に基づく第一原理計算と紫外線-可視光-近赤外分光分析に
よる吸光度の実測と比較検討した。
⓷これにより,この研究でカギとなる銅添加元素と酸素空孔の欠陥形成機
構を明らかにし,当該現象の光機能発現効果を解明することができた。
【展望】研究グループは,作製した半導体デバイスは,特に近・中赤外光
域での優れた光電流,光吸収などの光特性を示すため,今後の全太陽光利
用のための光機能半導体・エネルギーデバイス材料開発として,ソーラー
エネルギーの持続可能な利用技術としての進展への寄与が期待されるとし
ている。
図1. ワンポットの光誘起水中光結晶合成法
(SPsC)により合成したナノ結晶
図2. 各種の光機能特性調査
a) 疑似太陽光で照射したCux%- WO3・H2O (x = 0 - 5.8)の光熱変換特性
調査。銅元素1%と5%添加で光学的臨界相になり強い光吸収が起こっている。
b) ステンレスメッシュ上のWO3・H2O、Cu1%- WO3・H2O、Cu3%- WO3・
H2OのIRランプによる赤外光水蒸発試験。Cu1%- WO3・H2Oで水蒸発が
最も早い。
c) Cu1%- WO3・H2O及び純WO3・H2O粉末試料の光電気化学性能試験
(光電子変換特性調査)。Cu1%- WO3・H2Oでは下向き矢印の光電流の
増加を示した。
【掲載論文】
論文名 Defect Driven Opto-Critical Phases Tuned for All-Solar Utilization
(全太陽光利用のために調節した欠陥導入による臨界相について)
著者名 Melbert Jeem1, Ayaka Hayano2, Hiroto Miyashita2, Mahiro Nishimura2,
Kohei Fukuroi2, Hsueh-I Lin2, Lihua Zhang1, Seiichi Watanabe1(1北海道
大学大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター、
2北海道大学大学院工学院材料科学専攻)
雑誌名 Advanced Materials
DOI 10.1002/adma.202305494
公表日 2023年7月29日(土)(オンライン公開)
🪄すごいですね。太陽光を百パーセント利用できる道筋ができました。再
生エネルギー研究・工学チームの完全優勝が見えてきましたね。
懐かしの晩秋の楽曲 『恋人よ 五輪真弓』 1986年4月21日
人間の未来 AIの未来 講談社(2018/02発売)
まえがきにかえて 羽生善治から山中伸弥さんへ
第1章 iPS細胞の最前線で何が起こっていますか?
第2章 なぜ棋士は人工知能に負けたのでしょうか?
第3章 人間は将来、AIに支配されるでしょうか?
第4章 先端医療がすべての病気に勝つ日は来ますか?
第5章 人間にできるけどAIにできないことは何ですか?
第6章 新しいアイデアはどこから生まれるのでしょうか?
第7章 どうすれば日本は人材大国になれるでしょうか?
第8章 十年後、百年後、この世界はどうなっていると思いますか?
あとがきにかえて 山中伸弥から羽生善治さんへ
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人間の未来AIの未来』連載第10回
「都合のいい」遺伝子の書き換えが可能に
ゲノム編集の技術はずいぶん前からありましたが、技術的に非常に難しく
て効率が低く、しかも正確性にも欠けていた。それが2012年に「クリスパ
ー・キャスナイン(CRISPR/Cas9)」という新しい技術が開発されて、そ
の精度の高さと簡易さから一気に汎用性のある技術になりました。クリス
パー・キャスナインの技術の根底にある「クリスパー」と呼ばれる遺伝子
配列を発見したのは、九州大学の石野良純先生。この技術はDNAの狙った
場所をピンポイントで編集することができます。だからDNA解析と編集の
技術を組み合わせると、理論的には自分たちの都合のいいように遺伝子を
書き換えることが可能になる。(山中)
◾「デザイナー・ベイビー」は許されるか
そうすると、「デザイナー・ベイビー」と言われる、遺伝子操作で親が望
むような外見や知能を持つ子を生み出すこともありうる?(羽生)
『ネイチャー』に掲載された2017年の論文では、遺伝子操作によって身長
を1cmくらい変えることができそうな遺伝子が24個報告されています。「
遺伝子ドーピング」[特定の遺伝子を筋肉細胞などに注入し、運動能力に
関わるタンパク質などを作る手法]によって筋肉量を増やした牛や魚は、
すでにつくられています。牛でつくることができるということは、理論的
には人間でもできます。それはどこまで許されるのか、人間の倫理が科学
技術に追いつけるかという問題ですね。2015年に中国の研究グループが、
ゲノム編集を用いてヒトの受精卵で遺伝子改変を試みた結果を発表した。
中国の研究は遺伝子改変を行った胚を女性の子宮に移植することはして
いないが、学術誌からマスメディアまでその是非をめぐって世界で大論争
になつた。アメリカもヒト受精卵のゲノム編集を条件付きで進めていくこ
とになっている。各国ごとに文化や歴史の違いがあって、世界で統一する
のはなかなか難しいんです。今のところ、受精卵を使った基本的な研究は
やるべきだろう、ただ実際にその受精卵から新しい生命をつくることは当
面はやめよう――というのが、多くの研究者のコンセンサスだと思いる。
日本はまだ、その辺りの議論が紛糾しています。生命科学の技術を使って、
なるべく「健康な子供」が生まれてくるようにすることは、先ほどのデザ
イナー・ベイビーと言われるような「強い子供」が生まれるようにするこ
とにとても近いんです。でも、まず基礎研究はやっていかなければ技術の
見極めもできない。とは言っても、やはりルールは必要で、どんな研究を
誰が、どこで、どんな目的でやっているか、透明性を高めることが大前提
です。その上で、ほぼ確実に遺伝する遺伝子疾患の予防目的といった厳格
な条件下で、少しずつやっていかなければダメじゃないかなと思っている。
データがある世界では、AIは人間の経験値を超える結果を生み出す可能性
がある。
ただ、それが絶対かと言われると、絶対ではないわけです。そのとき、先
ほども言った「ブラックボックス問題」、結果はうまく行っているけれど、
そのプロセスが誰にも見えない状況を人間の側が受け入れられるかどうか
が問われる。 理屈としては理解できなくなって、AIが出した結果なり結論
なりを信じるか信じないか、ただそれだけの話になってしまう可能性もあ
る。でも人間は人間なりに考えたり、発想したりすることを捨ててはいけ
ない、やめてはいけないと思う。(山中)
❤️「いい加減なとこはあったほうがいい」
手探りで「次はどこに行こうかな」と、その場で何とかするケースがほと
んどです。もちろん、その都度ベストな選択を目指していますが、わかり
やすい答えを求めていくアプローチではないんです。100パーセント間違
いない、絶対にこれだ、という選択肢はないですね。読み筋が考えていた
通りの展開になることも滅多にありません。だから、けっこうその場しの
ぎです。その決断は間違っているけれど、結果としては良かったというこ
とがある。たとえば悪手を指した結果、相手のミスを呼び込んで、予想外
の勝利となってしまう。では、その悪手を指したことは本当に良かったの
かどうか、という問題はありますけれど(笑)。まったく自分が予想して
いなかった状況になったときに、どうにかする。その力は数値化できない
ものだと思います。だから若干いい加減なところがあったほうがいいのか
もしれない。今の時代は環境がすごく整っているので、真面目にやってい
れば、あるところまでは猛スピードで突っ走ることができる。でも逆に言
えば、環境が整ってない時代だったらたどりつけなかった人も、たどりつ
けているとも言えます。
全体的なレベルや力が上がっている中で、これまでの知識の集積や環境の
有利さだけを考えていたのでは、他の人たちと差を付けることは難しくな
っていきます。そうすると、これまでとはまったく違うことをやらなけれ
ばいけないんじゃないか。それは多分、これをやったら必ずプラスになる
、必ずマイナスになる、といったものではなく、はっきり数値化できない
ことが重要なんじゃないかなと思っているんです。(羽生)。
🪄頭の中がこんがらがっていますが、なんとか根気よく読んでいこう。
●今日の言葉: 「ラスト九年」に拍車がかかる昨今。「整理整頓第一
主義」と「健康管理」に肝すえる。
『変貌する民主主義』 森政稔 - 千夜千冊
1277夜 世走篇 2008年12月29日 ⑤
もうひとつはサミュエル・ハンチントン(1083夜)が『文明の衝突』
で、今後の世界は主要国家の動向で語られるのではなく、西洋文明・儒教
文明・日本文明・イスラム文明・ヒンドゥ文明・スラブ文明・ラテンアメ
リカ文明・アフリカ文明の、8つの文明間の衝突や連携としてとらえるべ
きだというものである。そのような見方をとるには、市場やマクドナルド
やファッションのような流動的なものでなく、フォルトライン(断層線)
によって世界を見るべきだとした。
この見方も、ハンチントンの主旨とはべつに、だからこそ中東の勝手に対
しては強硬に戦争を仕掛けるべきだというネオコン(ネオ保守主義)の宣
伝理論に使われることになる。
ところが、フクヤマやハンチントンの見方は、これを利用しようとする者
にとっては都合がよかったかもしれないが、そのような見方だけではとう
てい世界史の歩みは説明できないということが、しだいに露呈してきたの
だった。いちばんわかりやすいことであろうが、おそらくはいちばん複雑
な問題を孕んでいるのは、民族紛争と宗教戦争の多発によって、大きな事
態の変更がおこったことである。フクヤマが歴史の最終形態だと言った自
由民主主義なんて、南米にも中東にも、コソヴォにもチェチェンにもクル
ドにも、まったく関係がなかったのである。また、「文明間の対立」はま
だまだおこりそうもなく(ハンチントンは儒教文明とイスラム文明が連合
して西洋文明に対決を迫るとも予想した)、むしろ「文明内の対立」のほ
うが吹き出してきたわけだった。
このような予期せぬ事態の進行は、民主主義の基本原理をくつがえすもの
である。民主主義は「多数決の原理」によって、多数支配の法的な根拠を
提供しつづけてきたのであるが、またそれがいかに困難であっても、その
困難を“みんな”で克服することが民主主義の良質な努力であるというもの
であったはずなのだが、これがしだいに少数者(マイノリティ)や少数民
族(エスニック・グループ)にはあてはまらなくなってきたからだ。そこ
には“みんな”はいないのだ。
それでもそこへ強引に民主主義をあてはめようとすれば、そのマイノリテ
ィやエスニック・グループに干渉し、介入的な政策をとるしかない。それ
は民主主義の原則に反するから、そこでなんとか理由をつけて、最初にそ
こに吹き出した非民主的な出来事とその管理運用主体を、先制して潰して
しまうということになる。これがアメリカが仕掛けた「ブッシュの戦争」
の大半だった。チョムスキー(738夜)やサイード(902夜)がどう
しても許しがたいと立ち上がったことだ。民主主義が「少数者の問題」に
ぶちあたったことは、こうして民主主義の原理をゆるがせていったのであ
る。
すでに最初に書いておいたように、ぼくは小学校で手をあげて意見をのべ
ても、それが結局は多数決になることに納得がいかなかったわけであるが、
では、そもそもなぜ民主主義は多数決などという多数者支配を持ち出した
のか。それは一言でいえば、民主主義が「主権」を取り入れたからだった。
ヨーロッパでは近世になると、国王が中世的な法のくびきで縛られること
を嫌って、国王の絶対性と永続性を認めさせるべく、最初は王権神授をつ
かい、ついでは王権が民権を掌握できることをつかって、主権の位置を確
定させることをつくりあげていた。トマス・ホッブス(944夜)の「リ
ヴァイアサン」の登場はそのころの議論の象徴である。
しかしその王権が分散したり崩れたり、ピューリタン革命やフランス革命
などで覆されたりすれば、では宙に浮いた主権はどうなるかという「主権
の行方」が取り沙汰されることになる(このあたりの事情は『世界と日本
のまちがい』に縷々書いておいた)。
このとき、ルソーやモンテスキューの社会契約説や法学説が颯爽と出てき
て、主権は「在民」していったのである。けれども主権在民とはいえ、そ
の主権、すなわち「民権」は、もはや国王のような絶対者の管轄にあるも
のではないのだから、その意思を決定するしくみが新たに必要だった。そ
こでフランス革命のときには「民会」のようなものが設定され、意思の正
当性を議決するという方法がとられ、そこで多数決のルールが確定してい
ったわけである。
(中略)
多数支配の問題はいろいろの矛盾をかかえている。ひとつはよく知られて
いるように、ファシズムが多数支配と民主主義をトリッキーに演出して「
全体主義」を体現したということであるが、もうひとつはそれとも深い関
係があるけれど、「差別」や「差異」の問題が浮上してきたということに
ある。たとえば黒人問題、たとえば被差別部落問題、たとえばジェンダー
問題、たとえばアパルトヘイト問題、たとえば信仰問題、たとえば少数言
語問題である。現代民主主義はこれらの「少数問題」「マイノリティ問題」
を一挙にかかえることになる。
それでも、アメリカは長らく楽観していた。なぜならアメリカはそもそもが
「移民」の国で(これについても『世界と日本のまちがい』で詳しく説明し
ておいた)、それゆえに建国以来の「多様のなかの統一」という理念があっ
たからである。
したがってアメリカは危機に陥るたびにこの理念を持ち出して、混乱を乗
り切ってきた。たとえば、ルーズベルトのニューディール政策にはさまざ
まな狙いがこめられていたけれど、そのひとつにはアメリカ内部の分裂し
かねない多様な少数者の統合をはたそうとした意図があったのだし、真珠
湾攻撃をきっかけに「リメンバー・パールハーバー」によって日本叩きを
組み立てたのも、9・11でブッシュが「ブッシュの戦争」を公然と始め
たのも、必ずそこには「多様のなかの統一」の理念が大活躍したものだった。
このような理念の実践をケネディ以来は(それを大々的に復権させたのは
ケネディだったから)、民主主義思想の議論では「多数派リベラル」のロ
ジックとも言っている。けれどもそのロジックの正体は、その時期ごとの
「アメリカン・デモクラシー」の代名詞だったのである(きっとオバマ大
統領もこのたびの未曾有の金融危機をこの理念の実践で乗り切るつもりで
あろう)。🪄さぁ、話は核心に切開する.... 次回へ
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