ついに退職の事を言えなかった翌日、気を取り直して「今日こそ…」と
固い決意のもとに出勤した。
昼食後に言おうと食堂へ向かうと、「ヤバ!」代表も来たではないか。わたしは
今日こそは接触を避けようと、そそくさと弁当を持ってテーブルへと行こうとしたら、
スッと代表が近づいて来たではないか。そしてわたしの目の前に何やら差し出したのである。
「?」と思っていると、「これ」と言うのだ。受け取って見ると数個のコーヒーパックのようである。
「いただいていいんですか?」と言うと、「どうぞ」と言うのだ。
「代表飲まないんですか?」と聞くと、「オレ紅茶党だからコーヒー飲まないんだよ」と
言うのである。ここの従業員のほとんどは普通のインスタントコーヒーを
飲んでいて、生意気にドリップコーヒーを飲んでいるのはわたしただ一人だけなのだった。
「…ありがとうございます、心していただきます」と言うとニッコリ笑ってテーブルへと
向かって行った。多分貰いものの残りであろうが、数個のドリップコーヒーと
数個のシュガーだった。
言えなかった…。