つぶや句

夢追いおっさんの近況および思うことを気まぐれに。

寒風の画家

2012-01-12 05:29:08 | 絵・まんが

先日、故あって電車で出掛けなければならなくなり、寒がりのわたしは
服を着込み、帽子、マフラーと防寒対策万全で最寄りの駅へと
歩いていた。この日はけっこう北風が強く、マフラーと帽子の間の素肌が
寒風に吹きっ晒され、凍え上がった。

駅へ向かう道筋は旧街道なので、古い家並みが並んでいる。すると、
一人の老人が、(男性)何やら路傍に座り込んでいる。

よく見ると、小さな椅子に腰掛け、キャンバスを立て掛けて絵を描いて
いるではないか。「ゲ~この寒空の中…」と驚いたが、これは絵描きの
端くれとしては見過ごせない…。キャンバスを覗きこみ、描いている建物と
絵を見比べた。旧家屋の蔵造りが描かれていて、かなりの腕前だ。

見れば水彩である。わたしは何か言葉を掛けねば…と「水彩ですか?」と
思わずわかりきったことを口走ってしまった。画家は、「ええ」と言葉少な
ではあったが、笑みを浮かべて答えてくれたのだった。わたしは、しばし
絵を眺めた後、軽く会釈してその場を離れたが、少々ショックだった…。

まず、すぐに思ったのが、“わたしにはできない”ということだった。

これでも、巧拙は別にして、「絵に対する情熱だけは誰にも負けない」という
自負は持っていたつもりだったが、あきらかに“負けた”と思ったのだ。
それもはるかに年上と思われるご老体にである…。

恐らく、わたしだったら少々の暖はとっても、悴んだ手では震えあがって
一筆も振るうことはできないに違いない…。もちろん幸か不幸か、
絵を描く手法はまったく違っていて、わたしは現場で描くということはしないが、
それでも、敗北感を感じたのである。

歩きつつ振り向けば、健筆を振るう画家の手に、容赦のない寒風が
吹きすさぶ…。敗北感にさいなまれつつ街道を後にした…。

コメント
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