2012/12/05
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>音楽映画(2)ドン・ジョバンニ&カストラート
モーツァルト映画といえば、なんといっても『アマデウス』です。でも、今回紹介するのは、『アマデウス』の中では脇役だった「ドン・ジョバンニ」の台本作者ロレンツォ・ダ・ポンテを主人公にした映画。『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い』
物語は、放蕩牧師だったロレンツォがベネツィアを追放され、ウィーンに向かうところから始まります。友人のカサノヴァの紹介により、ウィーン音楽界の重鎮サリエリと知り合い、さらにはモーツァルトとも出会う。ロレンツォ台本モーツァルト作曲のオペラ3曲は、1786年『フィガロの結婚』(原作ボーマルシェ)、1787年『ドン・ジョヴァンニ』(台本にはジャコモ・カサノヴァも協力した)、1790年『コジ・ファン・トゥッテ』。いずれも傑作です。
映画は、詩人劇作家としてウィーンで成功したロレンツォの伝記映画ですが、タイトルにあるように、「ドン・ジョバンニの物語」でもあります。
映画のイタリア語原題『Io, Don Giovanni』は、「私こそがドンジョバンニだ」という意味あい。モーツァルトの最高傑作オペラ『ドン・ジョバンニ』(フランス語だとドン・ジュアン、スペイン語だとドン・ファン)は、伝説中の稀代の色事師。
ドン・ファンのお話ですが、カサノヴァ、ロレンツォ、モーツァルト、それぞれの放蕩や色事が投影され、「本当のドンファンは誰か」というようないわば、アイデンティティの物語でもあります。
この映画の特徴は、「吹き替えなし」。監督は、歌手の役には本物の歌手を起用し、歌はすべて本人の歌唱。普段、オペラは見ないという人にも、オペラのすばらしさをちょこっと味わうのにとてもいい音楽映画だと思います。
『Io, Don Giovanni』予告編
http://www.youtube.com/watch?v=nf5-yVEeLKk
『カストラート』(1994 伊Farinelli Il Castrato, 英Farinelli)は、バロック時代のカストラート歌手 ファリネッリの伝記映画。
カストラートとは、美しいボーイソプラノの声を成長後も保つために、少年期に去勢した男性歌手をいいます。16世紀のローマバロック時代に盛んになった施術で、19世紀半ばにローマ教皇の命により人道的見地から禁止されました。教会内での歌唱や演劇のために、1年に4000人の少年がカストラートとして育てられたそうです。具体的なことをいうと、中国の後宮で権勢をふるった宦官は、「玉と棹の両方を切り取る」完全去勢であったのに対し、カストラートは玉だけを抜き、棹は残されるのが普通だったとか。女性と交わることも可能、ただし、子孫は残せない。
古来、牧畜が発達せず、農耕だけでやってきた日本では考えられないことですが、牧畜管理が発達したヨーロッパでは、仔牛やロバの去勢手術が盛んで、その技術が発達していたので、人間の少年にも応用されたのだとか。この牧畜技術と「教会内で女性が喋るのも歌うのも禁止」と定めたカトリックのおきてが出会うと、カストラート誕生となる。
カストラートとして史上最も有名なのは、カルロ・ブロスキ(1705-1782)で、通称ファリネッリ。音域が3オクターブ半あったといわれる、天才カストラート。その伝記映画が『カストラート』です。
カストラートの声は、さながら「神が音楽のために地上に遣わした天使」の響きだったそうで、ヨーロッパ社会はカストラートの声を待望しました。
歌手去勢が禁止された現在ですから、映画の中のカストラートの声は、ソプラノ歌手とカウンターテナーの声をミックスしているそうです。(カウンター・テナーのデレク・リー・レイギンとソプラノのエヴァ・ゴドレフスカの声をデジタル処理した)
映画『カストラート』は、英国ではヘンデルの時代。物語でもヘンデルは重要な役どころです。ファリネッリは長年作曲家である兄とコンビを組んできたのですが、ヘンデル作曲の歌をめぐって兄と対立し、兄から自立しようとします。昼は兄が作曲し弟が歌う。夜は弟が女性を耽溺させ、兄が種を植える。そういう二人三脚が崩れたあと、ふたりの運命は、、、、、。
『カストラート』よりファリネッリが歌うシーン
http://www.youtube.com/watch?v=EVbyR1zJ9DQ&feature=related
映画「カストラート」では、歌声が「映画の主役」と言ってもいい。
日本ではカウンターテナーやの米良美一(もののけ姫の歌)やソプラニスタの岡本知高が知られています。
岡本知高が歌う『誰も寝てはならぬ(トゥーランドット)』
http://www.youtube.com/watch?v=5R8LqdX4KlY
<つづく>
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>音楽映画(2)ドン・ジョバンニ&カストラート
モーツァルト映画といえば、なんといっても『アマデウス』です。でも、今回紹介するのは、『アマデウス』の中では脇役だった「ドン・ジョバンニ」の台本作者ロレンツォ・ダ・ポンテを主人公にした映画。『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い』
物語は、放蕩牧師だったロレンツォがベネツィアを追放され、ウィーンに向かうところから始まります。友人のカサノヴァの紹介により、ウィーン音楽界の重鎮サリエリと知り合い、さらにはモーツァルトとも出会う。ロレンツォ台本モーツァルト作曲のオペラ3曲は、1786年『フィガロの結婚』(原作ボーマルシェ)、1787年『ドン・ジョヴァンニ』(台本にはジャコモ・カサノヴァも協力した)、1790年『コジ・ファン・トゥッテ』。いずれも傑作です。
映画は、詩人劇作家としてウィーンで成功したロレンツォの伝記映画ですが、タイトルにあるように、「ドン・ジョバンニの物語」でもあります。
映画のイタリア語原題『Io, Don Giovanni』は、「私こそがドンジョバンニだ」という意味あい。モーツァルトの最高傑作オペラ『ドン・ジョバンニ』(フランス語だとドン・ジュアン、スペイン語だとドン・ファン)は、伝説中の稀代の色事師。
ドン・ファンのお話ですが、カサノヴァ、ロレンツォ、モーツァルト、それぞれの放蕩や色事が投影され、「本当のドンファンは誰か」というようないわば、アイデンティティの物語でもあります。
この映画の特徴は、「吹き替えなし」。監督は、歌手の役には本物の歌手を起用し、歌はすべて本人の歌唱。普段、オペラは見ないという人にも、オペラのすばらしさをちょこっと味わうのにとてもいい音楽映画だと思います。
『Io, Don Giovanni』予告編
http://www.youtube.com/watch?v=nf5-yVEeLKk
『カストラート』(1994 伊Farinelli Il Castrato, 英Farinelli)は、バロック時代のカストラート歌手 ファリネッリの伝記映画。
カストラートとは、美しいボーイソプラノの声を成長後も保つために、少年期に去勢した男性歌手をいいます。16世紀のローマバロック時代に盛んになった施術で、19世紀半ばにローマ教皇の命により人道的見地から禁止されました。教会内での歌唱や演劇のために、1年に4000人の少年がカストラートとして育てられたそうです。具体的なことをいうと、中国の後宮で権勢をふるった宦官は、「玉と棹の両方を切り取る」完全去勢であったのに対し、カストラートは玉だけを抜き、棹は残されるのが普通だったとか。女性と交わることも可能、ただし、子孫は残せない。
古来、牧畜が発達せず、農耕だけでやってきた日本では考えられないことですが、牧畜管理が発達したヨーロッパでは、仔牛やロバの去勢手術が盛んで、その技術が発達していたので、人間の少年にも応用されたのだとか。この牧畜技術と「教会内で女性が喋るのも歌うのも禁止」と定めたカトリックのおきてが出会うと、カストラート誕生となる。
カストラートとして史上最も有名なのは、カルロ・ブロスキ(1705-1782)で、通称ファリネッリ。音域が3オクターブ半あったといわれる、天才カストラート。その伝記映画が『カストラート』です。
カストラートの声は、さながら「神が音楽のために地上に遣わした天使」の響きだったそうで、ヨーロッパ社会はカストラートの声を待望しました。
歌手去勢が禁止された現在ですから、映画の中のカストラートの声は、ソプラノ歌手とカウンターテナーの声をミックスしているそうです。(カウンター・テナーのデレク・リー・レイギンとソプラノのエヴァ・ゴドレフスカの声をデジタル処理した)
映画『カストラート』は、英国ではヘンデルの時代。物語でもヘンデルは重要な役どころです。ファリネッリは長年作曲家である兄とコンビを組んできたのですが、ヘンデル作曲の歌をめぐって兄と対立し、兄から自立しようとします。昼は兄が作曲し弟が歌う。夜は弟が女性を耽溺させ、兄が種を植える。そういう二人三脚が崩れたあと、ふたりの運命は、、、、、。
『カストラート』よりファリネッリが歌うシーン
http://www.youtube.com/watch?v=EVbyR1zJ9DQ&feature=related
映画「カストラート」では、歌声が「映画の主役」と言ってもいい。
日本ではカウンターテナーやの米良美一(もののけ姫の歌)やソプラニスタの岡本知高が知られています。
岡本知高が歌う『誰も寝てはならぬ(トゥーランドット)』
http://www.youtube.com/watch?v=5R8LqdX4KlY
<つづく>