
2012/12/15
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>移民映画(3)ルアーブルの靴磨き
移民にもいろいろあります。移民した先に根を下ろし、2世3世と子孫も増えていく成功組もあります。国策として移民募集が行われ、南米中米の入植地に行ってみたら、耕作には適さない荒れ地だったことが判明した、いわば「棄民」のような移民たちもいました。
今回の移民映画「ルアーブルの靴磨き」アキ・カウリスマキ監督2011(は、不法移民の話です。
以下、ネタバレを含むあらすじです。
ルアーブル(Le Havre)は、フランスの北西部に位置し、海の向こうはイギリスという港町です。
ルアーブルの街中で靴磨きをしているマルセル・マックス。裏通りの住まいに妻アルレッティと犬のライカといっしょにつつましく暮らしています。ご近所の八百屋やパン屋につけが溜まっているし、日々の靴磨きの収入は乏しいものですが、靴磨き仲間のチャングと並んで働く毎日をせいいっぱいすごしています。アルレッティがいてくれさえすれば、マルセルは幸せなのです。
アルレッティは外国出身ですが、今はご近所さんとも仲良く、マルセルとの間に子はなくても、犬のライカと共に貧しいながら落ち着いた生活をおくっています。しかし、このところ、アルレッティは体の異変を感じることが多く、不安がつのっています。
ついにアルレッティは病院に運ばれ、重い病であることが宣告されました。しかし、アルレッティは、医者からマルセルへの告知を拒みます。マルセルが気落ちすることを懸念したのです。医者は、「奇跡が起きれば生き続けることができるかもしれない」と慰めてくれましたが、アルレッティは「そんな奇跡は、うちの近所じゃ起きたことないわ」とつぶやきます。
ある日、ルアーブルの港に事件が持ち上がりました。アフリカから着いたコンテナ船の中に不法移民と見られる一団が乗っていたのです。警察と赤十字はこの密航者たちを保護し、キャンプに送ります。やがては強制送還しなければなりません。しかし、アフリカの少年イングリッサは、警察の追っ手をかいくぐって逃げ出しました。コンテナ船にいっしょに隠れていた祖父が「逃げろ」と目配せしたからです。
マルセルはそんなイングリッサをかくまうことになりました。外国からの移民であった妻を思うと、不法入国の少年が他人に思えなかったからです。マルセルは手を尽くして、イングリッサの母親がイギリス在住華僑のもとで働いていることを突き止めました。イングリッサはガボンで教師をしていた父と暮らしていましたが、母の元へ行きたいと願い、祖父とともに出国してきたのです。イングリッサはよく気が利いて頭もよく、いっしょうけんめい働く少年でした。
アルレッティと仲良しの近所のパン屋イヴェットもイングリッサをかくまうことに協力してくれ、ツケがたまっているためにマルセルに冷たかった八百屋も、アルレッティの病気を知ってにわかにマルセルに同情するようになりました。アルレッティの真の病状を知らないのは、ご近所でマルセルだけなのです。
この裏町の人々のあたたかいつながりこそが「生きて行くうえの奇跡」なのかもしれません。
マルセルはイングリッサを母親のいるロンドンに送り出すための密航費をかせごうと計画します。妻との仲違いで気落ちしている伝説のロックンローラー、リトル・ボブを奮起させ、チャリティコンサートを開くことにしたのです。さて、イングリッサはロンドンへたどり着けるのか。アルレッティの病気は、、、、、奇跡は起きるのでしょうか。
ヨーロッパやアメリカなど、先進諸国はどの国も、移民の労働力が必要であり、かつ不法移民の増加に頭を悩ませるという二律背反の中に存在しています。政治的な解決はどの国もできていません。
映画は不法移民や密航を扱ってはいるけれど、その解決法をさぐるのではなく、近隣の人のつながり、人と人とが心を通わせ合うことに重きをおいて描いています。
この先も豊かさを求め安定した平和を求めようとする移民難民はあとをたたないでしょう。解決には遠いけれど、つかの間、人の善意のあたたかさを味わうだけでも、一歩すすんだと思わないではいられません。
映画はフランスでの話ですが、日本にも不法滞在者は年ごとに増えており、在留期限の切れた不法滞在者は社会不安のもとにもなっています。彼らが犯罪予備軍となる可能性もあるからです。
これまではそれほど身近ではなかった不法入国、不法滞在の問題を、しっかり考えなければならない時期になったと言えるでしょう。
でも、現実問題として、今の私には明日の行動さえ決めかねているところです。考えれば考えるほど、見えない明日、、、、、
<おわり>