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ぽかぽか春庭「ピカレスク」

2012-12-08 00:00:01 | エッセイ、コラム
2012/12/08
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>悪人映画(1)ピカレスク 

 人の罪のうち、もっとも犯してはならない殺人ですが、新聞ダネに人殺しのタネが尽きることはありません。
 次から次へ、テレビドラマ以上びっくりするような殺人が、現実に起きてきます。

 兵庫県尼崎市で起きた連続殺人事件。
 コンクリート詰めなどで発見された4遺体のほか、さらに周辺の人物が行方不明になっており、家族旅行中に自殺したとされる人も、「自殺強要」により、ホテルの窓から飛び降りさせられたのではないかと疑われています。
 主犯格の女性のマンションで家宅捜索が行われ、知人や親族を監禁暴行するための小屋がルーフバルコニーなどに設置されていたと警察発表がありました。このマンションの持ち主だった人の死も、生命保険をかけられた上での殺人の疑いがあるといいます。
 12月3日には、高松市内の小屋の床下に埋められていた死体が発見されました。行方不明になっていた88歳の女性とみられています。

 主犯とされる角田美代子被告(64)は、暴力によって他人の家を乗っ取り、その家族を支配し、金や財産を奪っていたのではないかという疑いがあり、おぞましい大量殺人事件が明らかになりつつあります。
 怨恨などではなく、個人による金品めあての殺人としては、この50年の犯罪史上でもっとも大量の殺人事件になるようです。
 私も、我が腕に止まって今まさに血を吸っている蚊を、怒りにまかせてたたきつぶしたり、台所のゴミコーナーに我が物顔でやってくるゴキブリに大量の食器洗い洗剤をぶっかけて仕留めたりするとき、さして「命を奪った」などという感慨は持たずにそうしているので、きっと、このような殺人者には、人の命もゴキブリ以下なのでしょう。

 まだ裁判が終結するまでは、「疑い」に過ぎず、本当にそうなのかどうか、明らかにはされていないのですが、主犯者に対して、早くも「稀代の鬼女」という週刊誌などの見出しが飛び交っています。私たちはマスコミ報道だけで、「稀代の鬼女」という評価を受け入れてしまっています。こわいことです。

 おりしも、以前のマスコミ報道では「東電女子社員殺人事件」の犯人として極悪人扱いだったゴビンタ・マイナリさんの無実確定の報道があり、また、パソコンによる犯罪で逮捕された人々4人について、誤認逮捕であったことを警察が謝罪しました。
 罪と罰。そう簡単に人の罪を裁けないことはわかっているのですが、何か事件が報道されると、私たちは、「悪い奴」を心の中で袋だたきにして溜飲を下げるようなことをしてしまいがちです。その人がどういう考えの持ち主でどういう性格だったかなんてこともおかまいなしに、ただ、大罪人というレッテルを張ってそれでよしとする。

 近代小説の中に、ピカレスクロマンという分野があります。日本語にすると、悪漢小説や悪漢譚、悪者小説。
 ピカレスク、元はスペイン語の「picaresca」からきているそうで、スペイン語のもともとの「ピカロ」(picaro)は、「悪者、悪漢、悪党、ならず者、ごろつき」といった意味あいで、小説の中では、ユダヤ系だったり娼婦を母とするなど、社会のなかで通常では上層に這い上がることを拒絶された環境に生まれた者をさします。

 ピカレスクロマン、ピカレスク小説は、社会の下層に位置する主人公が、恋やら冒険やらを重ねながらのし上がっていく過程を物語る小説。下層の者がのし上がるには、悪事犯罪も辞せずということが、実際には犯罪に手を染めることなどとてもできないフツーの庶民には喝采を受ける要素なのでしょう。
 
 日本に輸入されたピカレスクは、悪漢、ごろつきがそのまま主人公になる小説は好まれないようで、人気だったのは、石川五右衛門だったり鼠小僧次郎吉など、義賊というたぐい。日本的に「巨悪vs正義としての悪」に変形するなど、欧米のピカレスクとは傾向がことなるようです。また、猪瀬直樹が太宰治を主人公にした評伝に『ピカレスク』とタイトルをつけるなど、「日本的ピカレスク」というものがあるなら、主人公は、「悪漢」というより、「人間の中に潜む悪を自覚する者」というような意味合いかもしれません。

 悪漢映画、ピカレスクロマンも、日本と欧米では少々感覚がことなる部分があるでしょう。以下、「殺人者」を主人公にした映画、『赤と黒』『大陽がいっぱい』『悪人』について。

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ひょっとして~ (まっき~)
2012-11-07 20:25:41
連載が途切れる形なので、まちがいアップかもしれないけれど・・・
映画の話なので、どうしてもコメントしたくて敢えて。

殺人者のシナリオを改稿中なので、あらゆるキラームービーを観る日々。
確かに、かばいたくなりますよねリプリーは。

『悪人』は、深津ちゃんの孤独のほうが真に迫っていました。ケーキひとりで喰うところ、自転車ひとりで漕ぐところ。


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HALより
殺人者が出てくるシナリオ、楽しみです。

<つづく>

もんじゃ(文蛇)の足跡:
東京都知事選挙、候補者のひとり、太宰治を描いた『ピカレスク』という本をだしています。彼の支持者かと思われるのも業腹なので、付け足しておきます。私は、「反原発」を明言している人に投票します。すなわち、『ピカレスク』の著者には投票しません。
コメント (6)
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