春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「よしこちゃんの事故」

2013-04-13 00:00:01 | エッセイ、コラム
2012/04/13
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>花供養(3)よしこちゃんの事故

 知り合いのよしこちゃんが亡くなりました。事故のニュースを聞いても、それが私の知っているヨシコちゃんのことだとはまったく気づかずにいました。それほど、「死」とは縁遠い、元気いっぱいの人でした。
 私は、フルネームはうろ覚えで、「よしこ」というダンサーネームを呼んでいただけでしたから、「舞浜、砂田芳子」というニュース報道を聞いても、ピンとこなかったのです。

 知り合いといっても、親しくつきあっていたわけではありません。
 私たちのジャズダンスの先生は、水曜昼と木曜夜と金曜夜にジャズダンスグループの指導をしています。火曜日は個人レッスン。
 私が所属しているのは金曜夜のグループです。水曜昼のグループ、前はメンバーでしたが、今は夏休み春休みに参加するだけのゲスト会員です。
 そしてよしこちゃんが所属する木曜夜のグループの人とは、春と秋の発表会のときに見にいって応援する、打ち上げ会でお話しする、というだけの淡いおつきあいでした。

 よしこちゃんは、ダンス公演打ち上げ会のときなどに、モトクロスライダーであることとか、アドベンチャーレースに出場するとか、世界中への一人旅の話とか、「冒険女」の愉快なお話を聞かせてくれました。
 すごい人がいるなあと思い、尊敬のまなざしで見つめる、そんな程度の「知り合い」でした。

 よしこちゃんは、アドベンチャーレースという競技の女性選手で、2010年のマウンテンバイクオリエンテーションの日本代表選手にも選ばれたアスリートでした。ダンス仲間にとっては、踊っている姿が目に焼き付いていますが、アドベンチャーレースの知り合いにとっては、日本のアドベンチャーレースを牽引する有力女性選手でした。

 アドベンチャーレースは、オリエンテーリングを伴うトレッキング・マウンテンバイク・パドリング・ロープワークなどの種目にチームや個人で取り組み、スタートからゴールまで、夜間行動もある3日以上の超長距離レースです。カヌーもチーム種目に含まれます。

 ジャズダンスの先生にはとてもショックな事故だったのだと思います。2月22日の練習が終わったあと、28日の練習開始前、、2度にわたって、ヨシコちゃん事故のお話をされました。愛弟子の死去、先生の悲しみが伝わりました。

 事故のようすのニュース報道です。(<共同2013/2/17)
 16日朝、千葉県浦安市の境川から男女2人がカヌー2艇で東京湾にこぎ出したまま戻らず、17日午前、対岸にある千葉県市原市の海岸で遺体で見つかった。
 県警によると、2人は東京都足立区竹の塚2、会社員、芝田敏仁さん(47)と、千葉県浦安市舞浜2、アルバイト、砂田芳子さん(38)。
 2人ともライフジャケットを身に着けており、芝田さんは護岸から10メートル付近を漂流、砂田さんは消波ブロックに引っ掛かっていた。カヌー2艇は17日未明、千葉県袖ケ浦市の護岸付近で見つかった。1艇は真ん中で二つに大破していた。県警で死因を調べている。
 銚子地方気象台(千葉県銚子市)によると、16日は千葉県北西部に強風波浪注意報が出ていた。
 県警などによると、カヌーは浦安市カヌー協会の所有で、2人は会員だった。協会関係者が16日朝、2人が海にこぎ出すのを見ていた。同日夜、砂田さんの母親が「朝、娘がカヌーをしに出掛けたまま戻らない」と110番した。
 千葉県カヌー協会によると、砂田さんはカヌーの全国大会出場経験もあるという
。〔共同〕

 3月6日に、水曜日の練習後のランチ会で、よしこちゃん事故その後の話を聞きました。この事故の報道のあと、ネットには、事故バッシングが吹き荒れました。「カヌー練習中止の要請があったのに、こぎ出していったのは、自業自得」「荒れた海に出て行ったのは、死にたかったのだろう」などなど、よしこちゃんを知りもしない人たちが勝手なバッシングを続けました。

 よしこちゃんのお母さんは、80歳をすぎた高齢者。娘が先立ってしまったことだけでもショックなのに、無責任なバッシングが娘のブログやfacebookのコメント欄に押し寄せたということを知って、いっそうの絶望に落ち入り、悲しみから立ち上がれなくなっている、というのです。

 よしこちゃんを知っている人は、彼女が自分を律する自制心も持ち合わせ、十分な訓練も積んできた人であることを理解し、それでもこのような事故に遭ってしまったことを残念に思い、彼女を悼んでいます。

アドベンチャーレースチーム「Real Discovery」の見解
http://realdiscovery-geoquest.blogspot.jp/2013/02/blog-post.html

 ニュースの中の人を直接知らないのであるなら、報道のみを鵜呑みにして無責任な言動を書き散らすな、と言いたい。
 
 ニュースが流れたとき、さまざまな感想を持つのは、人の心の自由です。しかし、それを他者に公表するとき、大きな責任が生ずることも承知の上でネットUPしてほしい。ただ無責任な感想を垂れ流すのは、大本営発表を鵜呑みにして報道ともいえない報道を続けた新聞社と同じ。戦争に勝っていると発表されれば「皇国大勝利」と書き、原発絶対安全と発表されれば、「原発は安全」と書き続けた、ことばを文字にする資格のない人間のやること。

 なんの反論もできない人を批判するのは、弱い者イジメの典型です。このような批判しかできない人は、権力を持った人にたちしては、へつらい、権力にすり寄るような人なのだと推測する。そうでないと言いたいなら、力を持たぬ人へではなく、権力者を批判する文を書いてUPしなさい。
 
 私も、ブログに書くことと書いたことを中心にして仲間とことばを交わし合えることを喜びとしている者のひとりです。
 公人として世に出ているひとは、公人として活動する分野に関しては、あらゆる責任をとる決意をし、批判を受け止める覚悟をした人である、と私は解釈しています。根拠のある批判ならどんどんしてよろしい。たとえば、東電の社長が、公人として東電の事故の批判を受けるのは当然のことと考えます。

 しかし、私人である人について、直接の知り合いでもない人が書くときは、報道以上の事柄についてきちんと調べを尽くして感想を書くのは当然のことでしょう。直接知らない人について、一般報道のみを読んで書くのであるなら、無責任とのそしりを受けても仕方がない。

 中東の紛争地区で人質になった方が、処刑されてしまった事件がありました。あのときも「自己責任論」が無批判に垂れ流され、ご家族の心を傷つけました。
 ひとりの人の死は、周囲の多くの人の心に影響します。人の死を話題にしたいブログの書き手に、どうぞ、人の心を玩ばないで、人の死に対して厳粛に受け止めてほしいと願っています。
 このような願いが届く人々ではないのかも知れませんが、どうぞ、人を傷つけるような無責任な記述はしないでください、お願いします、としか、今の私には言えません。

 北極南極探検が盛んなころ、極地探検に出かけた探検家の多くが命を失いました。冒険家の植村直己は、マッキンリー世界初の厳冬期単独登頂後に行方不明となりました。彼らに「そんな危険な場所に出かけたのは、自己責任だから死んでも当然」と言い放てる人がいるでしょうか。彼らがやむにやまれぬ挑戦する魂を持ち、十分な準備をして出かけたことを、押しとどめることはできません。彼らは挑戦者なのです。

 よしこちゃんは、アドベンチャーレースの挑戦者として、カヌーの元国体選手として、レースの現地では当然ゆきあうであろう3mの高さの波を想定して、その訓練をしておかなければならないと判断した。決意して挑戦したのであったなら、私は、その挑戦を「制止の中、出て行ったのだから死んで当然」などと死者にむち打つことはできないと考える。挑戦して、結果的に敗れたしまったことを残念に思い、挑戦者の魂に手を合わせるのみ。
 
 2月の事故の日から2ヶ月ちかくがすぎました。遠くかなたの世界で冒険を続けていることでしょう。あなたの溌剌とした姿を、忘れないでいます。
 よしこちゃん、どうぞ安らかに。

花芥散り敷く水面の水の輪に漕ぎ出る命よ遙か目指して


<おわり>
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする